優れたオペレーションノウハウ・技術よりも独自の付加価値を優先<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.14>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2021/7/17
Vol.14 SDGs時代の価値観③ 「優れたオペレーションノウハウ・技術よりも独自の付加価値を優先」
経営者自身がSDGs時代に適した成長・変化をするためにはまず優先順位の変更が必要です。3種類の優先順位の変更のうち、「優れたオペレーションノウハウ・技術よりも独自の付加価値を優先」に焦点を当てて解説をしたいと思います。
これからの経営者には、従業員全員が常に顧客への提供価値について考え続ける企業へと進化するための舵取りが求められます。なぜならば、新型コロナ感染拡大に よって多くの経営者が実感したように、SDGsに含まれる地球規模課題によって経営環境が大きく変わる時代には、事業活動の内容そのものが大きく変化するからです 。そうなると、既存のオペレーション・技術を磨き上げることだけに注力するのではなく、変化によって生まれる新たなニーズに合わせた新しいオペレーション・技 術を次々に生み出すことが必要となってきています。
実際に、コロナ禍で経営危機を上手く乗り越えた経営者の方々と行動をともにしたり、お話を伺ったりすると、多くの方が「原点に立ち戻る」、「多様性を重視する 」という2点を重視していました。まず、「原点に立ち戻る」というのは、自分たちの提供している製品・サービスのことを一度忘れて、自分の企業がなぜ存在して いるのかを改めて考えるということです。例えば、和菓子を提供している会社では、和菓子そのものではなく、和菓子を通じて文化が継承される、新たに生み出され ていく場を提供していくことが大事だ、と原点回帰したそうです。こうした原点回帰が出来ると、価値提供に対して自社では足りない要素があれば、それをどう補っ ていくのかという一歩先の思考に進むことが出来るようになります。
また、「多様性を重視する」というのは、自分以外の人の能力を引き出すことに専念することです。それは、従業員一人ひとりが新しいアイデアを出しやすい環境を 創ることであり、他社を支援する中で一緒に新事業を生み出していくことにも繋がります。無駄を削ぎ落とし業務を効率化するのではなく、従来無駄だと思われ一見 事業とは関係のないような要素を多様性として受け入れることで、顧客に対する新しい寄り添い方を考えることが出来るようになります。例えば、前述の和菓子を提 供している会社であれば、コロナ禍で苦しい状況にいる旅行会社の魅力を引き出そうと試みることで、旅行会社と連携して和菓子作りの体験自体をオンラインサービ スとして提供するという新事業の創造が起こり、それが自社のECサイトによる物販拡大という既存事業の立て直しに繋がります。旅行会社の支援という一見事業外の 非効率な取り組みだと思われることが最終的には既存事業にも好影響を与えるのです。
先行き不透明な時代だからこそ、本気で顧客と向き合いましょう。顧客と企業の既存の接点だけではなく、顧客の人生、顧客の周りにいる人々、顧客の住んでいる地 域、そうしたもの全てに目を向けることこそが、究極の顧客志向であり、SDGsを経営に組み込んでいくプロセスでもあるのです。
次回からは、「中小・中堅企業のためのSDGs実践」についてお伝えしていきます。