解雇が認められるための要件(知って得する法律相談所 第14回)
弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英
2021/7/16
はじめに
厚生労働省が今年3月に公表した調査によれば、コロナ禍で失職あるいは職を失う見込みの方は9万人を超えることが分かりました。
また、この時期は、新入社員の人事査定など、人事業務が最も活発になる時期でもあります。
その中でも、人事が最も頭を悩ます問題が「解雇」です。ひとくちに解雇といっても、3種類あり、それぞれ解雇が認められるための要件が異なります。
そこで今回は、解雇の種類について、弁護士が分かりやすく説明します。
(1)通常解雇
通常解雇とは、病気などやむを得ない理由で業務が遂行できない場合、会社側(使用者側)が労働者との雇用契約を一方的に打ち切る手続きのことをいいます。普通解雇とも呼ばれます。
ただし、無条件に解雇ができるわけではなく、労働基準法などの法律により解雇は制限されています。たとえば、下記の理由にもとづく解雇は、法律上明確に禁止されています。
・労働基準監督署への申告を理由とする解雇
・育児休暇や介護休暇の取得を理由とする解雇
・女性であることを理由とする解雇
・労災で休業中と休業後復帰して30日間以内の解雇
・国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇
・(正当な)労働組合の活動を理由とする解雇
また、後述する懲戒解雇を除いて、30日前の予告あるいは30日分の予告手当の支給が必要になります。
そして、通常解雇が認められるには、次の2つの要件を満たすことが必要です。
①社会通念上相当であるか(解雇以外に状況を打開する方法はないのか)
②客観的に合理的な理由があるか
なお、通常解雇が認められた具体例としては、次のようなものがあります。
・業務成績が著しく悪く、度重なる教育後も改善が認められない場合
・業務に支障が出るほどの経歴詐称を行っていた場合
・ケガや病気で、業務復帰の可能性が著しく低い場合
(2)懲戒解雇
従業員(労働者)に非行行為や悪質な行為があった際に行う処分のことを懲戒処分といいます。
主な懲戒事由としては、業務命令違反や、就業規則違反、業務外の行為などが挙げられます。
そして、一般的に、懲戒処分には下記の4種類があり、懲戒解雇は最も重い処分となります。
①けん責、戒告
違法行為をした労働者に注意をする処分で、始末書の提出を求める場合もあります。
②減給
1回の額は1日の平均給与の半分以内で、総額はその月の総額の10分の1以下でなければなりません。
③出勤停止、降格
一定期間の就労を禁止したり(その間は無賃金)、役職がある場合は、降格処分を下したりします。
④諭旨退職(ゆしたいしょく)
自主的に退職を促す制度のことです。
⑤懲戒解雇
解雇予告や予告手当なしに即時行われることも多く、退職金が支払われないことも多いです。
懲戒解雇も含む懲戒処分の大きな特徴は、就業規則や労働契約書などに、懲戒処分の具体的な内容が記載されていなければならないということです。
つまり、
・就業規則や労働契約書に記載のない懲戒処分は行うことができない
・軽微な違法行為に対して不当に重い処分をすることはできない
・同じ違法行為に際し、労働者によって処分に差をつけることは許されない
といった、特徴があります。
懲戒解雇は、懲戒処分の中でも最も大きな処分事由です。懲戒解雇が認められた具体例としては、次のようなものがあります。
・金銭や会社の備品の窃盗や横領など刑法上の罪が成立する場合
・(強制わいせつ罪に該当するような)セクシャル・ハラスメント行為
・度重なる遅刻や欠勤があり、数回の指導があったにもかかわらず是正されない場合
・会社の名誉を著しく低下させる行為
(4)整理解雇
整理解雇とは、会社の経営が傾いてきたなど、事業存続のために行う人員整理による解雇のことを指します。
通常解雇や懲戒解雇とは異なり、会社側に原因があるというのが特徴です。
会社が破綻するのを防ぐためとはいえ、整理解雇も無条件で認められるわけではありません。整理解雇が有効となるためには、原則的に下記の要件を満たさなければなりません。
①解雇の必要性
人員を削減し、人件費を見直す必要がある状態などの経営不振に陥っている場合がこれに該当します。
②解雇を回避するための努力の有無
時間外労働を中止させ、残業手当の削減に努めたり、希望退職者を募るあるいは、役員報酬を削減するなど、解雇以外にも会社の経営を改善させるための行為を行っているかが判断されます。
③解雇者選定の正当性
解雇対象者の選定を客観的・合理的に選定したかということです。たとえば、恣意的に選んだのではなく、業務成績などを考慮して解雇対象者を選定した場合などです。
④解雇手続きの正当性
解雇対象者との間に、十分な説明や交渉が行われていたかも重要になります。また、労働組合がある場合、労働組合との間にも、十分な説明や交渉が行われていたかも重要な要素になります。
さらに、解雇をする場合、解雇対象者に対し、解雇の30日以上前に解雇の予告をするか、30日分以上の賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないのは、通常解雇と同様です。
まとめ
これまで紹介した手続きを踏まずに、抜き打ち的な解雇を行うことは「不当解雇」であると判断される危険性があります。
たとえば、整理解雇で、一部の従業員が解雇されたにも関わらず、役員報酬が以前と変わっていなかったとか、新しい従業員の採用活動を行っていた場合には、解雇が無効となる可能性があります。
は解雇が無効と判断されます。
もしも、その事実が公になった場合、企業としても大きなイメージ・ダウンにつながるでしょう。
解雇すべきかどうか迷われた場合は、弁護士や社会保険労務士など労務問題の専門家に相談し、会社を守るために、適正な手続きを踏むようにしましょう。