法人成り <江崎光行先生の税理士事務所 四方山話 vol.20>

本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.148(2026.2)に掲載されたものです。


「そろそろ法人化を考えているのですが、何か注意点はありますか?」

個人事業主のお客様から、ご相談を受けました。法人成りは「所得の目安」と「資産の引き継ぎ」が検討すべき論点となります。

まず法人化による節税メリットを享受できる所得のラインですが、一般的には、青色申告特別控除前の所得が800万円から1,000万円程度が一つの目安とされています。所得税の超過累進税率に対し、法人税率は所得800万円以下であれば軽減税率が適用されるため、役員報酬に対する給与所得控除の活用や、家族への所得分散を組み合わせることで、世帯全体のキャッシュフローを最大化できる可能性が高まります。ただし、社会保険料の負担増もセットで検討すべきであり、注意が必要です。

次に資産の引継ぎについてです。個人事業主と法人は別人格なので、同じ事業をするとしても全く別ものとして考える必要があります。個人事業時代の資産を法人へどう移転させるかという点ですが、方法としては、「売買」「賃貸借」「現物出資」「贈与」の4つが考えられます。この中で「売買」「賃貸借」が一般的な手法です。

「売買」について、まずは個人側の取り扱いを整理します。棚卸資産については、通常の販売価額の概ね70%以上かつ仕入価額以上の適正な価額で譲渡する必要があります。これに満たない低額譲渡を行うと、所得税法第40条により時価で譲渡したとみなされるリスクがあるため注意が必要です。一方、車両や備品などの固定資産は「総合譲渡所得」として扱われます。これらには年間50万円の特別控除があるため、譲渡益がこの範囲内であれば個人側に課税は生じません。なお、個人側が消費税の課税事業者である場合には、事業用資産の譲渡は消費税の課税取引に該当する点に注意が必要です。売却価格に消費税が含まれることとなり、個人側で申告・納税義務が発生するため、最終的な手残りの資金計画に織り込んでおく必要があります。

次に法人側の取り扱いですが、個人から買い取った価額がそのまま取得価額となり、減価償却の基礎となります。このとき、中古資産として耐用年数を見直すことで、短期間で費用化できるメリットが生まれます。また、法人が消費税の課税事業者であれば、個人からの資産購入は仕入税額控除の対象となりますが、インボイス制度下では、個人側が適格請求書発行事業者でない場合、経過措置の適用にとどまる点に留意が必要です。

次に「賃貸借」についてですが、これは主に個人所有の事務所や車両などを、法人へ貸し付ける形式です。資産の所有権が個人に残るため、設立間もない法人側に多額の購入資金を必要としない点や、個人側で資産譲渡に伴う所得税が発生しない点がメリットです。個人側の受け取る賃料は「不動産所得」や「雑所得」となり、法人側では支払った賃料を経費に計上できます。

法人成りは、事業のさらなる拡大や対外的な信用力の向上を実現する大きな一歩です。法人化はゴールではなく、新しい経営ステージの始まりですから、法人成りした後の長期的な視野も踏まえたアドバイスも必要であると考えます。

江﨑 光行

えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。 現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、 ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。

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