不動産所有法人の設立
<江崎光行先生の税理士事務所 四方山話 vol.21>
本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.149(2026.3)に掲載されたものです。
不動産を法人所有にすることでメリットがあると聞いたのですが、教えてください。」
不動産業を営む新規のお客様から、このような質問を受けました。
法人が不動産を所有するメリットの一つは、所得税と法人税の「税率差」を活用できることです。個人の所得税は超過累進税率により住民税と合わせて最大55%に達しますが、法人の実効税率は約30%から最大でも34%程度にとどまります。
一般的に個人の課税所得が900万円前後を超えてきたお客様にとっては、この税率差がメリットとなります。また、配偶者や子を法人の役員とし、役員報酬を支給することによる「所得分散効果」もメリットの一つです。給与所得控除を複数人で活用できるだけでなく、親(現在のオーナー)の手元に預金が過大に蓄積するのを防ぐため、将来の相続財産の圧縮にも直結します。
法人特有の税制も有利に働きます。大規模修繕などで多額の損失が生じた場合、個人の青色申告では3年しか赤字を繰り越せませんが、法人であれば最大10年間の欠損金の繰越控除が可能です。
一方で、デメリットも考えられます。まず、法人の設立費用に加え、赤字でも毎年発生する法人住民税の均等割の支払い、税理士へ支払う顧問料の増額など、ランニングコストが個人で所有する場合よりもかかります。個人で所有していた不動産を法人に所有させる場合には、個人から法人へ売却する必要がありますが、その際には法人側に「不動産取得税」と「登録免許税」という多額の流通税が発生します。個人側でも、譲渡益が出れば譲渡所得税が課税されます。従って、トータルのキャッシュフローで有利不利を判定するシミュレーションが不可欠です。
また、実務においては、既存の不動産ローンの借り換え承認が金融機関から得られるかどうかが最大のハードルになるケースも少なくありません。今回ご相談頂いたお客様は、シミュレーションの結果、法人へ移転する方が有利でしたので移転を行うこととなりました。
なお、今回のご相談の前提ではありませんが、設立する不動産所有法人の株主を将来の相続人としておくことで、相続財産から不動産所有法人の株式を除外することが出来、相続対策として不動産所有法人の設立を行うことも考えられます。
不動産の所有方法を検討することは、お客様一族の長期的な財産管理スキームを構築することでもあります。精緻なシミュレーションを行い、お客様にとって最良の選択を導く役割が求められると考えます。
江﨑 光行
えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。
現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、
ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。
