大手寡占化・AI時代を勝ち抜く
会計事務所の成長を支えるターゲット明確化と高付加価値サービスの重要性 Vol.2

株式会社LayerX バクラク事業部パートナーアライアンス部 浦 亮介
近年、労働力人口の減少やテクノロジーの進化を背景に、会計業界は大きな転換期を迎えている。かつてブルーオーシャンとも言われた士業の世界は今、大手とその他に分かれる二極化の波に直面している。こうした変化の時代において、会計事務所が取るべき成長戦略とは何であろうか。今回は、AIとSaaSで企業のデジタル化を推進する株式会社LayerXの浦亮介氏に、会計業界の現状と未来、そして同社のプロダクト「バクラク」シリーズを活用した会計事務所との新たな協業モデルについて伺った。
LayerXの組織文化とAIの未来
組織を強くする哲学と戦略
2018年の設立以来、成長を続けるLayerXが、技術革新を支える組織をどうデザインしているのか、
その独自の人材戦略と未来の経理像について、さらに深掘りしていきます。
LayerXの成長を支える、独自の組織文化や採用戦略について教えてください。

組織を強くするために、私たちは二つの哲学を重視しています。
一つは、「全員採用」というスローガンです。LayerXは全社員のうち、3分の1以上がエンジニアです。エンジニア採用は競争が非常に激しいため、人事部門だけでなく、社員全員が採用にコミットしています。社員は、久しぶりに会う友人などに対しても積極的に声をかけ、カジュアルな接点から採用に繋げ、リファラル制度を徹底活用し、優秀な人材を獲得しています。会計事務所と同じく、弊社にとっても、採用は企業の成長を左右する最も重要な経営課題と位置づけています。
二つ目は、情報公開と共有の文化です。会社の業績や経営層の議論は、人事情報などを除き、ほぼ全ての社員がアクセス可能です。毎週月曜日の全社定例では、代表から 「Top of Mind(今、頭の中にある最優先事項)」として、戦略や意思決定の背景を全社員に直接伝えています。この代表による週次のメッセージは、社員との距離感を近づけ、現場の信頼感を高める上で非常に大きな役割を果たしています。
500名の組織ながら、この共有を毎週実施していることで、全社共通の認識と高いエンゲージメントの維持が可能なのだと感じています。
LayerXが行動指針以外で大切にしている価値観である「LayerXの羅針盤」に共感してもらえるかも、採用においては重要な基準となっています。組織の一体感には、理念への共感は欠かせないものですから。
貴社では「Bet AI」を戦略として掲げられているくらいですし、
他社に比べても圧倒的にAIへの抵抗感は少ないと思うのですが、
新しい技術を取り入れるために大切だと思うことはどんなことですか?
若い人たちが活躍できる体制と文化を全社的に作れているかが大きく影響していると考えています。抵抗感は、新しいものを「使ってみる」機会の不足から生まれることが多いからです。
LayerXでは、デジタルネイティブなZ世代の力を積極的に活用しています。例えば、若手中心の有志によるAI活用勉強会が日常的に開かれ、技術的な知見を持つ若手社員が、積極的にその活用法を他の社員に共有し、社内のリテラシーを高めています。私自身、若いメンバーからAIを使った業務効率化のアイデアを日々学ばせてもらっています。
新しいデジタルツールを使う際の線引きやセキュリティに関するルール整備は不可欠です。しかし、それ以上に「変化を許容する文化」が、技術を取り込む土壌になっています。この文化は、経営者がトップダウンで作るものではなく、現場から生まれるボトムアップのアイデアを尊重し、それを後押しする姿勢から醸成されます。その結果、社員一人ひとりがAIを自立的な業務改善の道具として捉えるようになります。こういった文化的な許容度の高さこそが、会計業界全体においてもAI活用の速度を分ける決定的な要素になると考えています。
AIの活用によって、「人数を増やさずに売り上げを増やしたい」という思いをもつ事務所の先生も多いのではないでしょうか。
労働集約型のビジネスモデルが故に、人を増やさずに売上を増やすというロジックは前提として難しいとは考えていますが、効率化や生産性を高めることは可能だと思います。
確かに、売上を伸ばすためには人数を増やさないといけないという従来のモデルは絶対ではなくなりつつあります。ただし、その際にやはり必要となることが2つあると私は考えています。
1つは、ここまで話してきたようなAI活用や仕組み化でコストを削減することです。例えば、記帳代行サービスを提供する場合でも、徹底的にAIを導入して原価を下げることができれば、利益率は向上します。
その前提として、自社にAIやシステムに精通する社内SEの存在は不可欠です。システムに合わせた記帳業務のオペレーションの再構築や、社内システムとの連携も必要になるでしょう。社内SEの存在が、今後の成長戦略や差別化にも繋がってくると思います。
もう1つは、単価の高い業務を行うこと。これはIPO支援、財務コンサル、M&A、事業承継、国際税務といった高度なコンサルティング領域への進出を意味します。このような専門性の高い分野で顧客への課題解決能力を高めることが、単価上昇に直結します。
人を増やさずに売り上げを伸ばすためには、採用に対するビジョンがとても大切です。前述のように組織全体の生産性を高めることが、成長戦略の鍵となるからです。
その一環として、育成コストをかけて未経験者を採用した場合、「戦力になるまでの期間をどうマネジメントするか」という経営判断が求められます。未経験者が戦力になるまでの半年〜1年間に要するコストを、将来の利益で回収できるか、というシビアな計算が必要となるからです。だからこそ、高い目標と待遇を明確なメッセージとして掲げて優秀な人材を惹きつけ、時間とコストをかけて育てていく覚悟を持つことが、結果的に組織力を高め高収益に繋がるのです。成長企業の経営戦略としては、スタンダードな考え方と言えるでしょう。

AIが実現する未来の経理
税務の先にある顧客企業の事業成長を支援
LayerXが目指す経理業務の未来について教えてください。
我々が目指す究極の姿は、業務の完全自動運転化です。経理担当者が面倒だと感じている作業、例えば、パスワード付きのZIPファイルで届いた請求書を、人が中身を確認してアップロードするという動作をAIが肩代わりできる世界です。
我々は、人が介在する部分を自動で処理するAIエージェント機能群「バクラクAI」を開発し、業務が最終的には自動になっていく世界観を目指しています。具体的には、AIが請求書を受領した段階から、勘定科目の推測、会計ソフトへの連携までをシームレスに行い、経理担当者はチェックに専念するといったイメージです。
このAIエージェント機能を既存サービスに組み込むことで、「3ヶ月前にはできなかったことが今できる」というスピード感でプロダクトを進化させています。これは、お客様からの要望をデータベース化し、開発の優先順位に反映させる仕組みがあるからです。将来的には、人間は例外処理や経営判断のみを行う世界が実現できると考えています。
我々の目指すDXは、単なる「置き換え」ではありません。 従来の業務プロセスや存在意義そのものを疑い、新しい技術でプロセスを丸ごとなくすという視点で開発を進めています。
自動化が進んだ未来で、会計事務所はどのような価値を提供していくことになるでしょうか?
AI による自動化は、記帳代行や税務申告などの処理業務の効率を大幅に高めていくと思います。その結果、会計事務所のみなさんは、より専門性の高いサービスに注力できる時間を手にすることになります。
つまり、この「余白」をどう活かすかが、事務所の未来を左右するのではないかと考えています。
そしてこれからは、システムと上手に役割分担しながら、顧問先の成長を支えるパートナーとしての価値がより重視されていきます。
数字の管理だけでなく、その背景にある事業やビジネスモデル、現状や課題を捉え、より良い選択に導く助言が期待されています。
私たちベンダー側も、単なるシステム提供ではなく、会計事務所のみなさんと二人三脚で歩みながら、顧問先支援の価値を高めるお手伝いをしていきたいと考えています。
AI 時代は、資格業務の価値が薄まるのではなく、有資格者(税理士/公認会計士)にしかできない価値がより輝く時代が来ると捉えています。
労働力人口の減少リスクに備え、経理担当者が倒れても業務が止まらないよう、クラウド化による事業継続性(BCP)を提案することも重要な価値です。LayerXは、顧問先を成長させ、事務所様の経営基盤を強固にする強力なITパートナーとして、みなさんと共に価値を創出していきたいと考えています。我々の技術と、事務所様の専門性、この両輪でのサポートこそが、顧問先企業の未来を作ると信じています。


| プロフィール |
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| 株式会社LayerX バクラク事業部パートナーアライアンス部 士業Gr リーダー/エバンジェリスト 浦 亮介 大手専門商社に新卒入社し、エンタープライズセールスとして上場企業および大手法人を担当。 生産管理の最適化や海外アライアンス先の工場開拓など、製造・サプライチェーン領域の複雑な課題解決に携わり、ソリューション提案で早期に成果を上げる。 その後、公認会計士の友人と共に会計事務所を共同創業。創業期の事務所運営に携わりながら、会計・税務の実務知識を基盤に、バックオフィス業務の効率化・業務改善プロジェクトを推進した。 共同創業後、より大きな事業成長に携わるため転職し、急成長フェーズにあった税理士法人の立ち上げ期に参画。新規事業開発をリードし、サービス設計、営業戦略、採用・育成、運用設計までを一貫して担当。クラウド会計を軸としたシステムコンサルティング事業を立ち上げ、業務標準化、顧客管理の仕組み化、アップセルモデルの構築など、事務所のサービス基盤強化に寄与した。 2024年より株式会社LayerXへ参画。パートナーアライアンス部にて、会計事務所・税理士法人とともにAI・DXを活用した新しい価値提供モデルを共創。顧問先企業の業務改善・経営管理の高度化を、パートナーと連携しながら支援している。 |


