経歴詐称やセクハラなら解雇は許されるのか?(知って得する法律相談所 第15回)

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2021/7/18

はじめに
前回のコラムでは、解雇には通常解雇、懲戒解雇、整理解雇の3種類があり、それぞれ、法律や就業規則で制限があることや、様々な要件があることをお伝えしました。
 
しかし、一口で解雇といっても、解雇の原因となる事由はケースバイケースです。たとえ、法律や就業規則に反していないとしても、解雇権の濫用と解される解雇は許されません。
そもそも、労働契約法には、次のように記されており、解雇権の濫用を禁じています。
 

労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

ただし、いかなる事由が、上記条文が掲げる「社会通念上相当である」に該当するかは、個別具体的に判断していかなければなりません。
 そこで今回は、解雇が認められるケースについて、具体例もあげながら弁護士が解説します。
  

(1)能力・成績不足なら解雇は許されるのか?
判例の傾向として、労働者の能力あるいは成績が著しく悪い場合、解雇に先立ち、研修などの機会を与えたにもかかわらず改善が見られない場合には、解雇を有効とする傾向にあります。
また、新卒者より、特別なスキルや能力、役割を期待して採用した中途採用者の方が、解雇が認められやすい傾向にあります。
 
ただし、確かに、能力不足は解雇事由には該当しますが、「著しく」能力不足でなければなりません。
人事考課の3回の結果が、いずれも下位10%未満の順位であった労働者に対し能力不足とした解雇が認められなかった事件があります(セガ・エンタープライゼス事件、東京地方裁判所平成11年10月15日決定)。
 
また、単なる能力不足だけではなく、企業の経営や運営に支障や損害を生じる恐れがあることも考慮すべきとした裁判例もあります(エース損害保険事件、東京地方裁判所平成13年8月10日決定)。
 
ほとんどの裁判例においては、対象者の能力不足の改善のために、社内教育や研修、配置転換などの機会を与えたにもかかわらず、改善が見られなかったという点が重要視されます。
従って、能力不足を理由とする解雇が認められるかについては正社員、特に、新卒者の場合については厳格な要件が要求されます。
 
一方で、即戦力として期待される中途採用者については、募集要項あるいは採用時に聴取した能力が、期待された能力であったかを解雇無効の可否の判断基準としている裁判例が多くあります(人事本部長として期待され、中途採用した人物に対し、能力不足を理由として、採用して半年後の解雇が認められたフォード自動車事件、東京地方裁判所昭和57年2月25日判決など)。
 
しかし、中途採用の場合でも、紛争予防のためという観点から、実際に期待された能力を有しているかの確認期間として、試用期間を設けるべきといえるでしょう。
 
(2)遅刻・欠勤があれば解雇は許されるのか?
では、度重なる遅刻や欠勤による解雇は認められるのでしょうか。
ほとんど多くの企業で、就業規則の中に、「勤務状況が著しく悪く、また、改善の見込みがないとき」などと、遅刻あるいは欠勤による懲戒解雇が認められる規定を置いています。
 
また、雇用者と従業員間の労働契約という観点からも、遅刻や欠勤が多い場合、本来勤務しなければならない日数や時間を勤務できず、従業員の雇用者に対する労務提供義務を履行できないということになり、民法上の債務不履行が成立します。
 
従って、理論上は、労働者の遅刻や欠勤といった勤怠不良を理由とした解雇が認められそうです。
 
しかし、判例は、遅刻や欠勤の程度(常態化しているかなど)や、故意によるものか、遅刻や欠勤が業務に与えた影響、該当者の反省の有無と勤務態度といった、さまざまな要素を検討する必要があるとしています。
 
事実、アナウンサーが宿直勤務の間、2週間の間に2回寝坊した為、2回にわたり定時番組の放送ができなかったため、アナウンサーの解雇を求めたが、解雇が認められなかった裁判例(高知放送事件、最高裁昭和52年1月31日判決)があります。
 
裁判例においては、遅刻・欠勤を繰り返す従業員がいたとしても、直ちに解雇ができるわけではなく、使用者側が遅刻や欠勤の度に、注意や指導を行っていたかといった使用者側の対応も重要視しています。
 
従って、遅刻や欠勤を繰り返す従業員に対しては、たとえ就業規則の中に解雇事由に挙げられているとはいえ、遅刻や欠勤の度に事情聴取や注意・指導を行うことが求められるでしょう。
 
 
(3)経歴詐称やセクハラなら解雇は許されるのか?
履歴書などに記載した事柄が事実と異なる場合は、解雇は正当化されるのでしょうか。
 
判例によれば、虚偽の申告内容や程度が重大なものであり、今後の業務に支障が出るか否かを判断基準としています。
国籍を隠していたことを理由とした採用内定取り消しが無効と判断された事件(日立製作所事件、横浜地方裁判所昭和49年6月19日判決)があります。
 
では、セクハラはどうでしょうか。セクハラ行為を行ったことを理由とする解雇が有効であるかについては、強制わいせつ罪が成立するかという要素が最も重要視されます。
強制わいせつ罪が成立するようであれば、解雇が成立する可能性が高くなります。
 
また、身体的接触があったかが重要視される判例が多く見受けられます。それ以外にもセクハラが行われた状況や、当事者の地位や立場などを総合的に判断して解雇が有効であるかを検討する必要があります(富士通エフサス事件、東京地方裁判所平成22年12月27日判決)。
 
 
(4)まとめ
これまで紹介した事例以外にも「社会通念上相当である」として解雇が認められるかについては、
・今後の事業に影響が出るか
・実際に会社に損害が発生しているか
・是正される可能性はあるか
といった要素を総合的に考慮して判断していくことになります。
 
解雇が認められるか否かについては、想像以上に認められないケースの方が多いかもしれません。解雇が正当化されるために、いくつかの過程を経なければならないこともあります。
 
解雇すべきかどうか迷われた場合は、会社を守るために、早めに弁護士や社会保険労務士など労務問題の専門家に相談し、適正な手続きを行うようにしましょう。

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