海外子会社との取引に要注意<税理士のヒヤリ・ハット体験談 第15回>

税理士法人 古田土会計 社員税理士
土田大輝

2021/9/30

第15回 海外子会社との取引に要注意!

 
税務当局の年度は、7月から始まり6月で年度末を迎えます。今年度は新型コロナウイルスの影響で、税務調査の立会いはほとんどありませんでした。国税庁の発表ベースでは法人税の調査件数は約20%の減少とのことですが、我々としては80%減くらいの感覚です。来年度はどのような税務調査事情になるのでしょうか。感染状況によって対応せざるを得ない調査官の気持ちも、非常にもどかしいものと察します。
 
ここ数年、我々が対応する中小企業の税務調査において、一つの特徴的な傾向があります。『海外子会社に対する取引』に対する調査です。中小(特に製造業)において、タイやベトナムといった外国に生産拠点を求めて、子会社を設立する動きが近年盛んです。その海外子会社に対して、『取引』をはじめとして、こんなことまで課税の対象なのかと疑いたくなるような指摘が、我々を悩ませます。
 
 
【第1次フェーズ】子会社立ち上げ、技術指導員の派遣
子会社そして新工場の立ち上げは、日本においても一大行事。親会社からの支援がその成功のカギと言えます。ましてや、初めて足を踏み入れる外国での工場立ち上げともなれば、並々ならぬ支援が必要なことと考えられます。日本の親会社の製造責任者など、選りすぐりの技術者が子会社に派遣され、技術指導をしながら工場の機械を操業させていくこともしばしばです。
税務当局は、この親会社の技術者等の子会社への派遣に際して、
・滞在期間中の人件費
・渡航費用
について、親会社が負担している場合が多いことから、その費用の負担状況について、調査されます。
 
日本の親会社が負担していた場合に、親会社側としては、
「子会社がしっかり操業してもらうことによって、親会社の利益に貢献するわけだから、親会社の業務として子会社へ技術者を派遣している」
と反論するでしょう。
しかし、当局は『移転価格事務運営要領(事務運営指針)』に従って、これらの行為について移転価格税制又は国外関連者に対する寄附金として、課税(全額損金不算入)処理をする指摘してきます。
この人件費や渡航費用は、親会社がすべて負担していると、課税は逃れられないです。そうなると、子会社の収益力がまだ乏しい状況にもかかわらず、これらの費用負担を子会社にさせることで、日本の親会社で課税される。ここまで課税するかという感想を、親会社の経営者・幹部は口々に漏らします。
 
【移転価格税制とは?】
移転価格税制。新聞紙上で大企業が多額の課税を指摘される等、中小企業には縁が遠い税制かと思っていたのは一昔前。近年は中小企業においても、この課税を考えなければいけません。
この移転価格税制は、国外関連者(海外子会社等)との取引において、その価格等が独立企業間価格として適正額になっているかどうかが、税務上判断されます。例えば海外子会社への輸出において価格が過少に設定されており、最終的な商品の販売利益を海外に移転させていないかどうか。という視点で、当局と大企業たちが争ってきた歴史があります。
この移転価格税制を全国の税務当局で円滑に調査できるように、国税庁は事務運営指針として『移転価格事務運営要領』を平成13年に制定し、毎年のように改正を踏みながら運用されています。
 
 
【第2次フェーズ:親子ローンの金利負担】
子会社の立ち上げ時期が過ぎると、人的支援は必要なくなることが多いです。その後の第2次フェーズで指摘されるのが、いわゆる親子ローンに対する金利負担です。
日本の国内金融状況は非常に低金利となっており、財務内容が良い会社に対しては、年利1%を切るような低金利で融資する金融機関もあるようです。
その融資を受けた親会社が子会社に対して資金を貸付けするときに、日本での調達金利に近い条件で貸し付けると、税務当局は「待った」をかけてきます。
つまり、海外子会社が現地で調達する場合の金利が、税務上適正な金利であると指摘します。その現地で調達する金利の方が高金利であることがほとんどで、親会社としては、そこまで高い金利を得る必要が無いにもかかわらず、高い金利との差額が課税されます。これも、まさかここまで課税するかといった印象を、多くの経営者・幹部が抱きます。
 
 
【第3次フェーズ:ロイヤリティに対する課税】
子会社の操業が安定化し、親会社以外との間で独自に販路を拡大していくフェーズになりました。移転価格税制において課題となることは、親会社の特許権や製造ノウハウを子会社が使用していることについて、適正な対価の授受が伴っているかどうか。です。ある技術が子会社独自のものなのか、親会社に帰属している特許やノウハウなのか。無形資産に対する課税になりますので、その見極めを慎重にする必要があります。
 
 
【想定外のフェーズ:海外子会社撤退】
海外子会社が思うように展開できず、撤退に至る場合においても、税務の問題を無視することはできません。親会社としては子会社に対して有する債権について、回収不能ということから貸倒処理を検討することと思います。また撤退に要する現地諸費用について、親会社が負担するということもあるかもしれません。
貸倒処理については、それが寄附金と認定されると全額が損金不算入となり、撤退に要する費用についても同様になります。良かれと思って親会社が負担したとして、それが課税対象となる可能性もあることから、慎重に検討する必要があります。
 
 
これらのフェーズごとに、その移転価格税制における視点をとりあげました。
「仮に第三者との取引だとしたら、同じような取引をするか」
これが、全てのポイントになるのだと考えます。これは海外子会社に対してだけでなく、日本の関係会社や同族役員等に対してにも通じます。
 ヒヤリハット回避の基本は、これですね。

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