資格ソムリエに聞く、AI時代の「資格の選び方と使い方」

生成AIの進化によって、調べる、分析する、文章を書くといった行為はとても簡単になりました。

そのため、「AIに仕事を奪われる」という危機感から「資格でも取ろうかな」と思い立つビジネスパーソンが増えているようです。特に、ビジネスパーソンから圧倒的な支持を集める語学系資格(TOEIC、英検等)や財務・会計系(FP、簿記)に加え、近年はIT・情報処理系(ITパスポート試験、MOS等)の受験者数が急増中。また、AI関連の資格であるG検定や、Amazonが実施するAWS Certified AI Practitionerなども注目を集めています。

しかし、ありとあらゆる知識を持つAIが普及することで、「多くの資格は意味がなくなるのでは!?」という疑問の声も。そこで今回は、これまでに640以上の資格を取得し「資格ソムリエ」として活躍する、中小企業診断士で社会保険労務士、ワインエキスパートで僧侶でもある林雄次先生に、AI時代における資格の価値や、次に狙いたい資格の選び方について教えていただきました。

質問① AI時代に役立つ資格を教えてください!

林先生:
AIは私たち人間の仕事の多くを代替しつつありますが、一方で、人間が圧倒的に強い領域があります。それは、身体で感じ、感覚として受け取り、場の空気感を共有することで納得する、そんなアナログな世界です。例えば、お葬式では、お坊さんがお経を読み、ありがたい法話を聞かせてくださいますよね。もしAIが完璧な発音でお経を読んでくれたとして、それを「ありがたい」と感じるでしょうか。ほとんどの方はそう思わないはずです。祈りや儀礼の価値は、正確さではなく、人と人との関係性や場の空気によって成り立っているからです。だとすれば、AI時代に役立つ資格とは、こうした「人間でなければ扱えない領域」に関わるものだと思います。答えがひとつに決まらず、解釈や経験、人との関係性などが価値になる分野です。

例えば、ワインエキスパートの資格は、センサーや数値だけでは代替できません。もちろん、アルコール度数や果実味・エキス(タンニン、有機酸、糖分など)の割合・含有量で味を表現することはできます。しかし、「このワインにはタンニンが4g/L含まれているので、コクが深い」と言われても、ほとんどの方はピンとこないでしょう。芸能人の方がよく“食レポ”で苦戦していますが、味を伝えることは本当に難しいのです。このように「なんとなく分かるけれど、言葉にしにくい」ものを、どうにかして伝えようとする。その訓練をすること自体が人間の価値を高めてくれますし、そうしたプロセスこそが、AI時代の資格が持つ価値ではないかと考えています。

質問② 「お金になる資格」はありますか?

林先生:
これは正直な話をしないといけないのですが、今の時代、「資格を取っただけでお金になる」というものは、ほとんどありません。資格はあくまでスタート地点であって、それ単体で稼げる時代ではないと思います。ただし、仕事と結びつきやすい分野は確かにあります。特にマーケティングやブランディング、経営戦略といった領域は、成果が数字で見えやすく、クライアント側も価値を判断しやすい。そのため、結果的に「お金につながる資格」になりやすいのです。

これらは共通して、「売上を伸ばす」「価値を高める」といった経営課題と直結しています。ただし、繰り返しになりますが、資格を持っているだけでは評価されません。現場で使い、成果を出して初めて意味を持ちます。資格は、信頼を得るための「補助輪」のようなものです。実務経験や実績と組み合わさったときに、初めて「お金になる資格」になります。

質問③ このAI時代に、資格はとった方がいいですか?

林先生:
もちろん、とった方が絶対に良いです。

その理由は、主に2つあります。1つ目は、AI時代に最も重要なのは「問いの質」であり、資格で得る知識や、資格を取るための学習プロセスそのものが「問いの質」を高めることにつながるからです。AIは膨大な知識を持っていますが、何をどう聞くかは人間が決めなければなりません。問いが浅ければ、返ってくる答えも浅くなります。そして、良い問いは、知識や経験がなければ生まれません。人間は、知らないことに対して、そもそも疑問を抱くことができないからです。これからのAI時代、資格の本当の価値は、ここにあります。資格は知識を証明するためのゴールではなく、視野を広げ、問いの質を高める手段なのです。

それから2つ目、これも大切な視点ですが、ある分野で得た考え方が、まったく別の分野で役に立つことがあるからです。私はこれを、ビジネスを通じて何度も実感してきました。例えば、私自身も取得している品質管理検定(QC検定)です。品質管理というと、多くの方は「製造現場向けの資格」というイメージを持たれると思いますし、実際にそういう文脈で語られることも多い資格です。ただ、その中身をよく見ていくと、扱っているのは製造業固有の話ではありません。品質管理で問われているのは、「どうすればムダやバラつきを減らし、安定して成果を出せるか」という、ごく普遍的なテーマです。

このような考え方は、工場のラインだけでなく、事務作業やサービス業、さらには個人の仕事の進め方にも、そのまま当てはめることができます。ところが、製造業以外の方ほど「品質管理は自分には関係ない」と思ってしまいがちで、それは非常にもったいない。資格を通じて一つの分野の思考フレームを身につけていると、それを別の分野に持ち込むことができるようになります。品質管理検定も、私にとっては「製造業の資格」ではなく、「物事を整理して考えるための道具」の一つです。こうした異分野の知識や考え方を横断的に使えるようになることこそ、資格を取る最大の価値だと思っています。

― 質問④ AIによって、無くなってしまう資格はありますか?

林先生:
この質問は本当によく受けますが、正直なところ「影響を受ける資格」は確実にあると思っています。特に、やり方や手順がある程度決まっていて、成果物がデジタルで完結する分野は、AIの影響を強く受けやすいでしょう。その代表例としてよく挙げられるのが、WEBライター系の資格です。文章を書くという行為自体は、生成AIによって大きく変わりましたし、「文章を量産する」だけであれば、すでにAIの方が得意な場面も少なくありません。

ただ、だからといってWEBライター系の資格や、ライティングを学ぶ意味が完全になくなるかというと、私はそうは思っていません。むしろ、AI時代だからこそ、基礎として学んでおく価値は高まっていると感じています。というのも、AIが出力した文章を「そのまま使ってしまう人」と、「違和感に気づき、修正できる人」とでは、大きな差が生まれるからです。ライティングの基礎が分かっていないと、AIが生成した文章が良いのか悪いのかを判断できません。つまり、レビューができないのです。

この点、WEBライター資格で学ぶのは、単なる文章テクニックではありません。文章を書く以前の「考え方」が中心です。

これらは、AIに文章を書かせる際にも、そのまま役に立ちます。良いアウトプットを得るためには、良い指示、つまり先ほどもお話しした「良い問い」が必要になるからです。今後は、「自分で文章を書く人」と「AIに書かせる人」という分け方ではなく、「AIを使っても文章の質を担保できる人」と「AI任せになってしまう人」という分け方になっていくと思います。その差を生むのが、ライティングの基礎理解であり、WEBライター資格のような学びだと考えています。

まとめ:AI時代に資格をどう使いこなすか

林先生:
AI時代だからこそ、資格は次のようなことを意識して選び、使いこなしてほしいと思います。

  ・仕事に直結するかどうかだけで判断しない
  ・「教養を得るため」や、単なる好奇心から取ってもいい。思わぬところで役に立つ
  ・学んだことを必ず自分の言葉でアウトプットする

AIはアウトプットを高速化する道具にはなりますが、ゼロから価値を生み出すことはできません。自分自身の一次アウトプットがあって初めて力を発揮します。資格は、その一次アウトプットを支える「材料集め」として、とても有効なのです。

AIが進化すればするほど、人間には感覚、経験、解釈、発想といった価値が強く求められます。資格は、そうした力を鍛えるための学びの装置として、今後も意味を持ち続けるでしょう。資格を取るかどうかではなく、資格を通じて、どんな問いを持てるようになるか。従来から私は「資格は目的ではなく手段」だと主張してきましたが、AI時代に突入し、よりその視点が重要になると考えています。

林雄次 先生

はやし総合支援事務所代表 社会保険労務士 中小企業診断士
株式会社大塚商会でシステムエンジニアとしてキャリアをスタート。IT現場での実務経験を通じて、理論だけではなく「現場で使える知識」の重要性を体感する。その後、社会保険労務士をはじめとする多数の資格取得を重ね、学びを体系化する独自のスタイルを確立した。2018年頃から副業として個人活動を開始し、2020年に完全独立。 現在は、はやし総合支援事務所およびササエル株式会社の代表として、また、640を超える資格を保有する「資格ソムリエ」として多方面で活躍中。

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