相続直前の不動産購入に総則6項 「5年縛り」改正の予兆となる裁決
<今月の気になる税務トピック Vol.44>

『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.148(2026.2)に掲載されたものです。


白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生

貸付用不動産の評価見直しに繋がる先行事例

令和8年度税制改正で注目される「相続直前取得の5年縛り」による貸付用不動産の評価見直し。その伏線とも言える裁決が出ている。

相続直前の不動産購入に総則6項を適用した事例だ(令和7年1月10日裁決)。亡くなる直前に借入金で不動産を購入し相続税を軽減したケースで、国税不服審判所はいわゆる評価通達総則6項の適用を認め、税務署の増額更正処分を支持した。

被相続人は入院中の3か月間に借入れを実行し、約15億円を借入れで調達して5件の物件を取得。相続人3人は評価通達どおり約3.8億円で申告した。これに対し課税庁は鑑定評価を採用し約13.8億円と算定、総則6項を発動した。相続人らは不服申立てを行ったが、相続後も物件を売却していない点は是認理由にはならなかった。

納税者側は、財産形成として一連の取得を計画しており、相続後も保有している以上、租税回避ではないと主張した。しかし審判所は、①死期が近い状況での取得、②相続人が手続に積極的に関与していた点、③取得がなければ相続税負担が著しく減少しない点を重視し、相続税負担軽減の意図を認定。財産形成の意図が存在しても租税軽減意図と併存し得る以上、売却の有無は決定的ではないと退けた。

この裁決でも、相続開始直前の不自然な取得への評価通達の限界が、総則6項によって補完されている。

なお、令和4年最高裁判決以降、総則6項の適用件数は19件とのことだ。つまり、ほとんどの実務家は一度も総則6項を経験することなくキャリアを終える。それでも、今回の裁決は評価改正に繋がる。総則6項が制度改正という形で万人に影響するから無視はできない。

令和6年度決算検査報告書

会計検査院が内閣に提出した「令和6年度決算検査報告書」による徴収不足の指摘に対しては国税の甘さを批判する論調の意見も多いが、そうは思わない。全国の税務署を徹底的に点検して、ようやく3.8億円の誤りが見つかったに過ぎない。

国税収入75兆円の中では誤差以下であり、むしろ税務行政の精度の高さを示していると考えるのは私だけだろうか。もちろん、指摘は他にもあり、公表した項目がすべてではないにせよ、それでも税務行政全体の規模感から見ればと水準の高さを評価すべき数字だろう。

毎年の検査報告には会計検査院としての仕事を示す必要がある。だからこそ、制度の複雑さが生む小さな誤りを丁寧に拾い上げ、注意喚起として提示する。これは税務署向けであると同時に、税理士など専門家への注意喚起として読むべき資料でもある。

実際、指摘の中心は、特別控除、仕入税額控除、譲渡所得、相続分、退職手当といった、専門家でも判断が揺れやすい領域だ。金額の大小より、「今年はどこでミスが生じたか」を読み取ることに価値がある。 さらに、検査報告には改正を織り込んだ予告になっていることも少なくない。主税局が自ら言い出しにくい課税上の問題を、会計検査院があえて指摘することで、改正への地ならしを図るケースだ。区分所有マンションや貸付不動産の改正が、その典型例と言える。

白井 一馬

しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。

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