【令和8年度改正】暗号資産の分離課税化と「特定暗号資産」の選別実務|20.315%への移行と損失繰越
暗号資産の申告分離課税化がついに動き出しました。令和8年度税制改正大綱により、最大55%という重い税負担が20.315%へと大幅に軽減される方針です。一方で実務上では「特定暗号資産」の切り分けや、損失の繰越控除への対応など、これまで以上に精緻な判断が求められることになります。
本記事では、改正の骨子を整理するとともに、施行までに税理士・会計士が対処すべき内容について詳しく説明します。
目次
【改正の根拠】金融商品としての位置づけの明確化

今回の改正によって、投機的な対象とされてきた暗号資産は、株や投資信託と同じく、健全な金融商品へと位置づけられます。
現行の総合課税制度では、最高税率が55%に達するため、個人投資家の含み益が海外へ流出する要因となっていました。今回の改正にて、税率は20.315%の分離課税に引き下げられます。改正によって国内での資産運用を促進し、Web3関連産業の競争力を高めようとする狙いです。
また、金融商品取引法等の改正とセットで「特定暗号資産」としての定義を明確にすることで、投資家保護の枠組みを強化し、他の金融所得との公平性を確保することも重要な目的の一つです。新しい制度によって、暗号資産は日本の金融市場において正式な投資対象として確立されることになります。
分離課税制度の概要
新制度において開始される分離課税制度の概要を詳しく説明します。
- 税率の変化
- 分離課税制度の対象範囲
- 所得区分の変更
税率の変化
最大の変更点は税率です。これまでは給与所得等と合算され、最大55%(所得税45%+住民税10%)の累進税率が適用されていましたが、改正後は一律20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)に固定されます。
法改正によって、高額な利益を得た場合の税負担が大幅に軽減され、上場株式や投資信託と同等の課税体系が整うことになります。
| 項目 | 現行の制度 | 改正後 |
| 課税方式 | 総合課税(雑所得等) | 申告分離課税 |
| 所得税率 | 5% 〜 45%(累進課税) | 15% |
| 住民税率 | 10% | 5% |
| 合計税率 | 最大 55% | 20.315% |
分離課税制度の対象範囲
すべての取引が申告分離課税の対象になるわけではありません。対象は国民の資産形成に資するものとして定義される「特定暗号資産」に限定されます。
具体的には、国内の金融商品取引業者等を通じて行われる現物取引、デリバティブ取引、および暗号資産ETFの収益が対象となる見通しです。
一方で、税務当局が把握しにくい海外取引所やDEX(分散型取引所)での取引、個人間取引などは、引き続き総合課税(最大55%)が適用される可能性が高く、実務上の厳格な区分が必要となります。
| 項目 | 申告分離課税の対象(23.315%) | 今まで通りの総合課税(最大55%) |
| 対象資産 | 特定暗号資産 | 左記以外の暗号資産 |
| 主な取引形態 | 国内登録業者を通じた現物・証拠金取引 | 海外取引所、DEX、個人間取引 |
| ETF・信託 | 暗号資産を投資対象とする投資信託等 | ー |
所得区分の変更
今回の改正では、暗号資産の所得区分が「雑所得」の枠組みから、上場株式と同様の「申告分離課税に係る譲渡所得等」に変更されます。
具体的には、特定暗号資産の譲渡による所得は譲渡所得、デリバティブ取引等による所得は雑所得と整理された上で、双方が申告分離課税の対象として統合されます。
法改正によって、従来は難しかった暗号資産の現物取引と証拠金取引の間での損益通算が可能になり、投資家の実態に即した課税が可能となる見込みです。
損失の3年間繰越控除の創設
改正後の新制度では、損失の3年間繰越控除が創設されます。
制度の詳細を2つのポイントにて説明します。
- 制度の内容
- 実務上の注意点
制度の内容
今回の法改正によって、暗号資産の取引においても損失の3年間繰越控除が導入されることになりました。
3年間の繰越控除は、特定暗号資産の取引によって生じた損失を、翌年以降3年間にわたって、特定暗号資産に係る利益から差し引くことができる仕組みです。
繰越控除によって、単年で大きな損失が出た翌年に利益が出た場合でも、通算して税負担を抑えることが可能になります。
繰越控除の主なポイントを一覧表にまとめました。
| 項目 | 内容 |
| 控除期間 | 損失が発生した以後3年間 |
| 対象となる利益 | 特定暗号資産の譲渡所得およびデリバティブ雑所得 |
| 適用要件 | 損失が出た年を含めて、毎年確定申告を行う |
| 損益通算の範囲 | 原則として特定暗号資産の間に限る |
実務上の注意点
実務上の注意点は確定申告の手続きと通算範囲の限定です。
繰越控除の適用を受けるためには、損失が生じた年、およびその後の各年において、取引の有無にかかわらず連続して確定申告を行う必要があります。
上場株式と同様、一度でも申告を怠ると繰越枠が消滅する恐れがあるため、注意が必要です。
改正案では「特定暗号資産」間での通算は認められますが、「上場株式等」の譲渡所得との通算については、まだ認められていません。この点にも注意が必要です。
実務上の注意点を一覧表にまとめました。
| 項目 | 実務上の注意点 |
| 申告の継続性 | 利益が出ていない年も申告が必要 |
| 他の区分との通算 | 原則、株式や先物取引との損益通算はできない |
| 取得価格の証明 | 繰越控除の特例を受けるには、正確な取得価格の証明が必要 |
| 対象外資産 | 海外取引所(総合課税)の損失は、分離課税の利益と通算できない |
総合課税のままの取引と課せられるペナルティ的な措置
法改正では、分離課税の対象外となる暗号資産取引に対し、厳しいペナルティ的措置がとられる方針です。
海外取引所やDEX(分散型取引所)での取引、個人間取引など、税務当局が捕捉しにくい取引には分離課税は適用されず、今まで通りの総合課税(最大55%)が課せられます。
さらに、単に高い税率が維持されるだけでなく、従来の譲渡所得が持っていた優遇措置が意図的に排除されます。
総合課税として残る取引に課せられる制限を一覧表にまとめました。
| 制限項目 | 改正後の扱い | 詳細 |
| 特別控除の廃止 | 50万円の特別控除が適用されない | 小額の利益でも全額が課税対象になる |
| 長期保有優遇の廃止 | 5年超保有時の1/2課税が適用されない | 長期保有の税制メリットがなくなる |
| 損益通算の廃止 | 他の総合課税所得との損益通算ができない | 損失が出ても他の所得を減らせない |
法改正の狙いは、投資家を金融庁の監督下にある国内登録業者へ誘導しつつ、取引の透明性を確保することにあります。海外の取引所をメインに利用している場合は、大きなデメリットを負うことになるため、注意が必要です。
適用時期と経過措置の見込み

新制度が適用されるのは2027年以降の予定です。含み損の取り扱いなども含めて、移行の処置について詳しく説明します。
- 実施スケジュール
- 含み損益の取り扱い
実施スケジュール
大綱では、適用開始時期を「改正法の施行日の属する年の翌年1月1日以後に行う譲渡等」と定めています。2026年の通常国会で法案が成立・施行された場合、実際の分離課税適用はその翌年である2027年からとなります。
新制度は金商法の改正を前提としていることを考慮しても、2027年の1月1日以降からの取引が対象と考えた方が良さそうです。
含み損益の取り扱い
制度以降前に生じた含み損は、分離課税導入後の利益と相殺できません。
現行の税制では、暗号資産の損失は雑所得内での通算に限られ、翌年への繰越も認められていません。分離課税が導入される令和9年以降、新たに発生した損失については3年間の繰越控除が可能になりますが、制度移行前に確定させた損失や、移行時に抱えている含み損を新制度へ持ち越すことはできない見通しです。
令和8年中に他の雑所得がある場合は、あえて移行前に損失を確定させて総合課税所得を圧縮する方が有利になるケースもあります。
まとめ
法改正後は株式などと同じく、暗号資産の税率は20.315%へ変更されます。従来の累進課税による、最大55%の税率から大きく変更される点に注目です。
暗号資産では認められなかった3年間繰越控除による、損失の救済もできるようになる見込みです。暗号資産の利益確定に困っていた投資家にとって、今回の法改正は大きなメリットとして受け入れられるでしょう
法改正の背景には、税務上、把握しにくいお金の流れを明確にする狙いがあります。改正後は、制度の対象外となる海外取引所などの取引に対して、ペナルティ的な措置が取られるため注意が必要です。
新制度の施行前に新しい制度の概要を一通り把握しておきましょう。
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