累進課税制度とは?その概要、適用される税金の内容やポイント、メリットや注意点など詳しく解説

累進課税制度とは?その概要、適用される税金の内容やポイント、メリットや注意点など詳しく解説

皆さんは累進課税制度について詳しく正確に知っていますか?

税金を正しく計算して納付するためには、累進課税制度の概要や適用される税金の種類、計算のポイント、メリットや注意点などきちんと理解する必要があります。

今回の記事では累進課税制度について詳しく解説します。税金を計算及び納付する際の前提知識としてしっかり身につけて下さい。

目次

累進課税制度とは?

累進課税制度とは、所得や資産などの課税対象額が増えれば増えるほど税率が増えていく仕組みです。その代表的な税金が所得税で、一般的に年収が高くなればなるほど納税額も多くなります。

また累進課税は、消費税のような比例課税(課税対象額に関わらず一律)と異なり、計算が複雑なため、通常、税金別速算表を用いて計算します。

累進課税制度が採用されている理由

累進課税が採用されている理由の第一は、累進課税の下で計算され納付された税金が、国の社会保障制度等を通じて、所得や資産の少ない方、障害や病気で日々の生活が困難な方々に対して、生活支援をするために用いられているからです。

また累進課税制度は所得格差の緩和という役割も負っていて、所得や資産の少ない方々に国の実施する各種制度を通じて所得の再分配もできるようになっています。

単純累進課税制度と超禍累進課税制度の違い

累進課税制度には、大別して単純累進課税制度と超過累進課税制度の2つがあります。

2つの課税制度の概要は以下の通りです。

  • 単純累進課税…課税対象額の所得が一定額を超えた場合、所得全てに一律で税率が課される
  • 超過累進課税…課税対象額の所得が一定額を超えた場合、超えた部分にのみ税率が課される

例えば超過累進課税が適用される所得税で見れば、所得が195万円までは税率が5%、195万円を超えて320万円までなら税率10%で税金が計算され課されます。

しかしこの条件を単純累進課税で計算すると以下のような結果になります。

単純累進課税…所得320万円×10%=課される税金32万円

一方、これを超過累進課税に基づき計算すると結果は以下の通りです。

超過累進課税…所得の一部195万円×5%+(全体所得320万円-所得の一部195万円)×10%=課される税金222,500円

単純累進課税は課税所得全体に課税されるため、税率が変更される境界に近い方にとっては不公平を感じる制度といえます。

国税庁の出している所得税の速算表では、所得税は所得が330万円になると税率が10%から20%に上がります。

するともし、日本が採用している所得税が単純累進課税だったとき、所得が320万円なら税金は32万円ですが、所得が330万円とわずか10万円しか上がらないにも関わらず、税金は一度に66万円まで跳ね上がります。

その点、日本は超過累進課税を採用しているので、上記の計算の通り、単純累進課税のように大幅に税金が上がらないよう制度設計されているのです。

累進課税が適用されてる代表的な税金は「所得税」「相続税」「贈与税」

日本で累進課税、特に超過累進課税制度が適用されている代表的な税金は3種類あり、それが所得税、相続税、贈与税です。

所得税は個人の所得に対して課される税金で、会社から支給される給料や個人で事業を行い稼いだ所得が多ければ多いほど税率が高くなります。

相続税は故人の遺産を相続する方に対して課される税金で、相続する遺産額が大きければ大きいほど高い税率が適用されます。

贈与税は相続税とは異なり、贈与する方が生きている間に贈与を受ける人に対して課される税金で、これも贈与額が大きければ大きいほど税率が高くなるよう設計されています。

累進課税制度のメリット及びデメリット

累進課税制度が長らく日本で採用されている主な理由は「公平な納税」を実現するためです。

また税金を管理する国税庁を管轄している財務省では、公平の定義を「所得等で負担能力が大きい人にはより大きな税負担を求める」に置いているため、納税する方の負担能力、立場、考え方等によって様々な意見があります。

当然ながら、課税する側、課税される側、双方にとってメリットやデメリットが異なるので、立場によって様々な議論があるのも事実です。

以下で一般的な視点から、累進課税制度がもたらすメリット及びデメリット・注意点を解説します。

累進課税のメリット

累進課税のメリットは、個人個人の支払い能力に応じた納税が実現できる点です。所得や資産が大きい方は他の人より税金をより多く納める能力があります。

その点、累進課税制度は、高い税率を適用してより多く税金を徴収できるシステムなので、担税力・支払い能力に応じて税金を課せられる公平な課税制度といえます。

また経済的に豊かな人から多くの資金を集めて、それを公共サービスや社会保障に回すことで、所得が低い人や障害等でハンディキャップを背負っている人でも医療や福祉サービスが受けられ、国民全体としても安心した生活が送れる豊かな社会が実現できます。

これもまた累進課税が持つ所得の再分配機能のもたらすメリットといえるでしょう。

累進課税のデメリット

一方、累進課税にはメリットもありますがデメリットもあります。

累進課税によって日本社会にデメリットが強く出過ぎないよう、国としても注意深く制度運用する必要があります。累進課税制度の下では、個人の稼ぎや所有する資産が大きくなればなるほど、実際の納税負担額が増します。

そのため、逆に個人の所得を減らそうとする動きを通じて本人の労働意欲が削がれるとか、所得の高い人が不公平感を持ちやすいというデメリットがあります。

そこで高所得者や大きな資産を持つ人は、これまでより働くことを抑えたり、あるいは税率が低い国に移住したりして、結果的に以前より経済が停滞し、また税金の徴収額が減って、国が当初に目論んでいた累進課税制度の目的が実現しにくくなります。

所得税と累進課税

所得税は累進課税制度が適用される税金の代表的なひとつです。

ただし所得税が適用される所得の種類には、事業所得、給与所得、不動産所得、雑所得等、10個の種類があり、全てに累進課税が適用されるわけではありません。

ここでは詳しく解説しませんが、10個の所得種類のうち、項目や条件によっては分離課税方式が選択される所得もあります。(例えば退職所得、山林所得等は、他の所得と区別して個別に税金を計算する分離課税方式を採っており、これらの所得には累進課税は適用されません)

しかし多くの所得種類で累進課税が適用されるので、本章では主に所得税と累進課税の流れで解説していきます。

所得税とは、個人の1年間の所得に対して課税されるものです。算式で示すと以下のようになります。

所得=1年間の収入-必要経費

国税庁が示す累進課税速算表に基づき、収入に応じた税率が適用されるほか、家族構成等を考慮した各種控除を差し引いて所得税が決定されます。

所得税の累進課税率一覧

以下の表は国税庁が示した所得税を計算する際に使う累進課税の速算表です。ここで表中の「課税される所得金額」とはその年の1月~12月までの所得金額の合計から所得控除(※1)を差し引いた金額です。

そして「課税される所得金額」が決まれば、それに該当する個別の税率(5%~45%)を掛けて、その結果から控除額(※2)を差し引いて所得税額を出します。

ただし、「課税される所得金額」では1,000円未満の端数金額は切り捨てて処理します。

課税される所得金額税率控除額(※2)
1,000円~1,949,000円5%0円
1,950,000円~3,299,000円10%97,500円
3,300,000円~6,949,000円20%427,500円
6,950,000円~8,999,000円23%636,000円
9,000,000円~17,999,000円33%1,536,000円
18,000,000円~39,999,000円40%2,796000円
40,000,000円以上45%4,796,000円

(※1)所得控除とは、配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除等、本人や家族の個人的事情によって税負担を軽減するために設けられた制度のこと。
(※2)累進課税率一覧表中の控除額は、段階別の税率を使って何度も計算をしなくてよいよう記載されています。対応する税率を掛けた額から控除額を差し引くことで複雑な計算を不要としています。別途、記載している所得控除(※1)とは、内容が全く異なりますので、混同しないようにして下さい。

参照先:所得税の税率|国税庁

所得税の計算方法

前章の繰り返しになりますが、所得税を計算する際には、以下の手順に沿って計算します。

  1. 収入-必要経費=所得
  2. 所得-所得控除=課税所得金額
  3. 課税所得金額×税率-控除額=所得税額

例えば、課税所得金額が800万円の場合、税額は以下の通りです。

8,000,000円×23%-控除額636,000円=所得税額1,204,000円

相続税と累進課税

相続税も所得税同様、累進課税制度が適用される税金のひとつです。

相続税とは、亡くなった方の財産を受け取った人がその際に課せられる税金で、相続税の計算にも累進課税が適用されることから、取得財産が大きくなればなるほど税率も高くなります。

相続税を計算するためには、まず手順として、受け取った相続財産の評価額を算出する必要があります。

ただし相続財産の種類によっては、事前に個別の財産を再評価計算する必要や、最初から非課税扱いされる財産もあるので、複雑な計算が必要となることから、相続人単独では処理できないことも多々あります。

そこで相続財産に土地や有価証券等の評価が難しい資産が含まれている場合や相続人の数が多い場合には、税理士や弁護士等の専門家のサポートが必要なケースもあるので、事前に相談されることをおすすめします。

相続税の累進課税率一覧

以下は、国税庁が示している相続税を計算する際の累進課税に係る速算表です。

なお、相続税額の出し方については、前章で示した所得税額を計算するような単純なやり方でなく、もう少し複雑になります。

単に下表の税率を各法定相続人の取得金額に掛けて、控除額を差し引いただけでは算出できない点に留意して下さい。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%0円
1,000万円超~3,000万円以下15%50万円
3,000万円超~5,000万円以下20%200万円
5,000万円超~1億円以下30%700万円
1億円超~2億円以下40%1,700万円
2億円超~3億円以下45%2,700万円
3億円超~6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

参照先:相続税の税率|国税庁

相続税の計算方法

相続税を計算する方法は以下の通りです。3つの段階に分けて計算していきますのでご注意下さい。

【STEP1】相続税の対象となる財産の総額を計算
・相続財産の総額-(非課税財産+債務+葬式費用)=相続税の課税価格
・相続税の課税価格-基礎控除=課税遺産総額

この段階では、相続財産から墓地等の非課税財産、債務、葬式費用等を差し引き、相続税の課税価額を出し、それからさらに基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を引いて課税遺産総額を出します。

【STEP2】仮の相続税額を計算
・課税遺産総額×法定相続分×税率=相続人各人の仮の相続税額

この段階では、実際の各自の納税額を計算する前に、法定相続分に則って「仮の相続税額」を計算します。

ここで上記の相続税に係る累進課税速算表を使います。なお、この段階では、実際に相続財産がどのように分けられているかは一切関係ありません。

【STEP3】実際の相続税額を計算
・各人の仮の相続税額を合計する=相続税総額
・相続税総額×各法定相続人が実際に相続する課税価額÷課税価額の合計=各人の算出税額
・各人の算出税額-税額控除=各人の実際の相続税額

相続税総額を各人が実際に相続する財産の割合で按分(引き直し)した額が、各人が実際に税務署に納める相続税額です。

また適用できる税額控除(※)があれば、最後に差し引きます。

(※)相続税に係る税額控除とは、亡くなった方と相続人の関係、相続人の特質等に応じて用意されている相続税から一定額を引ける制度です。配偶者控除、未成年者控除等、6種類あります。

なお、遺産相続に係る申告手続きは、財産を相続した日から起算して10カ月以内に行う必要があるので、くれぐれも対応が遅れないよう注意して下さい。

贈与税と累進課税

贈与税も、前2つの税金と同じく、累進課税制度が適用される税金のひとつです。

一般的には、相続税と関連付けて語られることが多い税金なので、相続税を補完する機能を持つ税金種類として理解されています。

贈与税は、個人から個人へ財産を贈与した場合に課される税金です。贈与税には、一般税率と特例税率があり、それぞれ適用される条件に違いがあることに注意が必要です。

簡単に述べると、特例税率は祖父母や父母等の直系尊属から18歳以上の子や孫に贈与する際に贈与税の計算で適用される税率で、一般税率はそれに該当しない場合に適用される税率となります。

贈与税の累進課税率一覧

以下は、一般税率、特例税率別に分けて、それぞれ贈与税を計算する際の速算表です。

贈与税の税率は一般、特例関係なく、10%~55%まで8段階に区分されていますが、最高税率は相続税と同じ55%に設定されています。しかし相続税の最高税率の課税価額が6億円超に設定されているのに対して、贈与税は一般税率で3,000万円超、特別税率で4,500万円超です。

すなわち相続税の課税を逃れるため意図的に生前に贈与しないよう、贈与税は相続税より税負担が重くなるよう制度設計されています。

また贈与税の基礎控除額は110万円で、基礎控除額を差し引いた後の課税価額に対して下記表の各税率を掛けて計算します。

【一般税率】

基礎控除後の課税価額税率控除額
200万円以下10%0円
200万円超~300万円以下15%10万円
300万円超~400万円以下20%25万円
400万円超~600万円以下30%65万円
600万円超~1,000万円以下40%125万円
1,000万円超~1,500万円以下45%175万円
1,500万円超~3,000万円以下50%250万円
3,000万円超55%400万円

参照先:贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

【特例税率】

基礎控除後の課税価額税率控除額
200万円以下10%0円
200万円超~400万円以下15%10万円
400万円超~600万円以下20%30万円
600万円超~1,000万円以下30%90万円
1,000万円超~1,500万円以下40%190万円
1,500万円超~3,000万円以下45%265万円
3,000万円超~4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

参照先:贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

贈与税の計算方法

上記の贈与税に係る速算表を使って贈与税を計算してみます。

一般税率は、例えば、配偶者や兄弟姉妹など、直系尊属以外の親族から贈与を受けるケース、あるいは直系尊属から18歳未満の子や孫が贈与を受けるケースに適用されます。

たとえば祖父の持つ資産から16歳の孫が500万円の贈与を受けた場合の贈与税の計算は以下のようになります。

・500万円-基礎控除110万円=390万円
・390万円×一般税率20%-控除額25万円=53万円

仮に同じ孫でも、贈与を受けたときの孫の年齢が1月1日現在18歳以上になっていれば、一般税率でなく、特例税率が適用されます。

・500万円-基礎控除110万円=390万円
・390万円×特例税率15%-控除額10万円=48万5千円

まとめ

累進課税制度について、その概要や適用される税金の種類、計算方法や理解のポイント、メリットや注意点など、詳しく解説しました。

累進課税制度では、課税金額が大きくなればなるほど高い税率が適用されます。

所得や資産の多い方ほど税金が高くなる仕組みなので、マクロ的に見て富の再分配や格差の解消・是正に繋がる点はメリットですが、一方で高所得者中心に労働意欲が減退して経済が停滞するリスクもあります。

一方、日本で累進課税制度が採用されているのは、所得税・相続税・贈与税の3つですが、それらの内容を深く理解し、各種制度を使ってうまく処理することで節税につなげることも可能です。(ただし本記事では節税の具体策については触れていません)

これらの税金は専門的知識を必要とすることも多いので、必要に合わせて税理士や公認会計士、弁護士等、専門家のサポートも検討してみてはいかがでしょうか。

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