事業に関わりの薄い資産は「雑資産」<銀行員が教える!企業決算書はこう見ている Vol.3>
井村 清志
2021/7/18
世間では、銀行に融資を申し込む場合、黒字かどうかが大切だとよくいわれています。黒字かどうかは損益計算書に 掲載されており、こうした情報は融資判断においては大切な要素です。しかし、銀行は損益計算書だけ見ているのではなく、貸借対照表など他の決算書類も当然見て います。貸借対照表においては、自己資本の状況や借入金の水準などいろいろな切り口で眺めていますが、今回は銀行が資産の部をどんな切り口で見ているかご案内 します。
事業に関わりの薄い資産は「雑資産」といわれている
貸借対照表の資産の部には文字通り、企業が保有する資産内容が記載されているわけですが、銀行は資産内容ということのほかにお金の使われ方という視点で見てい ます。借入金などで調達した資金をどのように使用しているのかを見ているのです。
次の貸借対照表をご覧ください。
貸借対照表
資産項目を見てみると、短期貸付金23,058千円、投資等合計105,149千円が目立ちます。両者の合計は128,207千円となり、総資産175,414千円のおよそ73%を占めています。短期貸付金や投資等は、一般的に事業には直接関わりの薄い項目です。関係会社株式は海外の生産会社など事業に必要不可欠な場合もありますが、投資した資 金を回収するには通常長期間を要します。
短期貸付金や投資等など事業に直接の関わりの薄い資産を、銀行では一般的に「雑資産」と呼んでいます。雑資産というのは本業への貢献度合いが小さく、かつ資金 を回収するまでに長期間を要する、あるいは回収不能なものであることが多いのではないでしょうか。資金を回収するまでに長時間を要するのであれば、資金繰りを 圧迫する大きな要因にもなりますし、実際資金繰りに苦しんでいるところも少なくありません。
返済可能性の低下が危惧される
銀行は、雑資産が多い先に対しては融資判断を慎重に行います。その理由は大きく2つあります。
まず1つ目は、先ほども触れたように資金繰りがタイトであるケースが多いことです。資金繰りがタイトであるということは融資の返済が苦しいことが想定されます 。当然のことながら、銀行は融資した資金を返済してもらわないといけません。融資の返済が苦しいと想定されるところには慎重な判断となるのです。
2つ目は、融資した資金が雑資産に投下されるのではないかという不安です。銀行の融資は事業に直接関わりのある用途に使用されることを前提としています。雑資 産が多いと、融資金も雑資産に投下されてしまうのではないかと考えるのです。そうするとますます資金繰りを圧迫してしまい、返済可能性の低下を危惧せざるを得 ないのです。
雑資産が多いと、スムーズな資金調達の足かせになってしまうことが少なくないのです。