イッキ飲みの強制は犯罪!?(知って得する法律相談所 第9回)
弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英
2021/7/16
お酒に関連する法律について~イッキ飲みの強制は犯罪です
年始年末になると、付き合いなどで飲み会など、お酒を飲む機会が増えることと思います。今年は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、ほとんどの企業で忘 年会を行わないとの調査結果が公表されています。
しかし、会社規模の単位での飲み会は開催されなかったとしても、部署単位や個人的な付き合いや取引先と、お酒を飲みかわす機会が全くないとは言いきれません。
そこで今回は、飲み会が増えていくこの時期だからこそ、押さえておきたいお酒に関連する法律問題について弁護士が解説します。
1.イッキ飲みと刑法上の罪
お酒をめぐるトラブルといえば、大学生や新入社員の新人歓迎会でイッキ飲みを強制させたことによる死亡事故がニュースなどで報道されます。
このように、嫌がるのに無理やりアルコール飲料などをイッキ飲みさせた場合、「強要罪」という立派な刑法上の罪が成立します。強要罪とは、法律上の義務がない のにも関わらず、暴言や暴行、脅迫や社会上の地位を利用して、無理やり何らかの行為をさせることをいいます。
また、無理やりイッキ飲みを強制させられた人物が、急性アルコール中毒などで意識を失った場合には過失傷害罪、死亡した場合には傷害致死罪に問われる可能性も 残されています。また、その際に、周りの人間が「イッキ飲みコール」をして煽り立てる行為があった場合には、煽り立てた人物には、現場助勢(じょせい)罪に該 当する可能性があります。
これ以外にも、最初から酔いつぶす目的で、無理やりお酒を飲ませ続けた結果、相手が酔いつぶれた場合にも傷害罪に該当する恐れがあります。
そして、飲み会終了後、一緒に参加した泥酔者を放置した場合は、保護責任者遺棄罪、泥酔者が死亡した場合には、保護責任者遺棄致死罪に問われる可能性がありま す。
この時期は大変寒いですから、急激に体温が低下し、死に至ることも少なくなくありません。参加者の異変に気が付いた場合には、救急車を呼ぶ、自宅まで送り届け るといった措置は必ず行いましょう。
その他、イッキ飲みの強制により急性アルコール中毒になった、あるいは泥酔状態を放置した結果、障害が残ったあるいは死亡した場合には、民法上の損害賠償責任 を負うこともあります。
たとえば、一緒に飲み会に参加した者に対しては、適切な処置を行わなかった・泥酔状態になる前に飲酒を止めさせるべきだったとの責任を問われ、治療費や慰謝料 などの支払いを求められる可能性があります。
2.お酒とその他の刑法上の問題
イッキ飲み以外の場合でも、お酒をめぐる法律問題は存在します。
ニュースなどで、『逮捕された容疑者が「酔っていてよく覚えていない」と取り調べに応えている』と報道されることがあります。
これは、刑法の基本原則の
・心神喪失者の行為は、罰しない
・心神耗弱(こうじゃく)者の行為は、その刑を減軽する
という規定に関係します。
つまり、年少者や知的障害を持つ方と同様に、犯行当時、泥酔状態であれば、物事の善し悪しの区別がつかない心神耗弱者として判断される可能性があるからです。
ただし、実際には、泥酔状態になる前に飲酒を止めるべきだったと判断され、ほとんど罪が軽減されないことの方が多いようです。
さらに、予め自分が泥酔状態になることを予測したうえで、あるいは勢いをつけるために飲酒をした上で犯罪行為に至った場合には、たとえ犯罪行為に泥酔状態であ ったとしても、罪が一切軽減されないこともあります。
その他、近年制定された法律といえば、2014年に施行された自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(通称「自動車運転処罰法」あるいは「自 動車運転死傷行為処罰法」)があります。
この法律が制定される前は、相当程度危険性の高い運転行為による交通事故でないと、危険運転致死傷罪などの罪に問うことができませんでした。しかし、この法律 が制定されたことにより、飲酒事故に関して、泥酔状態や酩酊状態といった状況に応じた罪に問うことができるようになりました。
そのほか、暴行または脅迫といった手段を用いらなくても、相手に飲酒をさせ心神喪失あるいは抵抗不能にして性行為を行った場合に罪に問うことができる、準強制 性交罪(旧・準強姦罪)も比較的最近制定された罪といえます。
3.意外と知られていない法律、酔っぱらい防止法
これまでご紹介した内容は、新聞やニュースでも報じられることもあり、ご存じのことと思います。しかし、お酒をめぐる法律で、あまり知られていませんが、様々 な場面で活用される法律があります。
それが、「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」です。酩酊防止法とか、酔っぱらい防止法とよぶこともあります。
この法律では、酒に酔っている者の行為の規制や、酩酊状態にある者を保護する措置を講ずることを目的としています。
この法律の第2条には、「すべて国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、飲酒についての節度を保つように努めなければならない。」と定めており、いわゆるアルハラやイッキ飲みの強制も、この法律によって禁じていると解釈することができます。
この法律は、警察官が、道路に泥酔して座り込んだり寝ている者を、本人の意思に反しても保護する際の根拠となることがほとんどです。ただ、過去には、飛行機内 で酒に酔った乗客が、客室乗務員らに乱暴な言動を行い、同法違反の疑いで書類送検された事例があります。
第4条
酩酊者が、公共の場所又は乗物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をしたときは、拘留又は科料に処する。
4.まとめ
いかがでしたか?お酒の場は、マナーを守れば楽しい場ではありますが、羽目を外すと刑法上の犯罪行為をはじめ、様々な法律違反となってしまう場合があります。
また、サラリーマンなど会社にお勤めの場合、逮捕された事実が報道された場合、勤め先が報道されるなど思いもよらない不利益が発生することもあります。飲酒の 場においては、節度ある飲み方を心がけましょう。