大手寡占化・AI時代を勝ち抜く
会計事務所の成長を支えるターゲット明確化と高付加価値サービスの重要性 Vol.1

大手寡占化・AI時代を勝ち抜く 会計事務所の成長を支えるターゲット明確化と高付加価値サービスの重要性

株式会社LayerX バクラク事業部パートナーアライアンス部 浦 亮介

近年、労働力人口の減少やテクノロジーの進化を背景に、会計業界は大きな転換期を迎えている。かつてブルーオーシャンとも言われた士業の世界は今、大手とその他に分かれる二極化の波に直面している。こうした変化の時代において、会計事務所が取るべき成長戦略とは何であろうか。今回は、AIとSaaSで企業のデジタル化を推進する株式会社LayerXの浦亮介氏に、会計業界の現状と未来、そして同社のプロダクト「バクラク」シリーズを活用した会計事務所との新たな協業モデルについて伺った。

会計業界の未来と
LayerXが目指すパートナーシップ

貴社が今、会計業界をどのようにご覧になっているか教えてください。

LayerXの市場観として、会計業界は今後、大手事務所とそれ以外の事務所に分かれる二極化が進むと考えています。これは薬局やコンビニ、銀行など、他の業界でも見られる業界再編で、人口が減って市場のパイが縮小すれば、自然と大手事務所かそれ以外の事務所しか残らなくなる。この波が会計業界にも来るだろうと見ています。さらに、この傾向は特に地方で顕著になると考えられ、地方における職員(有資格者)の採用が一層厳しくなると思います。

株式会社LayerX バクラク事業部パートナーアライアンス部 浦 亮介

同時に、顧問先企業の事務所選びの基準にも2つの傾向が明確に表れています。例えば、起業したばかりの経営者の方でも、信頼性や総合的なサービス品質を重視するなら「少し高くても大手」を選ぶ一方で、特定の課題解決や、地域に密着した「小回りが利く事務所」を求める層もいる。
この二極化の中で、事務所としてどの層のお客様にサービス提供をするかが非常に重要になってきます。事務所の強みをどこに設定し、どんな専門性やサービスラインを確立させるかが、今後さらに問われてくるでしょう。

その中で、貴社は会計事務所に対してどのような価値を提供しようとしているのでしょうか?

LayerXのミッションは、「すべての経済活動を、デジタル化する」です。その実現のため、「バクラク」シリーズを通じて経理・財務のDXを推進し、会計事務所のみなさんが、より高付加価値なサービスの創出に集中できるよう、テクノロジーで支援しています。
私たちは会計事務所のみなさんを、顧問先企業のDXを共に推進するパートナーと位置づけています。LayerXが展開する「バクラク」シリーズの主要な顧客層としては、従業員30名以上・年商5億〜10億円以上の中堅企業に多くご利用いただいています。すでに経理担当者を抱え、業務の複雑化に悩む企業が多い層です。
「バクラク」シリーズは、企業の経理業務効率化を支援するサービスであり、IPOや事業承継、医療法人支援など、高度な専門サービスを提供する会計事務所と連携することで、顧問先の企業価値向上を目指しています。

「バクラク」シリーズの特長を教えてください。

「バクラク」シリーズは、バックオフィスから全社の生産性を高めるサービスですが、会計ソフトの変更なしに経理業務のDXが可能になるのが最大の特長です。既存の主要会計ソフト(弥生、勘定奉行、マネーフォワード、freeeなど)とAPIやCSVでシームレスに連携することで、それを可能にしています。
これは、顧問先の経理担当者にとって心理的なハードルを非常に低くするものです。会計ソフト自体を変更しようとすると、移行の手間や勘定科目の再定義などから、担当者に大きな負担がかかり、どうしても抵抗感が生じがちです。特に歴史の長い中堅企業ほど、この傾向は強くなります。
私たちは、こうした「高度な専門サービス×DX支援」の組み合わせによって、顧問先の満足度を高め、会計事務所が中堅企業のデジタル化を牽引するための武器を提供したいと考えています。


「誰に何を届けるか」という明確な視座なくして
企業も事務所も成長はない

勝ち残っていく事務所になるために、求められる要素は何でしょうか?

多くの事務所と日々会話させていただき感じるのは、「誰に何を届けるか」という明確な視座を持っている事務所は強いということです。
成長されている事務所は、顧客を絞り、ターゲットに合わせた専門的なサービスを提供されています。この視座こそが、事務所の全ての活動の土台になっていると感じます。
例えば、医療経営に特化し、そこから派生する事業承継や相続に強みを持つ事務所のように、得意領域を明確にすることで差別化が図れますし、明確なターゲティングによって、職員の採用や育成、マーケティングの全てが自ずと規定されていきます。


なるほど。ただ、創業当初からターゲットを絞り込むのは難しいのではないかと思ってしまうのですが。

株式会社LayerX バクラク事業部パートナーアライアンス部 浦 亮介

顧客が少ない創業期にターゲットを絞るのは、確かに簡単ではないかと思います。しかし、それでも「この層にコミットして価値提供する」という強い経営判断が必要だと感じています。時間も、かけられる人員も、リソースは限られているわけですから、浅く広い対象へのリーチは、高付加価値サービスを提供するための機会損失につながりかねません。

誰に向けたサービス展開をしているのかをしっかりと言語化できることが、サービスブランディングや採用戦略にも繋がると、日々会計事務所の経営者のみなさんとお話している中で勉強させていただいています。


利益を高める二軸戦略
高単価とAIによる仕組み化とは

会計事務所のDX支援の現状をどう見ていますか?

現状は、「会計ソフトのリプレイスだけ」に留まっているケースが業界全体として少なくないと感じています。しかし、お客様の真の課題は、会計ソフトを変えることでは解決しないことも多いのです。会計ソフトはあくまで仕訳の箱であり、課題があるのは、「会計ソフトに仕訳を入れる手前の経理業務」だからです。
例えば、紙の請求書を紙の経費精算書に添えて回付し、経理担当者が紙の束を処理するために開封、承認、エクセルへの転記、手作業での振込データ入力、そして会計ソフトへの二重入力を行う。これは税務でもなければ、付加価値の高い業務でもありません。こうしたアナログな経理工程をいかにデジタル化・自動化するかがDXの本質だと捉えています。このボトルネックを解消しない限り、どれだけ最新の会計ソフトを入れても、経理担当者の残業は減りません。
「バクラク」シリーズでは、まずは「経費精算だけ」「請求書処理だけ」など、部分的な導入から提案することで、お客様のストレスを最小限に抑えられます。会計ソフトの乗り換えのように一気に業務を止める必要がありません。
私たちは、サービスをご案内するときはトライアルで実際に触れてもらい、「これなら私でもできるかも」という小さな成功体験を積んでいただくことを重視しています。この心理的ハードルを下げるアプローチが、導入成功の鍵です。この成功体験の積み重ねが、顧問先企業全体のDX推進力につながります。

DXの専門部署がない事務所は、どのように支援を提案できますか?

DXコンサルの専門部署を自前で作ることが難しい事務所様も多いでしょう。高度なシステム知識を持つ人材の採用は簡単ではありませんし、実際、多くの事務所様がDX推進をしたいと思いつつも、リソース不足で手が回らないという状況です。
そこでLayerXは、会計事務所様の手間を極力省く協業モデルをご提案しています。事務所様は顧問先から「経理が残業している」「請求書の処理が煩雑だ」といった課題を聞き出した際に、我々にお声がけいただければ、営業サポートから導入支援まで、LayerXが主導してワンストップでご提案させていただきます。あくまでも「顧問先の課題解決を提案するパートナー」としてご紹介いただくだけで、事務所様の実務負担はほとんどありません。
この協業のメリットは、顧問先に専門性の高いサービスを提供できる一方で、システムの問い合わせ対応といった雑務が事務所には来ないことです。我々のサポート窓口はAIではなく人による対応を徹底しており、高い満足度をいただいています。これも事務所様の負担を軽減する重要なポイントです。事務所様は本業である税務や高度なコンサルティングに集中していただけます。

株式会社LayerX バクラク事業部パートナーアライアンス部
株式会社LayerX バクラク事業部パートナーアライアンス部
プロフィール
株式会社LayerX バクラク事業部パートナーアライアンス部
士業Gr リーダー/エバンジェリスト 浦 亮介

大手専門商社に新卒入社し、エンタープライズセールスとして上場企業および大手法人を担当。 生産管理の最適化や海外アライアンス先の工場開拓など、製造・サプライチェーン領域の複雑な課題解決に携わり、ソリューション提案で早期に成果を上げる。 その後、公認会計士の友人と共に会計事務所を共同創業。創業期の事務所運営に携わりながら、会計・税務の実務知識を基盤に、バックオフィス業務の効率化・業務改善プロジェクトを推進した。 共同創業後、より大きな事業成長に携わるため転職し、急成長フェーズにあった税理士法人の立ち上げ期に参画。新規事業開発をリードし、サービス設計、営業戦略、採用・育成、運用設計までを一貫して担当。クラウド会計を軸としたシステムコンサルティング事業を立ち上げ、業務標準化、顧客管理の仕組み化、アップセルモデルの構築など、事務所のサービス基盤強化に寄与した。 2024年より株式会社LayerXへ参画。パートナーアライアンス部にて、会計事務所・税理士法人とともにAI・DXを活用した新しい価値提供モデルを共創。顧問先企業の業務改善・経営管理の高度化を、パートナーと連携しながら支援している。

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