水増し請求はどうしてバレる?税理士・会計士が知っておきたいリスクと防止のポイント

水増し請求はどうしてバレる?税理士・会計士が知っておきたいリスクと防止のポイント

水増し請求とは、実際よりも高い金額を請求する不正行為のことです。一見小さな誤りのように見えても、意図的に行えば刑事事件に発展することもあり、企業の信用を大きく損ねる原因にもなります。

この記事では、水増し請求が発覚する理由、どのようなリスクがあるのか、防止のために税理士・会計士ができることについて解説します。

目次

水増し請求とはどのような行為か

企業の経理業務や請求処理では、日々多くの取引が行われています。水増し請求は、表面的には正当な請求書のように見えるため発覚しにくく、気づいたときには大きな損失や信用問題に発展しているケースも少なくありません。最初に、水増し請求の基本的な意味や、実務で起こる具体例について解説します。

水増し請求の定義と典型的なパターン

水増し請求とは、実際に発生していない費用を請求したり、実際よりも高い金額で請求する行為を指します。例えば、経費精算で交通費や接待費を多めに申請したり、実際の工数よりも長い作業時間を報告して工賃を上乗せしたりするケースです。

建設業や製造業の現場では、材料費や外注費を実際よりも高く見積もって請求することもあります。なかには、下請業者と元請業者が結託して金額を操作し、上乗せ分を分け合うような悪質なケースも存在します。こうした行為は、企業の資金を不正に流用するだけでなく、業界全体の信頼を損ねる重大な問題につながるのです。

ミスとの違いを明確にする

水増し請求と混同されがちなものに、誤請求があります。誤請求は意図的な不正ではなく、単純な人為的ミスや情報共有の不備によって起こるものです。例えば、契約変更が社内に共有されていなかったために旧金額で請求してしまったり、担当者の確認ミスで請求書を二重発行してしまったりといったケースが挙げられます。

このような誤請求は、業務フローの見直しやシステムの導入によって再発を防ぐことが可能です。

一方で、水増し請求は「故意に金額を上乗せする」という明確な意図がある点が異なります。つまり、水増し請求は「偶然起こってしまったミス」ではなく、利益を得る目的で意図的に行われる不正行為です。

税理士や会計士としては、この違いを見極めることが非常に重要です。請求書や帳簿の不自然な金額差、説明のつかない支出などは、単なるミスではなく不正の証拠かもしれません。早期に違和感の裏付けを取ることが、不正防止につながるでしょう。

水増し請求がなぜバレるのか

水増し請求は、高い確率で発覚します。理由は、企業活動のほとんどが帳簿や取引の証拠書類として記録され、さらにその記録は社内外の複数の目でチェックされるためです。ここでは、水増し請求がどのような経緯でバレるのか、代表的な発覚ルートを解説します。

帳簿・証憑との照合による発覚

水増し請求がバレる理由として多いのは、請求書や見積書、納品書などの証憑を帳簿と照合する過程で発覚するケースです。経理担当者や会計士が金額・数量・単価を確認する際、少しのズレや整合性の取れない数字はすぐに目に留まります。

例えば、「納品数と請求数が一致していない」「契約書にない項目が追加されている」「他の月と比べて異常に高額」といった違和感がある場合、不正の疑いがあるとして調査対象になります。

近年では、クラウド会計ソフトや経費精算システムの普及により、こうした突き合わせ作業が自動化されています。AIがデータを自動で照合し、不一致を検出するとアラートを出す仕組みが一般的になりました。これにより、人の目を通さなくても早期に不正の兆候を見抜くことが可能になっています。

税務調査や監査による指摘

税務調査や、外部監査の段階で発覚するケースも多く見られます。税務署や監査法人は、帳簿・請求書・契約書などの整合性を詳細に確認し、不自然な金額や説明のつかない支出を見つけると追加調査を行います。

例えば、経費の増加に対して実際の業務内容が伴っていない場合や、過去の取引履歴と金額の傾向が合わない場合には、質問や証拠提出を求められます。この段階で説明できなければ、水増し請求や虚偽経理の疑いが高くなるでしょう。

また、電子帳簿保存制度の普及により、データ改ざんや削除といった行為も簡単に追跡できるようになりました。誰がいつデータを編集したかという変更履歴が自動で残るため、過去の水増し請求が後から発覚するケースも少なくありません。

内部告発・取引先からの通報

社内の従業員や経理担当者、または下請け企業の担当者が報告することで、水増し請求がバレるケースも多いです。

特に、上司や同僚が関与している場合は、トラブルや人間関係のトラブルをきっかけに表面化することもあります。さらに、取引先との金銭トラブルや支払い遅延を通じて、不正請求が露呈することも珍しくありません。

水増し請求がバレると関係者全員に調査が行われる可能性があり、結果として企業全体が社会的信用を失う事態にもつながります。たとえ少額の水増し請求でも、「組織ぐるみではないか」という疑いを持たれるため、顧客や取引先からの信頼を取り戻すのは困難になるでしょう。

水増し請求がバレることによる法的リスク

水増し請求がバレた場合、刑事・民事・行政で罪に問われる可能性があります。ここでは、水増し請求が発覚した場合にどのような法的責任が発生するのかについて解説します。

刑事責任

意図的に水増し請求をする行為は、詐欺罪に該当する可能性があります。架空の請求書を作成して支払いを受けた場合や、既存の請求書を改ざんした場合は、私文書偽造・変造罪にも問われる可能性があるでしょう。 

また、経理担当者が自社の資金を操作して水増し請求分を流用した場合には、業務上横領罪や背任罪に該当することもあります。

民事・行政上の責任

水増し請求によって得た金額は、不当利得のため返還請求されることがあります。加えて、被害者側が損害を受けていれば損害賠償請求が発生する可能性もあります。

公共事業や許認可事業に関わる場合、不正が明るみに出ると行政処分や業務停止、入札参加停止などの処分が下されるリスクも高いです。

信用リスクと社会的影響

水増し請求という不正が報道やSNSで拡散されると、企業や関与者は信用を失います。取引先から契約を打ち切られることもあり、経営の継続に支障をきたす場合も高いです。

税理士や会計士としても、不正に関与していたまたは見過ごしていたとされれば、懲戒処分や顧客離れにつながるリスクがあります。

専門家としてのチェックポイント

水増し請求は、企業にとっても税理士・会計士にとっても非常にリスクの高い行為です。発覚すれば刑事罰や損害賠償だけでなく、信頼の失墜という大きな代償を伴います。ここでは、税理士や会計士の立場から、水増し請求を防止し、早期に気づくためのポイントについて解説します。

クライアントへのアドバイス

専門家として、クライアントに対して証憑の整合性を保つ重要性を伝える必要があります。請求書・見積書・納品書・契約書の内容が一致しているか、第三者でも確認できる状態にしておくよう指導することが重要です。

また、契約内容に変更があった場合や、見積条件を更新した場合は、経理・営業・現場の情報共有を徹底させましょう。情報のズレが誤請求や不正の温床になるため、内部フローの明確化は欠かせません。

内部のチェック体制を整える

経理担当者と管理職によるダブルチェック体制を導入することで、不自然な請求や金額のズレを早期に発見できます。例えば、会計ソフトや経費精算システムの自動照合機能を活用するのも有効です。

さらに、不定期に抜き打ち監査を行うのも有効だといえるでしょう。内部統制を形式的なものにせず、日常的に運用することが重要です。誠実で透明性の高い体制を整えることが、企業の信頼を守ることにもつながります。

税務調査や監査時の対応

税務調査の際には、請求書・契約書・振込記録などを整理し、説明できるよう準備しておく必要があります。金額の整合性が取れていない箇所がある場合は早めに原因を特定し、誤りであれば修正、意図的なものであれば適切な法的対応を検討しましょう。

税理士・会計士として、調査官とのやり取りや修正申告のサポートを行うことはもちろん、再発防止策を提案することも重要です。

水増し請求を防ぐには整合性と透明性が重要

税理士・会計士としては、クライアントの信頼を守るためにも、請求関連の不正リスクを常に意識し、早期発見と適切な対応を理解しておかなければなりません。

クライアントの帳簿などを確認し、不正の兆候を早期に発見することは、専門家としての大きな責任のひとつです。特に、意図的な水増し請求が発覚した場合はすぐに対応し、必要に応じて修正申告や返還対応をサポートする必要があります。

水増し請求防止のポイントは、「整合性」と「透明性」を徹底することです。請求書や契約書の内容を正しく管理し、第三者が見ても不自然さのない状態を維持しましょう。

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