知っておきたいDV対策(知って得する法律相談所 第12回)

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2021/7/16

第12回 外出自粛の裏側でDV(家庭内暴力)が増加。知っておきたいDV対策

先月のコラムで、昨年の4月以降の離婚件数が大幅に減少しているとの厚生労働省の発表をお伝えしました。

ところが、警察庁によれば、昨年1年間に全国の警察に寄せられたDV(ドメスティックバイオレンス)の相談は約8万2000件にものぼり、過去最高となりました。

この背景には、新型コロナウイルスの感染拡大防止のためのリモートワークや外出自粛などが要因とされています。つまり、自宅にいる時間が長くなることで、夫婦 が接する時間が長くなり、また、コロナストレスも影響し、家庭内暴力が深刻化したということになります。

そこで今回は、家庭内という、一番身近な存在の間で起こりうる問題、DVの定義と対策について、弁護士が詳しく説明します。

1.DVとは
DV(ドメスティックバイオレンス)という言葉について、明確な定義はありません。ほとんどの場合、夫婦間や恋人間の暴力として使われています。ドメスティック (domestic)は日本語に訳すと、「家庭内」と表現されるため、親子間の暴力も含んでいる場合もあります。しかし、DVは夫婦あるいは恋人間の暴力として使用して いることがほとんどです。

また、内閣府の男女共同参画局によれば、DVは配偶者からの暴力と説明しています。この配偶者の中には、婚姻関係にある夫婦はもちろん、事実上の婚姻関係にある
内縁関係の夫婦も含まれています。また、同居している交際相手や、離婚した後の相手も含むと説明しています。

2.ここでいう暴力とは?
では、DVが示す暴力とはどのような行為を示すのでしょうか。男女共同参画局や、DV対策の根拠となる法律である「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関 する法律(DV防止法)」によれば、暴力にはいくつかの形態があるとしています。

そして、どれか一つの種類の暴力が発生するだけではなく、ほとんどのDV事件においてはいくつかの種類の暴力が重なって発生していると説明しています。

「身体的な暴力」
殴ったり、蹴ったりといった行為です。その他、物を投げつけたり、引きずりまわすといった行為もあります。

「精神的な暴力」
怒鳴ったり、無視する、相手の人格を否定する言葉を発する行為です。相手の行為を細かく監視する行為も精神的な暴力に含むとされています。

「経済的な暴力」
家計に最低限の金銭しか入れないといった行為です。特にどちらかが専業主婦(夫)である場合に、この傾向があるようです。働いている側からすれば、「自分が稼 いだお金なわけだから、どのように使おうと自分の勝手だ」という意思が働いていることが要因にあります。

「性的な暴力」
相手の意思に反して性的行為を強要するなどです。避妊に協力しない、あるいは、中絶を強要するといった行為も、性的な暴力の一種です。

3.DVの被害に実際に遭ったときには
ひと昔前は、「家庭内での出来事」として処理されていたDV事件も、最近は追い詰められた被害者が配偶者を殺してしまうといった殺人事件に進展することもあり、 警察も介入する措置を行っています。具体的には、加害者を検挙したり、被害者を保護する措置を行っています。

では、具体的な措置や対策について見ていきましょう。

3-1「シェルターによる保護」
配偶者から暴力を振るわれ、命の危険が及ぶ場合は、緊急避難場所として避難場所(シェルター)が提供されます。子どもがいる場合は、もちろん子どもも一緒に避 難することができます。シェルターには、公的な施設と民間の施設があります。この内、民間の施設では、逃げてきた被害者の保護だけにとどまらず、自立へ向けた サポートや相談への対応を行っています。

このような民間の施設を運営している団体は令和2年11月現在、全国に約120の団体が存在します(被害者の安全確保のため所在地は非公表となっています)。

3-2「裁判所による保護命令、離婚」
もちろん、法律による対策も有効です。それは、DV防止法に基づく「接近禁止命令」です。具体的には、配偶者からの暴力を防ぐために、裁判所が加害者側である配 偶者に対し、配偶者に近寄ることを禁止する命令が発せられます。命令が発せられると、6か月、配偶者の身辺や住居、勤務先をつきまとったり、うろつく、といった行為が禁止されます。

この他、被害者が引っ越しをする準備の為に、2か月間同居していた家からの退去が命じられる「退去命令」という措置もあります。また、配偶者だけではなく、子どもや親族に対しても6か月間、付きまといや身辺をうろつく行為が禁じられる「子ども・親族等への接近禁止命令」があります。

もちろん、つきまといなどの身体的な接触の禁止だけではなく、電話やメール、SNSを通じた接触も禁じることができます(「電話等禁止命令」)」

これら保護命令に違反した場合には、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられることになります。

また、DV防止法の「保護命令」が発せられたことは、大きな離婚原因となりますので、離婚調停・裁判においても、有利に手続きを進めることが可能になります。

3-3「住民票閲覧禁止」
保護命令等で避難中の場合、様々な公的扶助を利用する際に、住民票の異動が必要になる場合があります。また、離婚後も、子どもの住民票や戸籍の附票で、移転先 が判明してしまう場合があります。

このようなDV事案においては、役所に申し出ることで、本人以外が勝手に住民票や戸籍の附票の閲覧ができないように制限を設けることができるとされています。住 民票を異動する際や、離婚届の際には、役所に相談してみることを忘れないようにしてください。

4.まとめ
DV事件は、家庭内という見えにくい所で発生していることもあり、本人の知らない内に被害が潜在化しているとの指摘がされています。

被害者は暴力行為により、身体的な影響はもちろん、PTSDといった精神的な影響を受けることも少なくありません。また、DVを目撃した子どもにも、心身の健康・発 達に影響を及ぼすことが確認されています。

配偶者や恋人から暴力を受けた場合、それは立派な犯罪です。決して一人で悩まず、警察や弁護士、法テラス・配偶者暴力相談支援センターといった機関へ相談する ようにしてください。

登録後送られる認証用メールをクリックすると、登録完了となります。

「税理士.ch」
メルマガ会員募集!!

会計人のための情報メディア「税理士.ch」。
事務所拡大・売上増の秘訣や、
事務所経営に役立つ選りすぐりの最新情報をお届けします。