物価高対策の事業向け支援とは?税理士・会計士が押さえるべき高市政権の最新支援策
物価高の長期化により、医療・介護施設や中小規模事業者の経営環境は更に厳しくなっています。エネルギーや原材料費の上昇、人件費の高騰が同時に起こり、資金繰りが苦しくなる事業者も少なくありません。
特に医療・介護分野では、主に収入が報酬改定に左右される一方で支出は急増するため、赤字転落する施設が全国的に増えており、地域医療や介護サービスの安定にも影響が出ています。
こうした状況に対応するため、政府は2025年11月に総額1兆円規模の物価高対策である事業向け支援を発表しました。特徴は、次の報酬改定を待たずに、必要な支援を早めに補助金として届ける仕組みになっている点です。
本記事では、医療・介護分野と中小企業支援の観点から、制度の内容や実務上のポイントを解説します。
目次
医療・介護の物価高対策|事業向け支援を前倒し投入

医療・介護分野では、人件費が全体支出の大部分を占める体質が以前から課題となっていました。物価高や人材確保競争が激しくなるなかで、施設の資金繰りが急速に悪化する事例が増えています。
このような背景から、政府は赤字の医療機関や介護施設を中心に、報酬改定を待たずに前倒しで資金を先に手当てする支援策を導入しました。
最初に、医療・介護従事者への前倒し賃上げ、基金を使った設備投資や業務改善の後押しなど、具体的な施策について解説します。
医療・介護従事者の前倒し処遇改善
今回の支援のなかでも注目されているのが、医療・介護従事者への前倒し賃上げです。医療分野では従事者の給与を3%引き上げるための費用が国の補助により半年分まかなわれます。介護分野では、従業員1人あたり月1万円を半年分補助する形です。
これらの措置は従来の報酬改定を待たず実施されるため、現場で増えている人件費の負担にすぐ対応できる点が大きなメリットです。
税理士・会計士は、この前倒し措置を踏まえた給与や賞与・手当の見直し、次の報酬改定を見据えた長期的な人件費計画の策定に関わることができます。顧問先の資金繰り改善やスタッフの定着につながる支援を行う機会になるでしょう。
「100億円宣言企業」支援と基金活用の成長投資
賃上げに取り組む大規模事業者、特に「100億円宣言企業」を対象とした基金を使った成長投資の後押しも強化されています。医療法人においても対象となる場合があり、賃上げと並行して設備投資、DX投資、人材育成をまとめて支援できる仕組みです。
医療機関ではCT・MRIなどの大型機器更新、電子カルテ更新、建物耐震補修や老朽化対策といった高額投資が欠かせません。この支援により、これまで後回しにされていた投資を前倒しで実施することが可能となり、医療の質を維持しながら、財務面の強化や競争力の向上にもつながります。
税理士・会計士は、投資計画の作成や資金調達のサポートができます。ただし、対象可否は基金ごとに異なるため、税理士・会計士は最新の要件確認をしましょう。
重点支援地方交付金による自治体の物価高対策
自治体が独自に医療・介護事業者を支援するための「重点支援地方交付金」も、今回の支援策で大きく広がりました。この制度では、各自治体が地域の実情や事業者のニーズに合わせて自由度の高い支援メニューを作れる点が特徴です。
具体的には、医療機関向けの追加の支援金や介護施設の設備更新補助、人材確保を目的とした独自加算などが可能となり、地域ごとの差を埋める役割も期待されています。
税理士・会計士は、自治体ごとに制度内容や補助額、申請手続きが異なる点に注意しましょう。顧問先が最大限活用できるよう、自治体の発表内容をこまめに確認し、予算の動きを把握、過去の支援実績を整理することが重要です。
また、地方交付金を活用することで、施設側は資金調達の負担を軽減しつつ、運営改善や人材確保の取り組みを計画的に進めやすくなるでしょう。
医療・介護現場の福利厚生支援と人材確保
賃上げや設備投資支援に加え、医療・介護施設の人材確保や福利厚生改善も支援の対象になっています。具体的には、従業員の住宅手当や研修費用補助、通勤費補助といった制度が拡充され、離職率低下や定着率向上につながる内容といえるでしょう。これらの支援は、特に人材不足が深刻な地域の施設で、職員の確保とモチベーション維持の両方で効果が期待できます。
税理士・会計士は、顧問先がこれらの支援を活用できるよう、申請条件の確認、支給タイミングの把握、補助金計上や給与体系への反映方法などをアドバイスしましょう。また、複数の支援制度を組み合わせて活用する場合のキャッシュフロー管理や財務計画の調整についても、専門家としてサポートが必要です。
設備更新・医療機器更新への資金支援
老朽化した建物や医療機器を新しくする場合は、多額の投資が必要であり、特に地方の中小医療機関では資金調達が大きな課題です。今回の支援では、資金を前倒しで確保でき、基金を使った投資支援も受けられるため、医療機関は必要な設備更新や医療機器導入を計画的に進めやすくなっています。
具体的には、CT・MRIなどの高額機器の更新、電子カルテの刷新、医療DXの推進などが挙げられます。設備更新の時期と補助金の支給時期をうまく合わせることで、無理のない投資計画を立てられる点も重要です。
税理士・会計士は、設備投資に必要な資金繰りの最適化や減価償却スケジュールの調整、補助金や基金をどう活かすかという計画づくりを支援できます。顧問先の財務基盤の強化や長期的な経営の安定につながるでしょう。
中小事業者への物価高対策|賃上げ・経営改善を支える事業向け支援

今回の支援パッケージでは、医療・介護分野だけではなく、中小・小規模事業者向けの支援も幅広く盛り込まれています。物価高で利益の確保が難しくなるなか、賃上げや投資をしたくても予算が足りず、事業を続けるための体制づくりが急務となっている事業者も少なくありません。
政府はこの課題に対応するため、賃上げしやすい環境づくりと経営改善、金融支援を組み合わせ、中小企業の収益力を底上げする仕組みを示しました。ここでは、支援の具体的な内容を解説します。
賃上げを後押しする推奨事業メニューの強化
中小企業向けの推奨事業メニューは、賃上げのための原資を生み出すために必要な経営基盤づくりを後押しする制度です。
具体的には、省エネ設備の導入や生産性向上のための投資、業務効率化ツールやデジタル化によるバックオフィス業務の負担軽減などが支援対象となります。これにより、事業者は収益構造を見直し、賃上げにつながる余力を確保しやすくなるでしょう。
特に近年は人手不足が深刻化しており、限られた人員で効率を高める取り組みが必須です。そのため、ITツール導入や業務フローの最適化、人材配置の見直しなど、単純な投資ではなく経営戦略と結びついた取り組みを検討しなければなりません。
税理士・会計士は、補助金選定から投資効果の分析、キャッシュフロー管理、減価償却計画まで、顧問先の賃上げ実現を幅広くサポートできます。
物価高騰対応・病院経営支援
この支援策には、医療機関向けの経営改善策も含まれています。物価高によるコスト増を補う仕組みだけではなく、老朽化した病院の建替え支援や地域医療構想に合わせた病床数見直しを進めるための基金など、財務面と事業運営面の両方を支える内容です。
今回の基金創設により、これまで先送りにされていた建替えや設備更新を前倒しで進めやすくなりました。
税理士・会計士が顧問先の資金計画や投資計画づくりに携わる機会も増えるでしょう。また、基金を活用することで自治体との連携も整いやすくなり、地域医療体制の安定にもつながります。
単価引上げ反映と価格転嫁
公共事業を請け負う中小企業は、物価高でコストが上がっても契約金額に反映されず、利益が圧迫される状況が続いていました。今回の見直しでは、労務単価や資材単価の引上げに加えて、価格転嫁を当たり前にできるルールを整える方針が示されています。
これにより、建設業やIT業など官公庁と取引の多い事業者は、増えたコストを適切に回収しやすくなり、利益率の改善や経営の安定につながります。
税理士・会計士は契約内容の確認や、価格転嫁が可能かどうかのアドバイス、利益計画への組み入れなどのサポートを通じて、顧問先の収益確保に貢献できます。
資本性劣後ローンの拡大
資本性劣後ローンは、金融機関から自己資本として扱われるため、企業の財務体力を強める資金調達方法です。この劣後ローンが拡充され、事業者が投資資金を確保したり、追加融資を受けやすくしたりと、様々な形で活用できるようになりました。
税理士・会計士は、劣後ローンを組み入れた資金繰り計画や財務改善策の提案をすることで、顧問先の中長期的な成長をサポートできます。
特に、物価高や賃上げの影響が続くなかで安定的な資金調達手段を持つことは、中小企業の経営を支える大きな力になるでしょう。
物価高対策の事業向け支援を実務に活用
物価高対策の事業向け支援は、医療・介護分野と中小企業の双方に向けて総額1兆円規模の予算が投じられる大きな取り組みです。その内容は幅広く、多くの業種で経営改善につながります。税理士・会計士がこれらの制度の背景や目的を正しく理解し、顧問先の実務に直結するサポートを行いましょう。
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