ついにステマに対する措置命令がでました<ネット時代に必要な企業防衛の極意vol.25>
昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.129(2024.7)に掲載されたものです。
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生
一見して広告と分からない形式で行う広告手法を「ステルスマーケティング」(ステマ)と呼びますが、このような広告手法は景品表示法第5条第3号に基づく不当表示として2023年10月1日から違法になっています。なお、規制対象の定義は「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」です。
違反行為に対しては措置命令として、違反表示の差し止めが命じられ、また違反事実も事業者名とともに公表されます。
昨年の規制開始後、第一号の措置命令が2024年6月6日付で発令され、公表されました。
第一号の措置命令の対象となったのは、クリニックのGoogleマップに投稿されたクチコミです。Googleマップには、誰でも5段階の星評価とともにクチコミを投稿できる機能がありますが、その機能を利用して投稿された☆5と☆4の好意的な評価などがステマに当たるとして措置命令が発出されました。
一般の消費者や患者が、自主的にクチコミや評点を投稿するのは全く問題ないのですが、この事例ではインフルエンザワクチン接種のためにクリニックに来院した患者に対し、Googleマップのクリニックの評価として☆5または☆4の投稿をすることを条件にインフルエンザワクチン接種費用の割引を行うことを伝えて、実際に☆5または☆4の評点を投稿させたことを理由にステマであると判断されました。一般消費者から見れば、匿名の高評価が多数投稿されているように見えますが、割引という経済的な利益を与えて、☆5または☆4という具体的な内容も指定したうえで第三者に投稿させていますので、この投稿は事業者による広告であると判断された形です。公表された措置命令の内容を見ますと、星だけの投稿が非常に多数投稿されていたことが確認できます。
さて、今回の措置命令の事例のように、クチコミや投稿を顧客にお願いすることでサービスをするということは、広く行われているマーケティング手法です。今回の事例が問題だったのは、投稿の内容を☆5または☆4と具体的に指定してしまった点にあります。表示の内容を事業者が決定してしまっている点が問題です。評点を指定せず、単純にクチコミ投稿で割引とだけであれば、措置命令の対象にはならなかったものと思われます。わざわざ内容を指定しなくとも割引の条件であれば良い評価を投稿してくれると思うのですが。
なお、措置命令を担当する消費者庁が、クリニックのGoogleマップをいちいち見ているのは驚きでした(通報があったのかもしれませんが)。大手や目立つことをやっていなくても摘発されるということです。他人事とは思わず広告手法には注意が必要です。
中澤 佑一
なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。