最低賃金 <江崎光行先生の税理士事務所 四方山話 vol.18>

本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.146(2025.12)に掲載されたものです。


江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
江﨑 光行 先生

 「またそんなに上がるんですか?」

先日、東京都内の飲食店経営者と行った月次決算の打ち合わせで、令和7年度(2025年度)の地域別最低賃金をご案内した際、冒頭のコメントが返ってきました。

東京都の最低賃金は、令和6年(2024年)の1,163円から、令和7年(2025年)には1,226円へと、63円の大幅な引き上げが決定しました。

今回の最低賃金の上昇が、具体的に店舗経営にどれだけの影響を与えるのかシミュレーションを行いました。

前提条件
  • アルバイトの人数:15人
  • 店舗営業日数:30日(11:00~21:00)
  • 月間総アルバイト労働時間:1,420時間

この前提で63円の上昇額を当てはめると、人件費の増加額は以下の通りとなります。

月間の人件費増加額
63円/時給 × 1,420時間/月
89,460

毎月89,460円、年間で約1,073,520円のコスト増加要因となることが分かりました。年間で約100万円という数字は、中小の飲食店や小売店にとって、利益を大きく圧迫します。販売価格への転嫁は客数減少につながる恐れもあり難しいことから、場合によっては赤字転落の引き金となりかねない重い負担です。

最低賃金の上昇による影響は、上記の単純なコスト増以外にも、完全に売り手市場である現在の労働市場を反映して次のような追加の負担を生み出します。

1つ目は、新規採用コストへの影響です。アルバイトを新規募集する際、最低賃金ギリギリの時給で求人を出しても、応募がほとんど集まらないのが現実です。求職者はより高い時給を提示する競合他社へ流れてしまうため、優秀な人材を確保するには、結果的に最低賃金よりも高い時給を設定せざるを得ません。

2つ目は既存スタッフへの時給設定への波及です。新規募集の時給を最低賃金より高く設定すると、既存のアルバイトスタッフの時給も、新規募集の時給水準まで引き上げざるを得ない状況に陥ります。

これらの現象により、人件費は最低賃金の上昇幅以上に膨らんでしまうのです。

なお、飲食店や美容業などの人件費の割合が高い業種については、消費税の観点でも影響があります。消費税は、売上にかかる消費税から、仕入れや経費にかかった消費税を差し引く「仕入税額控除」が認められています。しかし、人件費は「課税仕入れ」に該当しないため、人件費がどれだけ増えても、仕入税額控除の対象となりません。

つまり、売上に対する消費税の計算において、最低賃金上昇によるコストが増えているにもかかわらず、控除できる金額は変わらないため、実質的な消費税の負担が重くなっているとも考えられます。

税理士としてお手伝いできることとしては、経営者に対して上記のようなコスト増加が生じうるという事象の情報提供と、具体的なシミュレーションを通じて、その影響を認識してもらうことです。併せて、上記コスト増加を踏まえて、稼ぐべき粗利益額と、それに対応する売上高(客数×単価)を具体的にお伝えしていくことが必要であると考えます。

江﨑 光行

えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。 現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、 ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。

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