発生主義・現金主義・実現主義とは?それぞれの意味や違いを解説

発生主義・現金主義・実現主義とは?それぞれの意味や違いを解説

企業会計原則により、企業はその経営成績を明らかにするため、一会計期間における損益を正しく計算し、損益計算書に表示することが求められます。

その際、取引のプロセスのなかで「損益をいつ認識するのか」という問題があります。

発生主義、現金主義、実現主義とは、企業会計における損益をどのタイミングで認識するかの考え方です。本記事では、会計処理における発生主義・現金主義・実現主義について、それぞれの内容を解説します。

目次

発生主義とは

発生主義とは、損益をその経済的事実が発生した時点で計上する考え方です。たとえば、売買契約により支払い義務が確定した場合、そのタイミングで費用を計上します。

3月決算法人が当期3月末に契約を行い、その支払いが翌期4月になったとしても、発生主義では原則として、この費用を当期分として扱います。お金を支払ったり受け取ったりしたタイミングではありません。

企業会計原則の基本は「発生主義」

企業会計原則の損益計算書原則では、発生主義を原則として、企業のすべての費用と収益は、その発生した期間に正しく割り当てるよう求めています。

たとえば、掛け取引、減価償却、引当金などが発生主義のわかりやすい例です。掛け取引では、実際の入金や支払いがまだ行われていなくても、商品の引き渡しやサービスの提供が完了した時点で収益や費用を計上します。減価償却では、資産の取得時に支出が終わっていても、耐用年数に応じて費用を配分します。引当金では、将来発生が見込まれる費用や損失を、発生が見込まれた段階で当期の費用として計上します。

つまり発生主義は、取引などの経済的事実を「発生ベース」で企業の損益に計上します。これにより、現金収支をベースとする現金主義よりも、企業の活動を正しく損益計算書に示すことができるのです。

未実現収益は計上できない

ただし、企業会計の原則において、収益のうち未実現のものは計上することが認められません。

このことから、収益については「発生」ではなく「実現」した時をベースに計上することが企業会計の原則となります。詳しくは、後述する「実現主義とは」で解説します。

現金主義とは

現金主義とは、金銭収支のタイミングで収益や費用を計上する考え方です。現金の動きを基準とするため、帳簿上の損益が実際の資金繰りと一致しやすい点が特徴です。会計の専門知識がなくてもわかりやすく、金銭の収支を記録すれば損益が計算できるため、経理の単純化もできます。

ただし、金銭を受け取るタイミングは、取引相手や対象となる物やサービス、さらには業界の商習慣などによって変わってくるものです。やろうと思えば、金銭を授受するタイミングをずらすことで、損益計算書での利益の操作もできてしまいます。

そのため、企業の関係者にとって、現金主義で計算された損益は信頼性の高い情報ではありません。

小規模事業者は現金主義で確定申告ができる

一方、小規模な事業にとって、現金主義は利便性の高い方法でもあります。

そこで税務上の話にはなりますが、個人の小規模事業者(※)の特例として、税務署への届け出を条件に、現金主義で計算した損益を用いて所得税の確定申告をすることが認められています。

青色申告の承認を受けることも可能ですが、正規の簿記の原則(複式簿記)による青色申告とは異なり、青色申告特別控除は10万円が上限となります。

(※)小規模事業者とは
前々年分の不動産所得の金額および事業所得の金額(事業専従者給与(控除)の額を必要経費に算入しないで計算した金額)の合計額が300万円以下の個人事業主

実現主義とは

実現主義とは、商品(またはサービス)を実際に引き渡した(提供した)タイミングで収益を認識する考え方です。実際にモノが移転したことやサービスが提供されたことで、お客さんに確実に対価を請求できる状態であることがポイントです。つまり、発生ベースよりも確実性を重視した基準となります。

収益の計上は「実現主義」

損益計算書原則の発生主義の原則では、売上高を「商品等の販売または役務の給付によって実現したものに限る」としています。このことから、収益の計上については原則として実現主義が用いられます。

それでは、商品の販売や役務を給付した時とは、具体的にいつを指すのでしょうか。

具体的な時期については、取引の実態に応じて「収益認識基準」や「中小企業の会計に関する指針」などをもとに判断していくことになります。

収益認識基準とは

収益認識基準とは、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」に示された、企業会計における収益を計上するタイミングの基準を示したものです。

約束した財またはサービスの顧客への移転を、その財またはサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するよう、収益を認識することが基本となります。

具体的には、次の5つのステップで収益を認識します。

  1. 顧客との契約の識別
  2. 契約における履行義務の識別
  3. 取引価格の算定
  4. 契約における履行義務に取引価格を配分
  5. 履行義務を充足した時にまたは充足するにつれて収益を認識

収益認識基準は、2021年4月1日以後に開始する事業年度から適用が開始されています。

一方で、公認会計士などの監査の対象とならない中小企業等については、「中小企業の会計に関する指針」などに定められる従来の会計処理も認められています。

中小企業の会計に関する指針とは

「中小企業の会計に関する指針」とは、企業会計原則や会社計算規則に基づき、中小企業が使用することが望ましいとされる会計処理を示すものです。

同指針では、一般的な商品販売契約を例に、出荷基準・引渡基準・検収基準を示しています

収益認識基準収益を認識するタイミング
出荷基準商品等を出荷した時
引渡基準商品等を得意先に引き渡した時
検収基準得意先が商品等の検収をした時

他にも、委託販売・予約販売・試用販売・割賦販売といった特殊な販売形態には、それぞれ収益を認識するタイミングが示されています。

また、輸出や工事契約(受注制作のソフトウェアを含む)については、次のような特殊な基準もあります。

収益認識基準収益を認識するタイミング
通関基準輸出の通関手続きの完了時
船積基準商品等を船積みした時
工事進行基準工事進捗度に応じて認識
工事完成基準工事の完成・引き渡し時

発生主義、現金主義、実現主義の違い

最後に発生主義、現金主義、実現主義の違いを説明します。

現金主義は、金銭の収支によって収益や費用を計上する考え方です。つまり、現金のやり取りが基準となります。一方、発生主義では、取引などの経済的事実が発生した時点を基準とします。これにより、金銭のやり取りがなくても企業の活動実態に合わせて損益を計上できるため、信頼性の高い決算書を作成することができます。

ただし収益については、さらに確実性の高い実現主義での計上が求められます。注文を受けてから製造販売する事業のように、品物の引き渡しまでの時期がずれる取引において注意が必要です。

それでは、実際の取引を例に、発生主義、現金主義、実現主義の違いをイメージしてみましょう。
まず、コンビニやスーパーのように、売買の意思表示、代金の受け渡し、商品の引き渡しが同時に行われる取引では、発生主義、現金主義、実現主義のどれを採用していても、損益の計上時期は同じです。

それでは、不動産の売買ではどうでしょうか。
発生主義であれば売買契約のタイミング、現金主義であれば代金が不動産会社に支払われたタイミング、実現主義であれば不動産が引き渡されたタイミング(移転登記や鍵の引き渡しなど)となります。

まとめ

発生主義・現金主義・実現主義はいずれも、収益や費用をどのタイミングで認識するかを定める重要な考え方です。発生主義は経済的事実の発生時点を基準とし、現金主義は金銭の収支時点を基準とします。そして実現主義は、商品やサービスを顧客に引き渡した時点を基準とします。

発生主義が会計情報の正確性を重視する一方で、現金主義は経理の簡便さを重視し、実現主義は収益の確実性を担保する仕組みともいえます。

実務では取引の実態に応じて、収益認識基準や中小企業の会計指針の内容を踏まえながら、適切な基準を選び、それを継続適用した会計処理を行うことが求められます。

3つの基準の違いを正しく理解し、信頼性の高い経営支援につなげていきましょう。

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