事前確定届出給与の指導失念による税賠事例 <今月の気になる税務トピック Vol.41-2>
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.145(2025.11)に掲載されたものです。
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
税賠事故事例の紹介記事より(ZEIKEN-2025.9(No.243)P86「特定役員の定期同額給与・事前確定届出給与の指導失念により過大納付法人税額が発生した事例(事前税務相談)」)。
長年関与していた顧問先で、ある役員の株式保有割合がいつの間にか5%を超えていた。しかも、その役員が属する株主グループ全体の持株割合も50%を上回っていたため、その役員は使用人兼務役員になれない、いわゆる純然たる役員に該当することとなった。
ところが、この変更が及ぼす影響を税理士が顧問先に指導していなかった。定期同額給与以外の臨時支給には事前確定届出が必要であるが、そのアドバイスを怠っていた。そのまま数年間、法人税申告を続けた結果、税務調査で事態が発覚したという。
「税理士は、役員Aの株式所有割合が5%を超えたことについて、法人税確定申告書や株主名簿で認識できる状況であり、役員Aの賃金台帳を長期にわたって確認せず特定役員の役員報酬の指導を怠ったことについて過失ありとされ、過大納付税額約2,800万円から税効果による回復額約100万円を差し引いた約2,700万円を認容損害額とし、免責金額を控除した約2,670万円が保険金として支払われた」。
誰でもついうっかりしてしまいそうな事案だ。使用人兼務役員がいる場合、株式保有割合の変動を把握するのは難しいが、別表2の作成を通じて確認は可能であるため、税理士に言い訳の余地はないと自覚する必要がある。持株割合の増加は株主本人の取得によらず、自己株式の取得や相互持合いによる発行済み株式数の減少でも生じうる。決して他人事ではない事例である。
白井 一馬
しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。
