副収入の扱いは?知っているようで知らないふるさと納税の上限

ワンストップとは?副収入の扱いは?知っているようで知らないふるさと納税の上限

年末が近づくと、クライアントから「今年はふるさと納税、いくらまで寄附して大丈夫でしょうか」という相談をうけたことはありませんか。返礼品サイトを開けば、お肉やカニ、フルーツの写真が並び、つい気持ちが浮き立ちます。

しかし、ふるさと納税は、できる額に上限があり、その枠を超えると純粋な寄附になる制度です。節税のつもりで寄附したのに、結果として思ったほどお得感がなく、「少しやり過ぎた」と感じる方も少なくありません。

この記事では、ふるさと納税の上限額の考え方を整理したうえで、いくつかの典型的な事例から上限額を計算してみます。そして、毎年の習慣として寄附額を決めるための「流れ」もご紹介します。

目次

ふるさと納税の上限と計算の考え方

ふるさと納税のしくみを一言で表すと、「寄附額から2,000円を引いた金額が所得税と住民税から控除される制度」です。控除という言葉が少し固く感じられるかもしれませんが、「本来納めるはずだった税金の一部を、寄附という形で前払いしている」と考えるとイメージしやすくなります。

ポイントは、「いくらでも税金が減るわけではない」というところです。控除は、まず所得税で一部が差し引かれ、残りが住民税の「基本分」と「特例分」で調整されます。このうち、ふるさと納税特有の部分が住民税の特例控除で、住民税所得割額の2割(20%)までしか使えないという上限があります。ここが、自己負担2,000円で済む寄附の“天井”になっているのです。

また、上限額を決めるのは年収そのものではなく、「各種控除を差し引いたあとの課税所得」です。社会保険料控除、配偶者控除、生命保険料控除、住宅ローン控除などによって課税所得は変わり、結果として住民税所得割額も変わります。同じ年収450万円でも、家族構成や控除の内容によって寄附の上限額は違ってきます。上限額の計算は、年収だけでは語れないというところを、まず押さえておきたいところです。

例①年収450万円・配偶者年収100万円(扶養内)の場合

最初の例として、夫が年収450万円、妻が年収100万円という世帯を考えてみます。妻の年収が103万円以下であれば、夫は配偶者控除を使うことができます。配偶者控除がある分、夫の課税所得は小さくなり、結果として住民税所得割額も少なくなります。

細かい計算は自治体の条件などでも変わりますので、ここでは流れだけ追ってみます。年収450万円から給与所得控除を差し引き、社会保険料などの控除を引き、さらに配偶者控除も差し引くと、夫の課税所得はおおよそ260〜270万円前後になります。住民税所得割額は、この課税所得に対しておよそ10%がかかりますので、約26万円前後だとイメージしていただくとよいでしょう。

ふるさと納税の住民税特例控除は、この住民税所得割額の20%が上限です。26万円の20%は5万2,000円ですから、夫が自己負担2,000円で済む寄附の上限は、おおよそ5万円前後と考えられます。実際に返礼品サイトを利用するときには、これより少し余裕を見て、45,000円〜50,000円のあいだで寄附額を調整すると安心です。

このように、配偶者が扶養に入り、配偶者控除で税金が軽くなっている世帯では、そのぶんふるさと納税の上限も小さくなる傾向があります。「扶養に入れたから節税できたし、寄附もたくさんできるはずだ」と考えがちですが、実際には逆の動きが起こる、という点をぜひ顧問先にも伝えてあげたいところです。

例②年収450万円・配偶者年収300万円(共働き)の場合

次に、夫の年収が450万円、妻の年収が300万円という共働きの家庭を考えてみます。妻が年収300万円の場合、もはや扶養には入れませんので、夫は配偶者控除を使うことができません。その結果、夫の課税所得は先ほどの例よりも大きくなり、住民税所得割額も増えます。そのぶん、ふるさと納税に使える上限も広がります。

たとえば、夫の課税所得が先ほどより少し増えて280万円台になれば、住民税所得割額も28万円前後に増えます。すると、その20%である特例控除の上限は約5万6,000円となり、寄附の上限は6万円近くまで見込めるようになります。

さらに、共働きの場合は妻にも独立した寄附枠があります。妻が年収300万円で、控除がそれほど多くないとすれば、課税所得は150万円弱、住民税所得割額は15万円前後になります。その20%は3万円ですから、妻も自己負担2,000円でおおよそ3万円程度の寄附ができる計算です。

夫婦ふたり分を合計すると、5〜6万円と2〜3万円で、だいたい9〜10万円ほどが「世帯全体として見た寄附可能額」というイメージになります。ただし、ここで注意したいのは、ふるさと納税はあくまでも個人単位の制度だということです。夫が10万円をまとめて自分名義で寄附しても、控除を受けられるのは夫の上限までで、妻の枠は使われません。

財布が一つでも、税金の計算は別々です。共働き世帯では、夫婦それぞれの源泉徴収票を並べて、「あなたはいくらまで、私はいくらまで」と話し合いながら寄附額を分けていくのが、もっとも賢いやり方だと言えます。

ふるさと納税サイトとワンストップ特例のしくみ

最近は、ふるさと納税のポータルサイトを使うと、申し込みからワンストップ特例の手続きまで、ほとんどがオンラインで完結するようになりました。返礼品を選び、寄附額を入力すると、「ワンストップ特例を利用するかどうか」という選択肢が表示されます。ここで「利用する」を選ぶと、必要事項の入力画面が開き、氏名や住所、マイナンバーなどを登録する流れになります。

自治体によっては、紙の申請書を後日郵送する方式も残っていますが、マイナンバーカードと専用アプリを使ってオンラインで本人確認を済ませ、そのままワンストップ申請まで完了できるケースも増えました。寄附者から見れば、ふるさと納税サイトで返礼品を選び、表示に従ってボタンを押していくだけで「寄附」と「申請」が同時に済んでしまう仕組みです。

 こうした便利さが、ふるさと納税をぐっと身近な存在にしたと言ってよいでしょう。しかし、このワンストップ特例は、すべての人が使えるわけではありません。

Webでワンストップ特例が使えない人

まず、ワンストップ特例制度を利用できるのは、「寄附先が5自治体以内」の場合です。「どの自治体に寄附したのか」ではなく、「いくつの自治体か」という数で判定される点がポイントです。5つまでならワンストップ、6つ以上なら確定申告が必要と覚えておくと良いでしょう。

また、医療費控除を受ける年、住宅ローン控除の初年度、副業収入があって確定申告を行う年など、「そもそも確定申告が必要な人」はワンストップ特例を使うことができません。この場合は、ふるさと納税の寄附分も含めて、すべて確定申告で精算することになります。

加えて、ワンストップ特例を申請したあとで引っ越しや結婚による改姓があったのに、変更届を出していなかった、という理由で控除が適用されないケースも見受けられます。ふるさと納税サイトでの申し込みが簡単になった分、こうした細かい前提条件が見落とされやすくなっています。

確定申告で手続きする場合の具体的な流れ

ワンストップ特例の対象外になる人や、あえて確定申告でまとめて精算したい人は、確定申告書でふるさと納税分を申告します。流れとしては、まず各自治体から送られてくる「寄附金受領証明書」を年度ごとにまとめて保管しておきます。

確定申告の時期になったら、e-Taxソフトや税務署備え付けの用紙で申告書を作成します。寄附金控除の欄に、どの自治体にいくら寄附したかを入力し、合計額を記載します。e-Taxを利用する場合は、証明書のスキャンデータや、ポータルサイトが提供する「寄附金控除に関する証明書」のデータを添付して送信します。書面で提出する場合は、寄附金受領証明書を申告書に添付して税務署へ提出します。

こうして申告された寄附金控除は、まず所得税から控除され、残りの部分が翌年度の住民税に反映されます。住民税への反映は6月以降の住民税決定通知書に現れ、毎月の給与から天引きされる住民税の金額が少し減ることで実感できます。「寄附をした翌年の、6月以降の住民税が軽くなる」と理解しておくと、ふるさと納税の時間軸が見えやすくなります。

副業や株の配当金など副収入がある場合の考え方

副収入がある方は、ふるさと納税の上限額についてもう一歩踏み込んで考える必要があります。株式の特定口座で源泉徴収ありのままにしている場合、その利益や配当は給与所得とは切り離されて課税されるため、原則としてふるさと納税の上限額には影響しません。

しかし、配当控除を受けるために総合課税に切り替えたり、株式の利益と損失を通算するために確定申告を行ったりすると、課税所得が上下します。その結果、住民税所得割額も変わり、ふるさと納税の上限額が広がったり、逆に縮んだりします。

たとえば、ある年は株の配当や売却益が多く、課税所得が増えたために寄附枠が広がることがあります。ところが翌年、相場が崩れて損失を計上し、損益通算で課税所得が下がると、前年と同じ感覚で寄附した額が、実は上限を超えていた、ということが起こり得ます。

副業の事業所得や不動産所得でも同じです。黒字が続いている年なら寄附枠に余裕があっても、ある年に大きな赤字を計上すると、一気に枠が縮みます。ふるさと納税を毎年の習慣にするなら、「今年は副収入が増えた年か、減った年か」を意識しながら寄附額を決めることが大切です。

毎年の習慣にするための「寄附額を決める流れ」

ふるさと納税は、一度仕組みを理解すると生活の中に溶け込んでいきます。ただ、その年の気分だけで寄附額を決めてしまうと、思わぬ持ち出しになったり、本来使えたはずの枠を使い残したりしてしまいます。毎年の習慣として続けるのであれば、寄附額を決める「流れ」を持っておくと心強くなります。

おすすめしたい流れは、次のようなものです。

まず、年末調整が終わって源泉徴収票が手元に届いたら、その年の所得と控除の状況を確認します。前年と比べて大きな変動がないか、扶養家族の数が変わっていないか、副業収入や株の利益にも注意しましょう。

次に、課税所得をざっくり計算してみます。細かな数字にこだわる必要はありません。給与所得控除や各種控除を差し引いたあと、「およそこれくらいだろう」という感覚で構いませんので、課税所得の目安をつかみます。

そして、その10%ほどを住民税所得割額の目安とします。課税所得が250万円であれば、住民税所得割は25万円前後と考えられます。

最後に、その住民税所得割額の20%を計算します。25万円の20%は5万円ですから、この年のふるさと納税の上限額はおおよそ5万円ということになります。

実際に寄附する際には、少し余裕を見て4万5,000円〜5万円の範囲で返礼品を選ぶと、自己負担2,000円の範囲に収まりやすくなります。手順をリストにまとめると次のようになります。

  1. 源泉徴収票・控除証明書を用意
  2. 課税所得をざっくり把握
  3. 課税所得×10% ≒ 住民税所得割額を推定
  4. 住民税所得割額×20% = 上限寄付額
  5. 余裕を見て90〜95%程度を寄付額の目安にする

これを毎年、秋から冬にかけて恒例行事にすると、ふるさと納税は“勢いで申し込む制度”ではなく、“数字を確かめてから使う賢い制度”へと姿を変えていきます。

まとめ

ふるさと納税は、返礼品の魅力ばかりが注目されがちですが、その本質は「自己負担2,000円の範囲で寄附できる枠をどう使うか」という制度です。上限を決めるのは年収ではなく、控除を差し引いたあとの課税所得であり、その結果として決まる住民税所得割額です。配偶者が扶養に入っているか、共働きか。副収入が増えた年か、損失が出た年か。住宅ローン控除の有無など、生活の変化が寄附の枠にも影響してきます。

制度の仕組みを知れば、ふるさと納税は不安なものではなく、納税者と自治体のあいだを静かにつなぐ、頼もしい橋のような存在になります。数字と向き合いながら、自分にとって無理のない範囲で寄附を続けていく。そんな付き合い方が、これからのふるさと納税にはふさわしいのではないでしょうか。

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