相続登記を怠ると罰金(知って得する法律相談所 第8回)

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2021/7/16

相続登記を怠ると罰金も!?~制度改革が進められる相続登記対策

政府が、社会問題ともなっている所有者不明の不動産(空き家や土地)問題対策の一環として、来年の2021年の通常国会に民法、不動産登記法の改正案を提出する予 定との報道が行われました。

空き家という言葉は、ニュースなどでも報道されますし、2014年11月には空家等対策の推進に関する特別措置法(略称:「空き家対策特別措置法」)が成立し、市区 町村などが中心となって、固定資産税の減額や助成金の交付、危険と判断された空き家の取り壊しなどの空き家対策を行っています。

では、なぜ民法や不動産登記法までをも改正して、所有者が不明の不動産対策に取り組まなければならないのか、空き家、所有者不明土地問題が抱える現状と、民法 ・不動産登記法の問題点を、弁護士が分かりやすく解説します。

1.増加し続ける所有者不明の土地。2040年には北海道と同面積に。

不動産の所有者が亡くなり、相続が発生した場合は、法務局に対し不動産を相続した相続人への不動産登記の申請を行わなければなりません。

ところが、不動産登記申請を行わず、登記簿謄本を見ただけでは、現在の所有者が誰か分からない、法律上の所有者が判明しても連絡がつかないといった、いわゆる 「持ち主不明」の不動産が増加し続けています。これがいわゆる「空き家問題」「所有者不明の土地問題」です。

2020年2月に国土交通省が公表した調査によれば、現在の所有者やその行方が分からない土地が全体の2割にもなるとされています。

また2016年の時点で、既に九州地方より広い面積の土地が所有者不明とされ、このままの勢いで所有者不明の土地が増加し続けると2040年には北海道と同面積の土地 が、所有者不明になるとの研究結果も公表されています(「所有者不明土地問題研究会」調べ)。

これらの調査結果はあくまで土地に関する調査結果です。建物、つまり空き家の件数も加えると、所有者が不明の不動産の件数は、さらに増加するでしょう。

空き家に関しては、適切な管理が行われないと、建物の老朽化により、通行人や近所の住人に危険が及んだり、犯罪者が隠れて住んだり、実際に犯罪が行われるなど の可能性が指摘されています。

また、土地に関しても、空き家と同様、適切か管理が行われていないと、悪臭などが発生する原因のほか、自然災害時の際に二次災害が発生する原因になるとの指摘 がなされています。

では、なぜ不動産の相続登記がなされていないのかについて見ていきましょう。

2.現在の法制度が抱える相続登記手続き

会社・法人を運営するにあたり、社名や代表者や役員など登記事項に変更があったときは、変更があったときから2週間以内に商業登記の変更申請を行わなければなりません。

一方で、不動産登記に関しては、いつまでに相続登記を行わなければならないという期限の定めはありません。現在の法制度では、相続登記を行わなければならない
という申請期限もなければ、法的義務もありません。

これが適切な相続登記が行われていない原因の一つです。

また、相続人自身が登記の申請の仕組みを理解していないことも原因の一つに挙げられます。複雑な相続登記の法律相談の現場においても、「死亡届を出せば役所が 自動的に行ってくれるものと思っていた」とのお話を伺うことは少なくありません。

これらが、登記名義人が亡くなって、不動産を相続した相続人がさらに亡くなった場合に、法律上、誰が現在の所有者であるかの判断がつかず、所有者不明の不動産 が増加している原因の所以です。

また、不動産登記の実務上、

不動産の名義人から、子や孫に代替わりするなどして数次相続が発生している場合は、原則、相続が発生している毎に遺産分割協議および不動産登記を行わなければ ならず、

・現在ではなく相続が発生した当時の法制度に沿った相続人の調査を行わなければならず、法律の専門家ですら判断に迷うことがあ ること

・当時の法制度に沿った相続人の調査を行った結果、接点のない遠い親族と遺産分割協議を行わなければならないこともあること

が適切かつ迅速な相続登記を妨げる要因にもなっています。

それ以外にも、数次相続が発生していなかったとしても、現在の法務局の運用では、一部の相続人が行方不明になっていたり、押印を拒んでいるなどの争いがあった としても、一部の相続人のみへの相続移転登記を行うことが認められないことも、相続登記が行われず、所在不明の不動産が増加している原因の一つでしょう。

このコラムの中では、いらない不動産なら相続放棄を裁判所に申し立てをすればいいのでは?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、相続放棄にも盲 点があります。たとえ、相続放棄をしたとしても、次の管理者が見つかるまでは、相続放棄をした者は適切に財産、つまり土地・建物を継続して管理する義務を負い ます。

民法第940条第1項
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の 管理を継続しなければならない。
そのほか、売却したくても買い手が見つからず、放置してしまう実例も少なくないでしょう。

では、これらの問題を受けて、来年提出される予定の民法・不動産登記法の改正案について見ていきましょう。

3.検討されている改正案(2020年10月現在)

政府が中心となって、来年の通常国会に提出予定の主な改正案は下記の通りです。

3-1.相続登記の義務化

今までは相続登記が円滑に行われていない原因の一つとして、相続登記には申請義務がないことおよび登記制度の仕組みがよく知られていないことのほかに、価値が ない不動産などに対して、固定資産税や、登記をする際の専門家への報酬や登録免許税を支払いたくない相続人がいたことも原因の一つとして指摘されていました。

そこで、改正案では相続登記を義務化し、一定期間内に登記が行わなければ商業登記同様、過料などの罰則を科す方向で検討されています。

3-2.遺産分割協議の期限設定

相続が発生した際、法定相続以外の案分で相続財産を分けたい場合、遺産分割協議を行うことになりますが、現在の法律では、遺産分割協議に期間の制限は定められ ていません。

しかし、改正案では相続開始後一定期間を過ぎると、法定相続の内容で財産を確定する方向で検討が進められています。

つまり、相続人自身が不動産の取得を望まなかったとしても、改正案で定められた期間内で遺産分割協議が成立しなければ、法定相続分の割合で不動産を取得してし まう可能性が発生します。

3-3.土地の放棄制度の新設

検討されている改正案によると、相続人間で争いがないことが前提ですが、価値のない土地を相続せざるをえない状態を防ぐため、土地を放棄し国が所有する制度の 新設が検討されています。

尚、その場合でも管理費が固定資産税を上回る場合は、その分の管理費負担義務が残るようです。

3-4.第三者管理制度の新設

これらの制度改革を経ても、なお、所在が分からない土地が発生すると予想されます。そこで改正案では、所有者でなくとも、第三者がこれらの土地の管理を可能す る制度の新設が予定されています。この制度が現実化すれば、土地ごとに選任された管理人が、土地を売却したり管理するといった、土地の活用化の実現に期待が寄 せられています。

 

4.まとめ

空き家対策特別法によれば、倒壊の恐れがあるなど、通行人や地域住民に危険が発生する可能性がある空き家に対しては、一定の手続きを経て、行政が強制的に建物 を取り壊したりする代執行などの手続きの規定を置いています。

しかし、これらの手続きが実際に行われている自治体はほとんどありません。

来年国会提出予定の改正案により、相続による不動産問題が少しでも解決し、不動産市場が活性化できればと思います。

改正案がどこまで実現化するかは、まだ不透明ではありますが、相続に関する不動産問題でお困りの方は、弁護士あるいは司法書士に相談してみてください。

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