繰延資産とは?具体例と計上方法について解説
繰延資産とは、既に支出した費用につき、効果が1年以上にわたるものについて、決められた期間で償却し費用化できる資産のことです。創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債発行費が代表例です。
また、繰延資産の償却方法は、任意償却と均等償却の2つの方法があります。任意償却を選択できる場合は、黒字化や節税対策として活用することができます。
繰延資産について、おさらいしていきましょう。
目次
繰延資産とは

繰延資産とは、既に支出した費用につき、その効果が1年以上にわたることから、年度をまたいで費用化できるもののことです。貸借対照表では、資産として計上し、数年かけて償却し、費用化することができます。
貸借対照表の資産の種類
貸借対照表では、資産は、流動資産、固定資産、繰延資産の3種類に分かれています。
会社計算規則を基に、それぞれの意味を再確認しましょう。流動資産は、短期保有する資産、1年以内に現金化が可能な流動性の高い資産のことです。例えば、現金、預金、受取手形、売掛金、商品、原材料などが該当します。
固定資産は、長期保有する資産、現金化には1年以上かかる資産のことです。さらに、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産の3種類に分類できます。例えば、土地、建物、特許権、のれん、有価証券などが該当します。
繰延資産は、既に支出した費用につき、その効果が1年以上にわたるため、年度をまたいで費用化できるもののことです。繰延資産は、会社法の「会計上の繰延資産」と税法の「税務上の繰延資産」があります。
繰延資産の種類
繰延資産は、会社法の「会計上の繰延資産」と税法の「税務上の繰延資産」の2種類があります。
会計上の繰延資産とは
会計上の繰延資産は、会社法に基づいて制定された会社計算規則によって定められているものです。
ただし、会社計算規則では、「繰延資産として計上することが適当であると認められるもの」としか書かれておらず、具体的に何のことを意味するのかは分かりません。
そこで、企業会計基準委員会の実務対応報告第19号「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」や日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所及び企業会計基準委員会による「中小企業の会計に関する指針」によって具体的な内容が決められています。
これによると、会計上の繰延資産は、次の6つのこととされています。
- 創立費:発起人に支払う報酬、会社の負担すべき設立費用
- 開業費:開業準備のために支出した金額
- 開発費:新技術又は新経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓などのために特別に支出した金額
- 株式交付費:新株の発行又は自己株式の処分のために支出した費用
- 社債発行費:社債の発行のために支出した費用
- 新株予約権発行費:新株予約権の発行のために支出した費用
参考サイト:実務対応報告第19号「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」の公表 | 企業会計基準委員会
参考サイト:中小会計指針・中小会計要領 | 日本税理士連合会
税務上の繰延資産とは
税務上の繰延資産は、所得税法や法人税法によって規定されている資産のことです。
所得税法では、「不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務に関し個人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後一年以上に及ぶもので政令で定めるもの」とされています。
法人税法では、「法人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後一年以上に及ぶもので政令で定めるもの」とされています。
所得税法施行令、法人税法施行令によると、会計上の繰延資産のほか、次のものも繰延資産に含まれると定義されています(税法固有の繰延資産)。
- 自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用
- 資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用
- 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
- 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
- 自己が便益を受けるために支出する費用
そして、これらの繰延資産の具体的な内容については、法令解釈通達に定められています。繰延資産に該当する具体例として、次のようなものが規定されています。
- 法人がその所属する協会、組合、商店街等の行う共同的施設の建設又は改良に要する費用の負担金
- 建物を賃借するために支出する権利金、立退料その他の費用
- 電子計算機その他の機器の賃借に伴って支出する引取運賃、関税、据付費その他の費用
- ノウハウの設定契約に際して支出する一時金又は頭金の費用
- 法人がその特約店等に対し自己の製品等の広告宣伝等のため、広告宣伝用の看板、ネオンサイン、どん帳、陳列棚、自動車のような資産を贈与した場合又は著しく低い対価で譲渡した場合における当該資産の取得価額又は当該資産の取得価額からその譲渡価額を控除した金額に相当する費用
- 出版権の設定の対価として支出した金額
- 法人が同業者団体等(社交団体を除く。)に対して支出した加入金
- 法人が職業運動選手等との専属契約をするために支出する契約金等
繰延資産の償却方法
繰延資産の償却方法は、任意償却と均等償却の2つの方法があります。任意償却は、償却期間や繰延資産額の範囲内であれば、任意のタイミングで償却費として計上できるという方法です。利益が多い年度は償却を増やしたり、少ない年度は減らすこともできます。また、取得年度に一括して費用計上することもできます。
均等償却は、決められた一定期間に繰延資産の金額を均等に配分して、毎年、又は毎月、同じ額を償却費として計上する方法です。具体的な金額は、「(繰延資産の金額 ÷ 費用支出の効果が及ぶ期間の月数) × 当該事業年度の月数」によって計算します。
会計上の繰延資産の償却方法
会計上の繰延資産については、任意償却と均等償却のどちらも選択することができます。
任意償却を選択する場合でも、償却期間が設定されていることに注意しましょう。具体的には次のとおりです。
| 項目 | 償却期間 |
| 創立費 | 会社成立後5年以内 |
| 開業費 | 開業後5年以内 |
| 開発費 | 支出後5年以内 |
| 株式交付費 | 発行後3年内 |
| 社債発行費 | 社債償還期間 |
| 新株予約権発行費 | 発行後3年内 |
税務上の繰延資産の償却方法
税法固有の繰延資産については、資産の種類に応じて、規定された償却期間内に均等償却を行います。
償却期間については、法令解釈通達に定められています。具体的には次のとおりです。
| 項目 | 償却期間 |
| 自己が便益を受ける公共的施設の設置又は改良のために支出する費用 | その施設又は工作物の耐用年数の70%に相当する年数(その施設が主に費用負担者に使用されるものでない場合は40%) |
| 自己が便益を受ける共同的施設の設置又は改良のために支出する費用 | 土地の負担金は45年、施設又は工作物は耐用年数の70%に相当する年数(一般公衆の用にも供されるものである場合は5年) |
| 資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用 | 建物の賃貸借ならその建物の耐用年数の70%に相当する年数、それ以外の権利金等は5年 |
| 電子計算機その他の機器の賃借に伴って支出する費用 | その機器の耐用年数の70%に相当する年数 |
| 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用 | 原則として5年 |
| 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用 | その資産の耐用年数の70%に相当する年数 |
| 自己が便益を受けるために支出する費用 | 3年~5年等 |
一時償却とは
繰延資産について支出の効果が期待されなくなった場合は、一時に償却しなければならないとされています。
具体的には次のような場合です。
- 繰延資産が災害により著しく損傷した場合
- 繰延資産が1年以上にわたり遊休状態にある場合
- 繰延資産が本来の用途ではなく、他の用途に使用されている場合
- 繰延資産の所在する場所の状況が著しく変化した場合
繰延資産の活用ポイント

繰延資産のうち、任意償却できる資産については、黒字を増やしたり、節税対策として活用することができます。
繰延資産を活用した黒字化方法
創業当初は売り上げが少ない中で費用がかさみ、赤字になってしまうことがあります。このような場合は、任意償却できる資産については、償却せずに、次の年度以降に回すことで、赤字にならないように調整することができます。
事業が黒字であれば、資金調達や顧客の開拓などで有利になります。
繰延資産を活用した節税対策
事業が軌道に乗っていて売上や利益が上がっている場合は、黒字になりやすいですが、同時に法人税等の税金も跳ね上がります。
このように事業が軌道に乗っているタイミングで任意償却できる資産について、償却費を計上することでその年度の経費を増やし、税負担の軽減を図ることができます。
繰延資産の活用時の注意点
繰延資産は、会社計算規則や税法上認められている範囲であれば、比較的自由に計上することができ、利益(所得)を調整することができます。
しかし、正当ではない方法で計上すると、粉飾決算や脱税とみなされてしまうので注意が必要です。税理士や会計士としては、顧問先の企業の繰延資産計上が適切であるかどうか、慎重に判断することが求められます。
まとめ
繰延資産についておさらいしました。
繰延資産のうち、任意償却できる資産については、黒字化や節税対策などで有効に活用できますが、計上方法が不適切だと、粉飾決算や脱税とみなされるリスクがあります。
繰延資産とは何か、よく調べた上で、適切に計上することが大切です。
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