企業が行うべきパワハラ対策(知って得する法律相談所 第3回)

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2021/7/16

第3回 新型コロナウィルスで変化する労働環境。パワハラ防止法が定める相談室の設置とは?!

2020年6月に、企業に対しパワーハラスメントの防止を義務付ける法律、いわゆる「パワハラ防止法」が施行されました。パワハラという言葉は、比較的に馴染みのある言葉だとは思います。しかし、自分の知らないうちに加害者となっていたり、パワハラの被害に悩んでいる人は数多くいます。

また、新型コロナウィルスの感染拡大のため、在宅勤務やリモートワークが浸透し、今までとは違った業務体制へ変化しつつありますので、労働環境の見直しは急務 といえるでしょう。

実際に、リモートワークを選択した従業員が、執務時間中ずっと、防犯カメラのようにパソコンのカメラを起動させ、上司に姿が映っている状態で仕事をしなければ ならなかったという事例が、パワハラにあたるかという議論もされています。

そこで今回は、改正されたパワハラ防止法について、相談窓口の設置など企業が行わなければならない対策を中心にみていきましょう。

(1)パワハラとは
パワハラという言葉は、会社経営者やお勤めの方は、一度は聞いたことがあるものの、具体的にどういった行為がパワハラに当たるかについては線引きが難しいとさ れています。知らず知らずのうちに、無意識にパワハラをしているケースもあります。一方で、上司がパワハラを恐れるあまり、部下に対して必要不可欠な教育や指 導が行えない状況も避けなければなりません。

パワハラについては、厚生労働省が3つの要素と6つの分類を行っており、どういった行為がパワハラになるかについて説明しています。もちろん、実際にパワハラに 該当するか否かは、個別具体的かつ総合的に検討しなければなりません。

(2)パワハラの発生状況
厚生労働省が平成28年に企業側、従業員側双方に行った調査によれば、企業が設置した相談窓口に寄せられた最も多い従業員からの相談内容は、パワハラであり、全 体の32.4%となっています。また、過去3年間にパワハラを受けたことがあると回答した従業員は32.5%という調査結果が公表されています。

このような背景を受け、2018年に「働き方改革」が行われました。労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に 関する法律」が制定され、パワハラの禁止が具体的に明記され、パワハラの防止に努めることが法律上義務化されました。そのため、労働施策総合推進法は「パワハ ラ防止法」という通称で呼ばれています。

(3)企業が行わなければならないパワハラ対策
今回改正されたパワハラ防止法では、企業側と従業員側の両方に対して3つの措置を義務付けています。

① 社内方針の設定と周知、従業員の理解
企業としては、パワハラを防止するため、具体的な方針を設定し、従業員に対し周知しなければなりません。たとえば、社内ポスターなどで、「どういったことがパ ワハラになるのか」や「パワハラの被害にあった場合の対応」について周知する方法があります。また、外部の弁護士に社内向けセミナーの開催を依頼するのもよい
でしょう。

従業員側としても、企業が行っている方針を理解し、パワハラの理解に努め、知らず知らずのうちに加害者になっている自体は避けなければなりません。

② 相談窓口の設置
パワハラが実際に起きた場合に備えて、企業は従業員側からの相談に対応するための相談窓口を設置し、従業員に周知することが必要です。相談窓口は、相談者の意 向やプライバシーの保護に加えて、状況に応じて病院や弁護士を紹介するなどの体制を整えることも必要です。

しかし、従業員の人数が少ない中小企業の場合、相談者からのプライバシーを保護することには限度がありますし、場合によっては、相談窓口の担当者がパワハラの 加害者であったり、ごく親しい間柄の関係にある場合もあり得ます。そのため、外部通報窓口とともに外部の弁護士に依頼する方法も検討すべきでしょう。

③ パワハラが発生した場合の迅速な措置
実際にパワハラの相談をうけたとき、企業は速やかに、パワハラの事実の有無などの事実関係を調査しなければなりません。そして、実際にパワハラが発生している ことが判明した場合、被害者に対しては、被害者の意思も尊重しながら、適宜、部署の転換や休養や治療の機会を与え、加害者に対しては、注意や懲戒などの処分を 行わなければなりません。

もちろん、この場合も、企業は、関係者のプライバシーに配慮する必要があり、企業が行ったパワハラに対する措置により、二次被害を発生させてはなりません。

(4)まとめ
今回改正されたパワハラ防止法は、上記で述べた①~③の体制をすべて整えることを企業に対して求めています。また、適用される労働者は正社員に限らず、パートタ イムなどの非正規労働者も含まれます。

今のところ、体制が不整備であっても罰金などのペナルティは定められていません。しかし、実際にパワハラ行為が発生し、労働局などの行政機関から体制の不備を 指導されたにもかかわらず、企業が是正しない場合は企業名を公表できるようになっています。

パワハラを防止するためには、パワハラ防止法に基づき、企業・従業員双方がパワハラに対する理解を深め、体制を整えることこそが何より必須といえるでしょう。

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