「つながらない権利」について知っていますか?
<ネット時代に必要な企業防衛の極意 vol.45>

昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.149(2026.3)に掲載されたものです。


弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生

「つながらない権利」という言葉をご存じでしょうか? テレワークが定着し柔軟な働き方が多くの企業で導入・活用されていますが、その反面、勤務時間と生活時間との区別があいまいになり、四六時中業務連絡が来て精神的に解放されないという悩みも聞くようになりました。このような状況を背景に、勤務時間外には職場や取引先からの連絡を拒否できる権利として“つながらない権利”という概念に注目が集まっています。

日本労働組合総連合会(連合)が発表した2023年の調査でも「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくるとストレスを感じる」 62.2%、「勤務時間外の部下・同僚・上司からの連絡を制限する必要があると思う」 66.7%、「“つながらない権利”によって勤務時間外の連絡を拒否できるのであれば、 そうしたいと思う」72.6%、という結果が出ています※。

現在、チャットツールや生成AIの普及によって業務スピードが飛躍的に向上した一方で、この「常に追いかけられている感覚」は当時以上に深刻化しています。送信側は「忘れないうちに送っておこう」という軽い気持ちであっても、受信側に「即座に確認し、返信しなければならない」という強烈な心理的圧迫を与えているのが実態です。

業務時間外の連絡は、単なるマナーの問題にとどまらず、法律上のリスクを発生させる場合もあります。法令上、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間はすべて「労働時間」とみなされますので、たとえ短時間のチャット返信であっても、業務指示に基づき、あるいは「即レス」が事実上義務付けられている状況であれば、業務時間としてカウントされます。タイムカードなどの勤怠をいちいちつけずに対応してしまう例が多いと思いますが、それが逆に未払い残業代のリスクを発生させることになります。信頼関係があるから大丈夫と思うかもしれませんが、退職時にトラブルになったときなど、チャットやメールの履歴から時間外の業務指示とそれを受けての対応について、残業代請求ということも十分あり得ます。

業務時間外の連絡について、負担を感じる人もいれば、仕事をしないときは見なければよいだけと全く気にならない人もいます。また、緊急時の対応など、むしろ急ぎで対応してしまいたい問題が発生することもあります。この辺は一人一人の感覚の問題や、連絡する側、連絡される側の意識のギャップもありそうです。上司が、明日でいい、週明けでいいと思って送っていても、受け取る部下の方は即対応しないといけないと負担に思っている例などは珍しくないでしょう。

大切なのは、会社全体で共通の認識を作って行くことです。業務時間外の連絡について“つながらない権利”を意識したガイドラインを策定する企業も徐々に出てきています。業務時間外に連絡をしなければならないような緊急性のある案件がどの程度あるか、また業務時間外の連絡について確認と対応が必要かなど、今一度業務の内容や働き方を振り返って、ルール作りを進めるべき時期に来ているのではないでしょうか。

出典:「“つながらない権利” に関する調査2023」(日本労働組合総連合会)

中澤 佑一

なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。

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