取引金融機関ごとの借入残高推移を注視<銀行員が教える!企業決算書はこう見ている Vol.4>

井村 清志

2021/7/18

借入金については、まず水準がどの程度かということです。下記の貸借対照表(負債の部と純資産の部を抜粋したも の)でいいますと、短期借入金と長期借入金の合計額は今期の時点で72,025千円となっています。





仮にこの会社の年商が5億円であったとすると、年商対比の総借入金の水準はおよそ14%です。この数字は決して多いとはいえません。金融機関も同様の考え方です 。

一方で、年商が1億円であった場合はどうでしょうか。年商対比の総借入金の水準はおよそ72%となります。事業内容によっても異なりますが、不動産賃貸業等では なく製造業や小売業、卸売業、サービス業であれば、総借入金の72%というのは明らかに過大です。返済負担も重いと考えられますし、利息負担も大変でしょう。

取引金融機関ごとの借入残高推移を注視

金融機関は借入金について、決算書に添付されている勘定科目明細に記載されている取引金融機関ごとの借入残高推移を注視しています。

例えば、ある融資先から運転資金の相談を受けたとします。他の金融機関がここ数年、新規の融資を実行しておらず残高が減少している場合、なぜ融資を実行してい ないのかを気にします。業績が特段不芳でなければ、融資が増えないまでも残高がほぼ維持されていてもおかしくありません。

特に主力の金融機関の融資残高が減少傾向にある場合には、「何かネガティブなことがあるのか?」と疑心暗鬼になります。他の金融機関が融資残高を減らしていく 中で自行だけが融資を伸ばしている場合、自行の融資は運転資金ではなく他の金融機関の返済資金に回っているとも考えられます。

他の金融機関の動向は与信判断に重要な影響を及ぼす

また、他の金融機関が設備投資の資金を融資しているが運転資金の支援はしていない中で、自行に運転資金の申込がある場合を考えてみます。このケースの場合、設 備資金の返済が苦しいために、自行に運転資金と称して融資相談がされていることが考えられます。実際、よくある事例です。

この場合、自行はなぜ他の金融機関の設備資金借入の返済を補填しないといけないのかという判断になります。仮にそうであるならば融資はお断りし、融資を受けて いる金融機関に資金繰りの相談をするように対応することになるでしょう。

このように、他の金融機関の動向は与信判断に重要な影響を及ぼす材料となります。

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