貸付用不動産を利用したスキームを政府税調が問題視<今月の気になる税務トピック Vol.42②>
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.146(2025.12)に掲載されたものです。
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
政府税制調査会の専門家会合において、国税庁が提出した説明資料のなかで、一棟賃貸マンションや不動産小口化商品を活用した相続税対策が問題視されている(「経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合(第4回) 令和7年11月13日(木)」)。
説明資料では、一棟賃貸マンションの相続評価のあり方を問題提起している。たとえば21億円で購入した物件を相続税評価額4.2億円として申告し、約7.9億円の税負担を軽減したケースが紹介されている。
また、販売会社から不動産小口化商品としての信託受益権を3,000万円で購入した贈与者が、9歳の孫にこれを贈与。受贈者は評価通達に従って、投資対象となっている物件に基づき信託受益権を480万円と評価し、その後、信託受益権を市場価格で販売会社に売却し、取得価額とほぼ同額で現金化した例が紹介されている。
居住用区分所有マンションについては、高額なタワーマンションを活用した節税の問題をきっかけに、評価通達が見直され、全体的に評価が1~2割程度引き上げられる結果になった。具体的には、従来の路線価評価に、築年数等4つの指数を元に求める評価乖離率を乗じて評価する。しかし、一棟の賃貸物件はこれとは異なり、価格形成の個別性が高く、一律に適用できる補正モデルは作れないだろう。収益還元を使えば前提設定の恣意性が入り、税務上の評価とは本質的に相性が悪い。
また、相続税評価の場合は、賃貸していると貸家評価や貸家建付地として評価が減じられるが、それが時価と乖離することも指摘されている。
なお、今回の資料の中では、会計検査院が令和6年11月6日に指摘した、非上場株式の評価のうち類似業種比準方式に関する点については言及されていない。いずれにしても、いつこれらの評価通達の改正があってもおかしくないのだろう。
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白井 一馬
しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。
