「壁の向こうにある景色」
業界最先端を行くあさひ会計のDXの取組 Vol.2
税理士法人あさひ会計 統括代表社員
株式会社ASAHI Accounting Robot 研究所代表取締役 田牧 大祐
ビジネスにおける成長力や競争力を培うべく、多くの企業が取り組むべき「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。組織の成長・生存のために会計事務所も例外なくDX化を進めていかなければならない時代へと突入している。しかし、取り組みの成功までのプロセスは決して平易ではないのが実情だ。 そこで今回は、デジタル化の先駆者である「あさひ会計」「ASAHI Accounting Robot 研究所」代表の田牧大祐先生に、デジタル化の壁を乗り越えての今の成功までの道のりと、DX化の今後の展望について、話を伺った。
これからDX化を進める事務所へ伝えたい「予想される困難と解決法」とは
これからデジタル化を積極的に進めたいと考えている会計事務所は多い一方で、いざ始めてみると想定外のことも起こる可能性があると思われます。田牧先生のこれまでのご経験を踏まえて、どのような困難が想定されるか、またそれらをどのように解決していくべきかを教えていただけますでしょうか?
大きく分けて2つあると考えていまして、1つ目は事務所内での文化の醸成です。今となっては全員がアプリを使用している状況とはいえ、かつてはDX化に抵抗があり、なかなか活用に踏み出せない年配職員もいました。今であっても高頻度で活用する人とあまり使わない人の差が大きい点は課題に感じています。例えば、AI-OCRの作業をすべての担当活用している職員はひと月20~30件実行させていますが、数件程度などあまり使っていない人もいます。
事務所内での活用促進にあたり、どのような取り組みをされていますか?
得意・不得意の個人差もありますが、そうした差をなるべく小さくしていくための取り組みとして、アプリ使用者ランキングを発表する場を設けて表彰すると共にプレゼントを渡すイベントも行っています。またよく稼働させている職員には使ってるね!と声掛けをし、また使っていない職員へは○○便利だよ、○○君が上手に使っているよ、など社内での声掛け、普及活動は常にしています。これも稼働状況の情報をもっているからだと思います。
技術や知識の提供と活用する際のサポートなど、職員間でのやりとりはどのようにされていますか?
サポートなどのやり取りは日常的に行われており、比較的得意な若手職員が中堅女性職員の手伝いをしたり、席が近い職員同士で教え合ったりしています。また、ヘルプデスクもあるので誰でも気軽に質問することができ、質問が上がると知見のある職員が回答してくれます。こうした雰囲気の中で「自分もできるかもしれない」「あの人も使ってるんだ」と身近に感じてもらい、事務所全体でDX化が当たり前だという文化が醸成されることを期待しています。
素晴らしい取り組みですね。
もう一つ課題だと感じることは、会計事務所側でコントロールができない領域、つまり「お客様側のDXの取り組み状況」です。
私たちがDX化を進めても、お客様側が従来の手書き資料郵送やFAXでのやりとりのままでは真の意味での効率化は進みません。私たちとしても、お客様へDX化を進めていただくための働きかけをしていくことが重要だと考えています。
現在、できる限りクラウド会計やAPI連携での自動処理を行っていますが、お客様の経理担当者の意向が強く現行の手続きをなかなか変更できないこともあります。
そこで、あさひ会計ではお客様の意識改革と弊社のDXの取り組みに巻き込むための働きかけとして、弊社の月刊誌にDXに関する記事を掲載したり、経営者向けのDXセミナーを開催しているほか、元帳の納品を全てDVDデータ納品とさせていただいています。
さらに郵送したり資料を取りに行かずに済むことを実感していただくために、スキャナを無料で貸し出ししたり、データでのやりとりにご協力いただけるお客様には「DX値引き」を行ったりしています。それでも紙でのやりとり限定のお客様には、AI-OCRサービス「AISpect」で事務所内の効率化も図るようにしています。
お客様のDXを推進するDX推進部という専門部署も作りました。このチームに8名配属、モデルケースとなってお客様のDX支援を進めております。
なるほど。事務所内の組織制度や仕組み作りと並行して、お客様のDX化の支援を行うということが大切になってくるわけですね。
ええ、そうです。それに今は低コストでテクノロジーが導入できる時代です。導入する際も「投資をする」という大袈裟なものではなく、「とりあえず使ってみよう」くらいの感覚でできるので、昔より格段にハードルが低くなっています。
これは4~5年前のことですが、ある企業の通帳OCRの導入を検討した時、AI-OCR開発企業に相談しましたら「とりあえず1千万円準備してください」と言われたことがあります。結局その時は見送り、2年後に自社開発でAI-OCRサービスを作り、月額5,000円でスタートさせました。世の中には低価格のサービスもあり、生成AIやRPAも普及しています。だからこそ、やってみることが一番大切だと実感しています。
使いたい人と使いたくない人で事務所が分かれそうなら、より小さな単位での導入も効果的だと思います。
実際、ChatGPTは会社でも、個人でも使っている人はけっこういると思います。世の中のDX化やAI化の流れの中から、それぞれに合う作業効率化の種を見つけることができるのではないでしょうか。
まずは多くのものに触れてみることが大切
事務所や個人によっても異なると思いますが、例えば、RPAやAI-OCRの活用を始めやすい業務はありますか?逆に、相性が悪く導入はおすすめしない業務があれば教えていただけますか?
通常、人が提案するような業務はできませんが、作業的な面では相性の悪い業務はなく、いくらでも工夫次第でできると思います。様々なツールの活用の掛け算をすることで、さらに面白いこともできると思います。初めて活用するなら入力サービスなど、何でも良いので使ってみるのもおすすめです。
先日AI-OCRのAISpectシリーズに関する新サービスをリリースしました。これは生成AIへのプロンプトで読み込んだデータを自分の指示で加工できるものであります。
これからDX化を進める予定の事務所もどんどん活用していただき、業務削減に役立ちそうなサービスを見つけてほしいですね。
まずは多くのものに触れることが大切だと思います。
確かにそうですね。まずは自分が困っている業務や、やってみたいところから触れてみて効果を実感することが、一番大事であり近道になるということですね。
そうです。以前マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏が来日した時、「テクノロジーを誰にでもアクセシブルにする」といった話をされていましたが、まさにそうなっていると実感しています。AIもRPAもクラウドサービスも、低価格もしくは無料で使えるので、すでに道具はそろっています。後は使うかどうか、個人や企業の決断にかかっていると思います。
DXやAIが会計事務所に与える影響と今後の発展
最後にDXやAIの発展が、会計事務所にどのような影響を与えるか伺いたいと思います。田牧先生のお考えを教えていただけますでしょうか?
生成AIについては、一般企業はもちろんのこと会計事務所でも使用するようになると思います。皆さんもお客様向けの値上げ文章や督促状の作成など、日々のちょっとした作業で使っているかと思いますが、私ももちろん使っています。
あと、エンジニアなどの専門的な知識がなくとも、だれでも簡単に活用ができるようになると思います。
知識や経験豊富なメンバーばかりでなくても、テクノロジーを上手に使う人がチームに1~2人いれば、そういう人が周囲の仕事の仕方を少しずつ変えていくことで全体に波及し、DX化も進んでいくと思います。今後、会計事務所業界もそのような働き方に変わってほしいですね。
会計事務所の業務はどう変化していくとお考えでしょうか。
そうですね。人にしかできない業務と人が作業しなくても良い業務が極端に分かれる中で、より「人にしかできないサービス」にシフトするのではと思います。2019年に設立したASAHI Accounting Robot 研究所は5年が経過しましたが、未だに一度も手で仕訳を入力することなく会計処理が終っております。どこの企業も多くの会計処理業務は自動化されると思います。
素晴らしいですね。
手で仕訳を入力する必要がなくなることで、将来的には会計処理業務自体がかなりの部分なくなると思います。今後は業務の大部分が自動化され、API連携へと移行していくでしょう。私たちの業界にとっても大きな影響となるはずです。
その流れとは別に、これからは未活用の情報をより見やすい形に加工して、お客様や経営者の方々に伝えていくことが新しいサービスとして成立するのではと思っています。
つまりBI(Business Intelligence)活用が、今後会計事務所に必要なものになると思います。
単なる財務データだけではなく、商品やサービス、天候や時期など、様々な情報と組み合わせることによって、営業、製造、配送、人員配置など、よりデータドリブンな経営にシフトするためのサポートを私たちが担うべきです。まさに「人にしかできないサービス」に特化していくことが、会計事務所にとって必須の時代になると考えています。
本日はお忙しい中、貴重なお話をいただきありがとうございました。
プロフィール |
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税理士法人あさひ会計 統括代表社員 株式会社ASAHI Accounting Robot 研究所代表取締役 田牧 大祐 兵庫県出身。東北地方に約1,080件の顧問先を擁する東北最大級の会計事務所「税理士法人あさひ会計」の代表。大手ゼネコンで現場監督を経験した後、会計という仕事の面白さに惹かれ、1999年に中央監査法人に入所、監査業務に従事する。2007年、旭会計事務所(現 税理士法人あさひ会計)取締役、現在に至る。M&Aや組織再編、内部統制構築支援会計を得意とし、現在は、仕訳入力をなくすべく、Full Auto Journalを目指し、日々、奮闘中。2003 年、公認会計士登録。 |