【令和8年度税制改正】企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設について

【令和8年度税制改正】企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設について

2026(令和8)年度税制改正では、法人課税の分野において、納税環境整備の項目のひとつとして、「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例」が創設されました。

「特例」の創設となっていますが、実質的に制度としては新設になります。

これは国内における企業グループ内の法人間で行われる特定の取引について、取引自体や支払額の妥当性を立証するための書類保存を義務告げる制度であり、令和8年4月1日より施行されます。

今回の記事では、この特例の創設について、制度創設の背景や内容、この制度に係り会計や税務等の関係者が注意しなければならない点など、詳しく解説します。

目次

特例の創設に至った背景と概要

まずは今回、企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設に至った背景を解説します。

創設に至った背景

企業グループ内の法人間で行われる取引、特にシェアードコスト取引(※1)等においては、恣意的に支払額や利益の調整が行われやすいという課題があります。

従来この課題は、国外に親会社・子会社等を持つ多国籍企業の取引で指摘されてきており、それに関しては国として対象先を大企業に限定した「移転価格税制(※2)」で対応してきました。

多国籍企業は、一般的に以下のような取引をグループ内で行います。

  • 製品の売買
  • ロイヤリティ(知的財産の使用料)
  • サービス提供
  • 資金貸付

これらの価格を恣意的に設定すると、多国籍企業の場合、利益を税率の低い国へ移すことができてしまうので、それを防ぐために日本を含む各国が移転価格税制を整備して対応しています。

しかしこの問題は国外にグループ先を持つ企業だけでなく、国内企業グループでも以前から繰り返し指摘されてきました。こうした取引は実務上広く行われている一方で、支払額の算定が恣意的になりやすい側面を持っています。

そのため、取引内容やコストの配賦基準、費用算定の根拠を示す資料が十分に作成・保存されていない場合、税務当局としては、その経費が適正かどうかを検証できない上に、保存書類の不備により経費支払額の妥当性を確認できず、正確な実態把握ができないことになります。

そこでこのような取引に対し、今回の改正で、移転価格税制に準じて、取引内容や支払額の根拠の詳細を確認できる資料の取得・作成及び保存を義務付けることになりました。

また今回の制度で対象となる取引は、シェアードコスト取引に限らず、無形資産の譲受け・借受け(ノウハウ・特許等)、経営管理や指導に係る役務提供(マネジメントフィー)など、実態把握が難しくかつ金額が大きくなりやすい取引も含まれます。

そしてこの対応で、今後、課税関係の適正化と公平化が期待できるようになります。

(※1)シェアードコスト取引とは、企業グループ内で発生する共通業務(研究開発、広告宣伝、ITシステム維持管理、総務・経理・人事等の管理等)をグループ内の特定の法人に集約し、その業務に係る費用を一定の基準(売上高や人数等)に基づいてグループ各社に配賦(請求)する取引を指します。
(※2) 移転価格税制とは、多国籍企業グループ内で行われる取引価格が、独立企業同士なら成立する価格(独立企業間価格)になっているかをチェックし、適正な課税を確保するための制度です。

特例の概要

企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の概要を解説します。

内国法人が「関連者」との間で「特定取引」を行った場合においては、その取引に関して、「取引関連書類等」に、その取引に係る対価の額を算定するために必要な下記の事項の記載(①及び②)、または記録がないときは、その記載または記録がない事項を明らかにする書類(電磁的記録を含む)を取得し、または作成し、これを保存するよう義務付けられます。

  1. その取引に関する資産または役務の提供の明細
  2. その取引においてその内国法人が支払うこととなる対価の額の計算の明細等

さらに、上記の必要書類の取得・作成及び保存が法令の定めに従って行われていない場合には、青色申告の承認の取消事由等が追加される措置も講じられます。

企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の詳細

企業グループ間の取引に係る書類保存の特例について、改正の重要点を更に深く掘り下げると以下のようになります。

関連者とは?

今回の特例では、企業グループ間の取引で内国法人と取引する先を「関連者」と規定していますが、では関連者とは一体いかなる存在なのでしょうか?

また規定では、但し書きで「関連者は、移転価格税制における関連者と同様の基準により判定する」となっています。

現状、関連者を明確に定義できませんが、移転価格税制において「国外関連者は外国法人で法人と特殊な関係にあるもの」と定義されているため、本制度においても関連者の定義は「法人と特殊な関係にあるもの」と理解できます。

一般的に、特殊な関係とは以下のような関係先をいいます。

  1. 親子関係…一方の法人が、他方の法人の発行済株式の50%以上を直接または間接に保有している関係
  2. 兄弟関係…同一の者が、複数の法人の発行済株式の50%以上を直接または間接に保有している関係
  3. 実質支配関係…株式保有割合に限らず、役員の兼務、取引依存、資金調達依存などにより、一方が他方を実質的に支配していると認められる関係
  4. 上記①〜③が連鎖して生じる関係…例えば、A社がB社を支配し、B社がC社を支配している場合、A社とC社も特殊の関係に含まれます。

特定取引の定義

今回の特例の創設では、「内国法人が関連者との間で特定取引を行った場合において」という表記がありますが、では特定取引とは具体的にはどのような取引を指すのでしょうか?

以下が今回の制度創設に係る「特定取引」となります。

「特定取引」とは、次の取引(販売費、一般管理費、その他の費用の額の基因となるものに限る)をいう。

① その関連者がその内国法人に対して行う次の資産(以下「工業所有権 等」という)の譲渡または貸付け(工業所有権等に係る権利の設定等その関連者がその内国法人に工業所有権等を使用させる行為を含む)
 イ. 工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式またはこれらに準ずるもの
 ロ. 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む)
 ハ. プログラムの著作物

② その関連者がその内国法人に対して行う役務の提供のうち次の取引
 イ. 次のいずれかの事業活動で、その内国法人とその関連者との契約または協定に基づきその関連者が行うもの
  (イ)その関連者が有する産業、商業または学術に関する知識経験等その関連者が有する経営資源を活用して行われる研究開発、広告宣伝等の事業活動
  (ロ)その関連者が有する専用資産(専らその内国法人及び関連者の事業の用に供することを目的とする資産をいう)をその内国法人に使用させる行為並びにその専用資産の維持及び管理 
 ロ. その関連者がその内国法人に対して行う経営の管理または指導、情報の提供等の役務の提供でその関連者が有する産業、商業または学術に関する知識経験に基づき行うもの
 ハ. 上記イ及びロの役務の提供に類するもの

引用:令和8年度税制改正の大綱 | 財務省

取引関連書類等とは?

今回の特例の創設では、取得・作成及び保存が必要とされる取引関連書類等についても、具体的に示されています。

以下の内容がその取引関連書類等です。

「取引関連書類等」とは、取引に関して受領し、もしくは交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書、その他これらに準ずる書類、またはこれらの書類に通常記載される事項が記録された電磁的記録で、法人税法及び法人税に関する法令の規定により保存しなければならないこととされているものをいう。

引用:令和8年度税制改正の大綱 | 財務省

適用時期について

本制度の適用措置については、現状、2026(令和8)年4月1日以後に開始する事業年度から適用される予定です。そのため対象となる企業グループでは、これまで以上に取引内容の可視化と文書化が求められるようになります。

さらに制度の適用時期が迫っているため、グループ内取引をコスト配賦で処理中の企業にとっては社内体制の整備が急務であるとともに、税務調査対応を見据えた文書管理体制の再構築が必要です。

企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設に係る注意点・留意点

最後に本特例の創設に係り、会計・税務関係者等が注意すべき点や留意点について解説します。

対象法人は中小企業も入るので注意

移転価格税制において適用対象先は大企業に限定されていました。

しかし今回の特例創設においては、対象法人は大企業に限定されておらず、中小企業も対象になると考えられます。大企業に比較して中小企業は組織力も資金力も劣ることが多く、本改正への対応も遅れることが予想されます。

実施までの時間が限られる中、中小企業も優先順位を付けて社内体制の整備が急がれるところです。また今後は、外国法人である関連者から提供を受ける特定取引も本制度の対象となる可能性もありますので、引き続き今後の動向に注意が必要です。

令和8年4月適用に向けた実務上の留意点

本制度の適用は、2026(令和8)年4月1日以降開始の事業年度から適用される見込みです。そのため対象となる企業については、以下のような各種実務的対応が必要と考えられます。

必要な実務対応具体的内容
取引内容の特定及び現状把握・グループ内の関連者取引を洗い出す
・現状の文書で対応可能か再確認
・とりわけシェアードコスト取引は重点的に確認が必要
不足情報の補完及び文書化・取引ごとに必要な書類を整備及び保存
・不足が確認された書類については、内容を把握した上であらたに書類を取得
・作成及び保存
算定プロセスの説明・再構築・制度創設を踏まえ配賦基準等を見直しする具体的には、費用総額の算定根拠、グループ会社への配賦基準(売上比、人数比等)とその合理性を再点検し、最終文書化する
社内規定・業務プロセスの見直し及びグループ内企業・部門の連携強化・新たな保存義務に対応した書類等が完備できても対応はそれで終わらないそれに合わせて社内規定や業務プロセスを見直しして、さらに必要に応じて改訂の必要もある
・また業務をスムーズに進めるためにも、改訂した内容を法人グループ間で情報共有するとともに、協力体制を確立して連携を強化する必要がある

まとめ

企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設について、令和8年度の税制改正大綱の内容を踏まえ詳しく解説しました。

この制度は「特例」という名称付きですが、期限付きの制度でなく、実質的には国内法人に係るグループ内取引の透明性を高めるための新たな義務が伴った恒久的な制度といえます

また対象法人の範囲が広いため、中小企業を含む多くの企業が対応を迫られる可能性があります。さらに適用時期が2026年4月1日と迫っているため、対象となる法人は急務の対応が必要です。会計や税務等の実務を通じてグループ法人と関わりを持つ方も、本記事も参考に、ぜひ必要な知識を深めておいて下さい。

今回の企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設の規約については、以下の財務省の公式サイトにて確認できます。必要に合わせてご参照下さい。
参照先:法人課税・企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設(P70~P72) | 令和8年度税制改正の大綱 | 財務省

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