怖い『みなし贈与』<税理士のヒヤリ・ハット体験談 第7回>

税理士法人 古田土会計 社員税理士
土田大輝

2021/7/16

第7回 こんなことが贈与に?怖い『みなし贈与』

前回の9月のコラムに、贈与税について取り上げました。財産を「あげます」と「もらいます」の両者の合意により贈与が成立することから、一方的にどちらか(主に渡す側)のみが知っている等については、贈与とならないので注意が必要とお話ししました。では、今回はタイトルにある通り『みなし贈与』を取り上げます。

エピソード

低額譲渡や負担付贈与には要注意!

『みなし贈与』という言葉に、私は初め違和感を覚えました。さんざん前回のコラムのように、贈与しようとしても条件が整わないために贈与にならないということ があり、注意しましょうと言われていますが、そもそも贈与ではないのに、税法によって「贈与とみなす」となる取引があるということ。しかも当事者間には贈与の 認識が無いにもかかわらず、課税されていきます。なんて恐ろしいことでしょうか。

みなし贈与の一つに、『低額譲受け』による受贈益があります。時価に対して低い対価での譲渡があった場合、その時価と対価との差額が売手から買手に対する贈与 とみなされるという内容です。取引としては売買(譲渡)なのですが、贈与の行為も含まれるということです。

たしかに、イメージ図のように親から5,000万円の価値(時価)がある土地を3,000万円で譲り受けた子が、その後5,000万円で第三者に売却したら、子は2,000万円ト クをすることになります。この2,000万円のトクについて、みなし贈与とするという考え方になります。

実務において圧倒的に多いのが、不動産の低額譲渡です。

~不動産の低額譲渡でのヒヤリハット~
不動産にはスーパーの商品のように値札はありません。しかしこのみなし贈与の課税を判断するためにも、時価を見極めないといけません。これが一番難しいところ です。

少し専門的な話になります。『時価』と話をし続けていますが、贈与があった場合の贈与税の計算においては、課税上の弊害が無い限り、財産評価基本通達に基づき 評価された価額を用いて、贈与税を計算します。この通達において、不動産については、土地は路線価を基礎として、建物は固定資産税評価額を基礎として計算する こととされています。

話をシンプルにするために、ここからは土地に絞ってお話しします。土地には一般的に価値を示す指標が4つあると言われていて、これを『一物四価』と呼んだりしています。
イメージをご覧ください。

路線価は実勢価格(時価)に対して約80%の金額で評価されています。では、最初の例で時価5,000万円の土地とありますが、路線価ベースではおそらく5,000万円×80%=4,000万円前後で評価されることでしょう。この場合、4,000万円と対価3,000万円との差額がみなし贈与とされるのでしょうか。
答えは、NOです。

贈与(対価が無い)の場合は、贈与税の計算は路線価から計算するので、4,000万円が贈与税の対象となります。けれども譲渡取引(対価がある)の場合は、時価の5,000万円から計算します。これは、国税庁から発せられている『負担付贈与等があった場合の取扱いについての通達』によって、次のように書かれているからになります。

土地及び土地の上に存する権利 並びに家屋及びその附属設備又は構築物のうち、負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。(以下略)
上記の「通常の取引価額」が、時価になります。これによって、譲渡による対価が低額かどうかの判定は、時価との差として計算することとなっています。

ケース①:共有持分の買取りのケース

あるお客様から、「自宅マンションについて、取得した当時は自分に資力が少なかったので、親に持分を1/5持ってもらった。いま親の相続対策を考えているときに、この持分について遺産分割の対象となるのは、兄弟との関わりもあり避けたい。今この持分を自分のものにしておきたい」とご相談を受けました。

さらに、「当時お金を出してもらったわけだから、幾ばくかでも親にお金を渡したい」と添えられました。

このマンションですが、時価が3,500万円で、路線価等で評価すると1,200万円でした。ここまで時価との乖離があるのかと驚きましたが、近年のいわゆる『タワマン 節税』で指摘されていることもあり、合点がいきます。(この『タワマン節税』のカラクリは、別途とりあげます)。

本件について、お客様のご要望の通りで譲渡として手続きすると、時価ベースで贈与を計算しなければいけなくなり、売買で動かすお金が増えるか、あるいは思わぬ 課税を招くこととなります。そこで、これを単純な不動産の贈与契約とすることをご提案しました。懸念である親孝行は、お金だけでなく何か他でできないかどうか も一緒に話し合ってもらうことで、親子の絆が深まったと言っていただきました。なお兄弟に対しても、この持分の贈与についてお話をされ、みんな理解・納得して くれたと言います。

ケース②:賃貸マンションの持分贈与のケース

前記のケース①とほぼ同じなのですが、これが賃貸しているマンションだったらどうでしょうか。実際にあったケースなのですが、自分(親)と息子とで共有で持っているマンションで賃貸しているものを、息子に持分贈与したケースです。金額等は①と同じにしてお話しましょう。1/5の持分は路線価等の評価ベースでは1,200万円×1/5=240万円。したがって、暦年贈与の基礎控除110万円を超えた130万円について、贈与税がかかるものだと考えられていました。

しかし、大きな落とし穴があります。この賃貸マンションの敷金50万円を、賃借人から預かっているのです。預かり敷金はオーナーからすれば負債です。持分を1/5持つということは、この負債も1/5負担するということです。持分贈与はこの負担も合わせて贈与することとなるわけですから、上記の負担付贈与として時価ベースで課税されることとなるのです。負担付贈与の取扱いは、とても恐ろしい決まりだと思います。対処方法はあります。このケースでは、預かり敷金に相当する現金をこの持分贈与のときに息子に渡すことで、負担付の贈与ではなくなります。親が子に良かれと思ってする行為で、子に思わぬ課税がされないように、我 々は十分に気を引き締める必要があります。

今回は恐ろしい『みなし贈与』として、不動産の低額譲渡や負担付贈与についてとりあげました。ほかにも贈与とみなされる行為はたくさんありますし、実はエピソ ード豊富です…。さらにはみなし贈与に限らず、税法特有の『みなし課税』について、次回以降も取り上げていきたいと思います。ご期待ください。
そして一緒に、税法を考えていきましょう。

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