新規事業を創造するための多様なパートナーシップ<中小中堅企業のためのSDGs実践編Vol.4>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長
情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2021/7/18
このコラムでは、SDGsビジネスの第一人者である平本督太郎先生が、国際社会の共通目標である「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」について中小・中堅企業の【実践編】として戦略策定の考え方や事例をわかりやすくご説明します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.95(2021.9)に掲載されたものです。
「社会変化で機会を掴む」ための企業戦略で新規事業を創造する③
前回、指数関数的成長を実現することの最も難しい点は、いつ種を蒔いてよいのか、いつ芽が出るのかが、読めない点にあることをお伝えしました。実際、計画的に物事を進めようとすると、無理な力がかかり、社会変革を阻害してしまいかねません。計画的に進めてはいけない点が、年度で管理され計画的な経営との相性が悪い点です。それでは、この点について経営者である阪口社長はどうしているのでしょうか?
実は、複数の地域で田起こしをすれば問題は解決します。色々な場所で異なる種を蒔いていれば、いつもどこかで芽が出ます。経営的に言えば、ポートフォリオを組むということになりますが、SDGsの観点から言えば、多様なパートナーシップを形成するということになります。多様なパートナーシップが、社会変革と経営との橋渡しをしてくれるのです。
しかしながら、多様なパートナーシップの形成は非常に時間もコストも掛かって難しいように見えます。まさに、それがSDGsに関心はあるが何をしたらよいかわからない企業と、次々と新規事業を生み出し社会変容を促している企業を隔てる壁なのだと思います。
解決策は、「やるかやらないか」の壁を突破することです。阪口社長のように取り組むことは、最初は大変なのですが最初の一つが成功すると、状況が大きく変わります。成功した様子を見て地域の人々は更に「何か出来ないか?」と考えるようになりますし、近隣の地域の人々も自分たちにも出来るのではないか?と考え、相談してくるようになります。また、日本全国でその成功例を知った人々から「自分も同じようにやりたい」、「こんな問題を抱えているんだけど、どうしたら良い?」、「こんな素材があるんだけど、なにか使えない?」という様々な新規事業のきっかけとなりうる情報が集まってくるようになります。(下図参照)
これは心理学者アルバート・バンデューラが提唱する社会的学習理論における自己効力感のうち、「自分と似た境遇のあの人も出来たのだから、自分でもきっと出来る」という代理経験が働くからです。MDGsでは、社会変革のために必要な要素として、ロールモデルの創出による行動変容と表現されていました。
ヒト・モノ・カネ・情報が集まりやすい状況になると、あとはそれをうまく組み合わせれば良いという状況が生まれやすくなります。もちろん、全ての取り組みがうまくいくわけではなく、実際に田起こししてみないとわからないという状況は多々あります。うまくいかないことはうまくいかないとスパッとやめることも大事です。どこかで無理やり巻き込まれたステークホルダーがいて、その人抜きでは物事が進まないということであれば、それは進める内容やタイミングを大きく変える必要があるということなのです。この判断力も、最初の取り組む中で、ステークホルダーとしっかり向き合うことができていれば、自然と養われていることでしょう。
新規事業を創造するための多様なパートナーシップを形成するためにも、まずは一つの地域、一人の人間としっかりと向き合うことから始めることが大事なのです。
次回は、「②既存事業の拡張」に注目します。