サナエノミクスで貸し渋り?(小宮一慶先生 経営コラムVol.96)

本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.146(2025.12)に掲載されたものです。


株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO
小宮 一慶 先生

私はこの時期になると必ず思い出すことがあります。若い人たちは知らないと思いますが、1997年11月に日本は戦後初めての金融危機を経験したのです。

3日に中堅証券会社だった三洋証券が、17日に都市銀行のひとつだった北海道拓殖銀行が破綻、四大証券の一角の山一証券が勤労感謝の連休明けに破綻、11月の最終週には仙台の地方銀行が破綻しました。その後、金融機関が次々と破綻していったのです。

金融危機の状況の中で、銀行にはもうひとつ頭の痛い問題がありました。それは銀行の「自己資本比率規制」です。銀行には、ある一定の自己資本比率を維持する規制が課せられています。一般企業の場合と比べて計算方法は少し複雑ですが、基本的な考え方は同じで、資産をまかなっている資金源のうち、返済不要の自己資本が何%あるかというものです。

銀行にとって資産の多くは「貸出し」です。金融危機時には、当然、不良債権が多く出るので、損失が多く出て、自己資本がどんどん減少していきます。銀行としては、金融危機時に自己資本が減少していく中、自己資本比率の維持が必要で、それを超える勢いで資産、とくに貸出しを減少させました。「貸し渋り」でとどまらず、「貸しはがし」が起こったのです。

ここまでは過去の話です。しかし、高市早苗氏が首相に就任してから、長期金利が上昇しはじめました。自民党総裁に選出された直後に、10年国債利回りが1.7%をつけ、その後、この原稿を書いている時点では1.69%程度で推移しています。そして今後も上昇する懸念が小さくありません。

高市早苗首相は「責任ある積極財政」を唱えていますが、積極財政は、それでなくても国債発行額が多いわが国では高い確率で長期金利の上昇をもたらします。長期金利上昇により、まず、借入れの多い企業の経営がしんどくなります。先日も、お客さまから「最近、長期の借り換えをおこなったら、金利が倍になった」と聞かされました。

そして、もっと憂慮すべきことがあります。

国債金利の上昇が、国債を大量に保有する銀行の含み損を拡大することとなるということです。その結果、銀行の自己資本は実質的に大幅に低下する可能性があり、貸出しを大幅に減少させる可能性があるのです。貸し渋り、貸しはがしが起これば、当然、借入れ依存の多い企業には少なからぬ影響が出ます。 いずれにしても、高市政権は積極財政を推し進めるつもりです。「責任ある」と言っていますが、本当に金融市場まで目配せしているかは不明です。長期金利の動きからは目が離せません。

小宮 一慶

こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、日本福祉サービス(現:セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を展開する一方で、年100回以上講演を行っている。経営・会計・経済・ビジネススキル等をテーマにした著書160 冊以上、累計発行部数は410 万部を超える。

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