信託と小規模宅地特例 <今月の気になる税務トピック Vol.41-1>
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.145(2025.11)に掲載されたものです。
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
自宅を家族に信託譲渡し、本人死亡で信託が終了。この場合に残余財産として自宅敷地を取得した親族は小規模宅地特例が使える、とのことである。相続税法では、残余財産の取得は小規模宅地特例の適用範囲に含まれない(相法9の2④⑥、措令40の2㉗)とされている。そのため「適用できないのでは」という疑問があったのだが、「取得とみなして適用して良い」との税務通信の解説(No.3870)だ。
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① 自宅を遺贈で取得
② 自宅を受益権として取得
③ 自宅を残余財産として取得
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②の場合については、信託の形態に応じ、相続税法9の2第1~3項で「受益権を遺贈で取得したものとみなし」、第6項で「受益権を取得した者は自宅土地建物を取得したものとみなす」ことを規定している。
これに対し、③の残余財産として取得した自宅については、第4項により「遺贈により取得したもの」とみなして相続税が課税される。最初から自宅土地建物を取得しているのだから、わざわざ6項で自宅土地建物の取得とみなす必要がない。ところが小規模宅地特例は、措令40の2㉗において6項だけを準用している結果、③について小規模宅地特例の適用が可能なのか疑問があったわけだ。
しかし、③だけアウトにする理由はない。解釈で適用可能とするのは妥当だろう。空き家譲渡特例が適用できないことと比べると結論は逆になる。措置法における「遺贈とみなす規定」が本法に及ぶのか否かは条文ごとに解釈するしかない。
白井 一馬
しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。
