銀行融資支援スキルが顧問税理士に求められるわけ

諸留誕税理士事務所 所長・税理士
諸留 誕

税理士にとって、銀行融資支援は、顧問先における事業の持続・成長に影響を与える重要な分野だと考えます。ですが、その関わり方しだいでは、思わぬ落とし穴に陥る可能性もあります。本稿では、効果的な銀行融資支援の方法と、税理士が避けるべき関わり方などを解説します。

1. 銀行融資支援の重要性

顧問先の財務状況を知る税理士は、融資支援を提供できる理想的な立場にあるといってよいでしょう。この役割を効果的に果たすことで、顧問先の事業成長や経営改善に貢献することができます。しかし、その関わり方には注意が必要です。

そのうえで、適切な融資支援は、顧問先の資金繰りを改善し、事業の安定性を高めるだけでなく、新規投資や事業拡大のチャンスをつくることにもつながります。さらに、銀行との良好な関係づくりは、将来的な融資条件の改善や、緊急時の融資支援獲得にも役立つところです。

2. 避けるべき3つの関わり方

ブン投げ式紹介

顧問先から融資の相談を受けた際、単に銀行を紹介するだけ(=ブン投げ)の税理士がいます。が、顧問先の状況を十分に分析し、融資の可能性を事前に評価することが重要です。業績が悪すぎる会社を紹介することは、銀行にとって「ありがた迷惑」にもなるでしょう。この関わり方の問題点は、顧問先のニーズや状況をよく考慮せずに、単に紹介するだけで責任を果たしたと考えてしまうことです。結果として、顧問先は適切な支援を受けられず、融資獲得の機会を逃す可能性が高まります。

完全なる無関与

融資への関与を避ける税理士がいます。それはそれで1つの方針ですが、知らず知らずのうちに顧問先に損をさせている可能性があります。たとえば、決算書や試算表。経理処理や表示方法によっては、同じ会社でも利益その他の金額が変わることがあり、結果として融資の受けやすさに影響を与えることはあるものです。また、顧問先が銀行融資に関する重要な情報や機会を見逃すことから、不利な条件での融資契約や、融資申し込みの却下といった問題が生じる可能性があります。

過度な関与

逆に、税理士が関与しすぎるケースもあります。たとえば、銀行との面談で、社長よりも税理士が前面に出すぎると、銀行からは嫌がられてしまうでしょう。銀行にとってのお客さまは、税理士ではなく会社です。また、資金繰り表の作成を税理士が継続して代行することで、顧問先が自身で作成できるようにならない…というのも長期的に見ればよくありません。過度な関与は、短期的には顧問先の負担を軽減するように見えますが、長期的には顧問先の財務能力の向上を妨げ、自立的な財務を阻害する可能性があります。

3. 効果的な支援方法

効果的な銀行融資支援を行うためには、以下のような関わり方が重要です。

  • 顧問先の財務状況を分析し、融資の可能性を事前に評価する
  • 融資審査で不利益を被らない経理処理や表示方法をアドバイスする
  • 銀行とのコミュニケーションにおける適切な役割分担を行う
  • 顧問先の自立を促す段階的なサポートを提供する

たとえば、銀行との面談時には顧問先との役割分担を明確にし、会社の方向性や取り組みは社長が説明し、細かい数字の内容や税務・会計面での専門的な説明は税理士が行うというのが効果的です。

また、資金繰り表の作成など、初めは税理士が代行していたとしても、徐々に顧問先自身が理解し、作成できるようになるよう支援することが重要です。このような段階的なアプローチにより、顧問先の自立を促しつつ、長期的な信頼関係を築くことができます。

4. 税理士のスキルアップの重要性

税理士が銀行融資支援のスキルを向上させることで、以下のような利点があります。

  • 融資獲得に効果的な書類作成能力が向上する
  • 銀行の融資審査における考え方を把握できる
  • 顧問先とのコミュニケーションが深まる(資金繰りは社長にとって一番の課題)
  • 顧問先の事業が安定することで、税理士の事業も安定する

税理士がスキルを磨くことで、顧問先にとってより価値あるサービスを提供することができ、結果として税理士としての競争力も高まります。銀行融資支援は、持続可能性があるサービス提供といえるでしょう。

初歩的なスキルアップの方法としては、セミナーへの参加、専門書による学習などが挙げられます。何より、実際の融資案件に関わり、経験を積むことも非常に有効です。その際、金融機関の融資担当者との情報交換も、スキルアップに役立ちます。

5. まとめ

効果的な銀行融資支援は、顧問先からの信頼に繋がり、長期的な関係を築くうえで役立ちます。適切な関わり方によって、顧問先の状況に応じた支援を行うことで、顧問先の成長に貢献することが可能です。ひいては、税理士自身の強みや競争力につながります。

いっぽうで、関わり方を誤り、気づかぬうちに顧問先に損をさせていた…というケースは少なくありません。だとすれば、少なくとも「銀行融資の基本的な考え方」は押さえておくのがよいでしょう。いずれにせよ、銀行融資が顧問先の資金繰りに欠かせないものであるだけに、税理士はスキルアップに努めましょう。

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諸留 誕

諸留誕税理士事務所 所長・税理士
大学卒業後、複数の税理士事務所・税理士法人を経て、2016年に開業。 「資金繰りの悩みから1人でも多くの社長を解放したい」との思いから“銀行融資専門税理士”を掲げ、 主に中小企業・個人事業主の財務支援を行っている。銀行融資プランナー協会正会員。 開業以来毎日更新のブログ(3,000記事超、うち半数は銀行融資関連)をはじめ、 YouTube、メルマガ・stand.fm、セミナー等を通じ情報発信を行っている。 『税理士必携 顧問先の銀行融資支援スキル 実装ハンドブック』(株式会社日本法令、2024年)、 『十人十色の「ひとり税理士」という生き方』(大蔵財務協会、2018)、 『無借金経営を目指す社長に読んでほしい銀行融資の本』(Kindle)、 専門誌への寄稿など執筆多数。

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