会計帳簿閲覧謄写請求権とは?株主は会計帳簿や関係書類を見ることはできるのか?

会計帳簿閲覧謄写請求権とは?株主は会計帳簿や関係書類を見ることはできるのか?

会社に対して株主が持っている権利のひとつに会計帳簿閲覧謄写請求権があります。会社の会計帳簿や関係書類の閲覧や謄写を請求できる権利です。

ただし株主全員がその請求権を持っているわけではありません。会計帳簿等には会社の機密を含む重要な情報が記載されており、閲覧謄写の権利を行使するためには、株主として一定の条件を満たすとともに、請求に係る正当な理由が必要です。

本記事においては、会計帳簿閲覧謄写請求権について、会社法の条文に則り、その概要や請求できる株主の条件、請求できる会計帳簿の種類や権利行使の方法、行使の際の注意点、会社が請求を拒否できるかどうかなどについて詳しく解説します。

目次

会計帳簿閲覧謄写請求権とは

会計帳簿閲覧謄写請求権とは、会社法第433条により保証されている会社の株主が持つ権利のひとつです。

株主は一定の条件を満たせば、会社に対して「会計帳簿またはこれに関する書類」の閲覧・謄写(コピー)を請求できます。

会社法第433条で以下のように定められています。

一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求

二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

引用元:会社法e-Gov法令検索

会計帳簿閲覧謄写請求権を行使できる株主

では会計帳簿閲覧謄写請求権を行使できる株主とはどのような条件を満たした株主でしょうか?

全ての株主がこの請求権を行使できるわけではありません。会社法第433条に拠れば、会計帳簿閲覧謄写請求権を行使できるのは、その会社の株式を3%以上保有している株主のみとなっています。ただし、単独で株式を3%保有していなくても、複数人の株主で合計して3%以上となれば、本請求権は行使できます。また会社の定款に定めることで、その比率を3%以下に引下げることも可能です。

この制限が設けられているのは、株主によって請求権を濫用されることを防止する意味合いもあります。

一方、株主が会計帳簿閲覧謄写請求権を持っていても常に閲覧謄写ができるというわけでもなく、請求する場合は理由を具体的に記載した書面が必要になります。

もちろん法律的には書面でなく口頭で請求することも可能ですが、その際、閲覧を請求する理由(閲覧の目的)を相手に明示する必要があるため、実務的には書面で請求する方が適切です。さらに、請求に当たり不安な場合には、内容証明で通知したり、弁護士に依頼したりして権利行使することもできます。また閲覧や謄写の際、発生した費用については株主が負担します。

以下は会社法第433条、会計帳簿閲覧謄写請求権を行使できる株主に関する条文です。

第433条 総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)

引用元:会社法e-Gov法令検索

親会社の株主のケース

会計帳簿閲覧謄写請求権については、当該会社の株主のほか、親会社の株主についても同様の請求が可能です。ただし裁判所の許可が必要となるため、当該会社の株主の場合より申請のハードルは上がります。

第433条3 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、会計帳簿又はこれに関する資料について第一項各号に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

引用元:会社法e-Gov法令検索

閲覧請求を申請後に持株比率が低下した場合の対応

では株主が閲覧請求を申請後に、何らかの理由で申請人の持株比率が3%を下回り請求するための資格要件を満たさなくなった場合、どう対応したらいいのでしょうか、また相手にどのように判断されるでしょうか?

2つのケースで解説します。

【株式譲渡で持株比率が低下したケース】

原則、会計帳簿閲覧謄写請求権の権利行使においては、請求の申請時も実際の閲覧時にも、株主は持株比率3%以上の適格要件は満たしておく必要があります。そのため、株主が意図的に株式譲渡等で持株を移転して、結果的に持株比率が要件以下に下がってしまったら請求権を失ってしまいます。

【会社の新株発行で持株比率が低下したケース】

一方、会社が行った新株発行により、株主の意図しない理由で持株比率が下がった場合、株主の会計帳簿閲覧謄写請求権はどう判断されるのでしょうか?従来の通説では、請求の申請時に要件さえ満たしていれば、それ以降に新株発行により株主に持株比率の低下が発生しても、それは株主に責任がないため請求権は失われないと見なされてきました。

しかしその後の最高裁判決で、新株発行のケースでも申請後に株主の持株比率が下がった場合に申請人の請求が却下された判例が出たことから、以後は通説が通らないケースも出てくることが予想されます。

今後については、株主が会計帳簿等の閲覧謄写請求を行う場合には、申請時以降も持株比率の適格要件を保持するよう注意する必要があります。

請求できる期間と請求の理由

会計帳簿閲覧謄写請求権を請求できる期間(時間)と、請求の理由について主なものを解説します。

請求できる期間

会社法第433条に拠れば、権利の行使者が会計帳簿を閲覧したり謄写できたりする期間(時間)は、会社の営業時間内であればいつでも可能です。

請求の主な理由と請求理由の明示が必要な理由

会計帳簿の閲覧謄写請求理由としては以下のようなケースが挙げられます。

  • 取締役の不正行為の疑いを調査するケース
  • 取締役の違法行為の差し止め、すでに取締役が行った行為に対して会社に損害賠償を求めるケース
  • 取締役の独断専横の是正のため、取締役の解任を議題とする株主の招集請求を行い最終的に当該取締役の解任を図ろうとするケース
  • 取締役の解任の訴訟を起こすために資料収集を必要とするケース
  • 会社の経理上の問題点を把握解明するため調査を必要とするケース

請求に際しては、理由のみで請求できるケースと、理由を基礎づける事実がなければならないケースがありますので注意が必要です。

さらに請求権行使において、申請する株主が閲覧の目的を明示しなければならない理由として主に以下の2つがあります。

1点目の理由は、請求を受けた会社側が、閲覧の目的と閲覧に必要な帳簿の範囲を把握して、そこに拒否する理由があるかどうかを判断するためです。

2点目の理由は、特に理由のない単なる調査目的の閲覧ばかりまで認められてしまうと、会社の重要な企業秘密まで漏洩するリスクが生じるので、当該会社としても納得性のある具体的な閲覧理由を持つ株主にのみ閲覧を絞った方がリスクを下げられるからです。

請求権で閲覧謄写を請求できる会計帳簿の種類

要件を満たした株主が閲覧謄写請求できるのは、会計帳簿と会計帳簿に関する資料です。会計帳簿は大きく分けると主要簿と補助簿があります。

主要簿は主に以下の3種類があります。

  • 仕訳帳…日々の取引を発生順に借方/貸方に仕訳して記帳した帳簿
  • 総勘定元帳…仕訳帳を同じ配置で転記して勘定科目ごとに全取引を記録した帳簿
  • 日記帳…日々の取引を発生順に記録する帳簿で、仕訳帳作成のためのメモ書きとして位置づけられた帳簿

上記のうち、仕訳帳と総勘定元帳は作成の義務がありますが、日記帳には作成義務はありません。

特に総勘定元帳は、決算で作成が義務付けられている損益計算書及び貸借対照表のベースとなる基礎資料なので、内容に正確性が求められる重要帳簿になります。

一方補助簿は主要簿の詳細が分かる帳簿です。

補助簿は、たとえば、ある勘定科目を細かく分類して管理したいときに作成します。補助簿には様々な種類がありますが、主な帳簿の種類としては以下の通りです。

  • 現金出納帳
  • 預金出納帳
  • 商品有高帳
  • 売上帳
  • 仕入帳
  • 受取手形記入帳
  • 支払手形記入帳
  • 得意先元帳
  • 仕入先元帳
  • 商品有高帳
  • 固定資産台帳

補助簿を見れば、取引先・仕入先ごとの取引状況や、金融機関ごとの取引内容・残高などが把握できます。

一方、会計帳簿に関する資料としては主に以下の資料があります。

  • 伝票
  • 領収書
  • 請求書
  • 契約書
  • 受取書
  • 信書

これらは会計帳簿を作成するうえで必要な資料ですが、特に具体的な書類が定義されているわけではありません。株主が適宜、必要性や目的に合わせて請求します。

会社は会計帳簿閲覧謄写の請求を拒否できるのか?

株主が会計帳簿閲覧謄写請求権を行使して請求をしてきた場合、当該会社はその請求を拒否できるのでしょうか?

結論から先に書けば、会社法第433条の2項に記載された各項目に該当した場合、会社は請求を拒否できます。

まずは会社法に沿って関係する条文を引用します。

会社法第433条2 前項の請求があったときは、株式会社は、次のいずれかに該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができない。(下線は弊社が補足)

一 当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき
二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき
三 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき
四 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を、利益を得て第三者に通報するため請求したとき
五 請求者が、過去二年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を、利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき

引用元:会社法e-Gov法令検索

会社が請求を拒否できる場合

会計帳簿や関係書類には会社の様々な重要情報が記載されています。

それらを会計帳簿閲覧謄写請求権の濫用で株主に取得され、会社に甚大な影響を受ける場合には請求の拒否も可能です。

たとえば上記条文3にあるように、請求してきた株主が同業他社の経営者など、実質的に競争関係にある場合、会計帳簿等を閲覧されてしまうと、機密情報が漏れて会社の売上や利益を害する可能性があります。

さらに条文4及び条文5にあるように、利益を得て第三者に対して漏洩する目的で行われた請求行為も会社はまた拒否できます。

ただし会社が不当に拒否したと株主が判断した場合、株主は裁判所に対して会計帳簿閲覧謄写の仮処分手続きという対抗策も取れますので、拒否の判断に際しては、会社側は弁護士等の専門家と相談するなど細心の注意が必要です。

拒否理由の立証責任について

上記のどれかのケースに該当した場合、会社は閲覧を拒否できます。

ただし拒絶事由の立証責任は会社側にありますのでご注意ください。

たとえば、第三者への情報漏洩を目的とした会計帳簿閲覧謄写請求権が行使された場合、事実かどうかの立証は会社側が行わねばなりません。一方、会社に請求を不当に拒否された場合、株主は訴訟を提起するか、急ぐ時には仮処分の手続きで対抗することもできます。

さらに会社が請求を拒否するだけでなく、会計帳簿の内容を改ざんする恐れもある場合には、株主は裁判所に対して証拠保全の手続きを要求することも可能です。

まとめ

今回は、会計帳簿閲覧謄写請求権について、その概要や行使の際の注意点等を詳しく解説しました。

まとめると、会計帳簿閲覧謄写請求権はその会社の株式を3%以上保有している株主が行使できます。また単独で要件を満たせなくても、複数人で保有割合が3%以上になれば請求は可能です。

ただし請求の権利を満たしている株主でも正当な理由なしの閲覧はできず、会社側が経営上、不利益を被る可能性があると判断すれば拒否されることもあります。

会計帳簿及び関係書類は、会社の経営戦略上、最も重要な書類です。いつ株主から閲覧請求を受けてもいいよう準備しておくことは言うに及ばず、会計帳簿類の整理整頓は会社経営の要であるとの認識のもと、経営者や担当者は日ごろからきちんと作成管理しておく必要があります。

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