2040年に向けた厚生労働省の方向性<小濱道博先生の介護特化塾 vol.08>

本コラムでは、介護経営コンサルタントとして、日本トップクラスの小濱道博先生が、介護業界の「知って得する」トピックスを取り上げて解説します。会計事務所の皆様に、介護マーケットの魅力・重要性のほか、介護特化を進めるためのヒントや戦略などを毎回お届けします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.143(2025.9)に掲載されたものです。


小濱介護経営事務所 代表
C-SR(一社)介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
小濱 道博 先生

2040年に向けた日本の介護業界は、大きな変革期を迎えている。厚生労働省の「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会のとりまとめは、この変化に対応するための羅針盤であり、税理士事務所として顧問先の介護事業者を支援する場合もその動向を理解する必要がある。このとりまとめは、全国を「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市等」の3つに分け、それぞれの課題と対応策を示している。

「中山間・人口減少地域」では、総人口と高齢者人口の減少によりサービス需要が縮小するため、事業者の多機能化や広域的なサービス提供、ICT・テクノロジーの導入による業務効率化が求められている。一方、「大都市部」では、2040年にかけて高齢者人口が増加し続けると予測されており、介護サービス需要の急増に対応するためのサービス基盤整備が課題となる。ICTやAI技術を活用した24時間365日の在宅支援や、エリアごとの需給バランスを考慮した整備が必要だ。また、「一般市等」は、高齢者人口が増加から減少に転じる見込みであり、既存の介護資源を有効活用しつつ、将来的な人口減少を見越した柔軟な対応が重要だと考えられる。

2040年までに日本の生産年齢人口が大幅に減少する中、介護業界にとって人材の確保と定着は最も深刻な課題だ。処遇改善は引き続き重要であり、令和6年度介護報酬改定では、処遇改善加算の一本化や加算率の引き上げが行われた。また、職員のモチベーションと専門性を高める多様なキャリアパスの構築や、ハラスメント対策を含む適切な雇用管理も不可欠である。

人材不足への解決策として、生産性向上が挙げられる。介護記録のICT化や見守りセンサー、インカムの活用などは、職員の業務負担を軽減し、質の高いケアに集中できる時間を創出する。外国人介護人材の受け入れについても、海外への働きかけや定着支援、日本語教育の強化など、地域の実情に応じたきめ細かな受入体制の整備が求められている。顧問先がこれらの課題に取り組む際、税理士事務所が生産性向上のための投資計画や、外国人材雇用の際の会計・労務管理について助言することが可能だ。

2040年に向けた介護のあり方で最も重要なキーワードは、「地域共生社会」の実現である。これは高齢者介護だけでなく、障害福祉や保育といったあらゆる分野を横断し、誰もが地域で共に暮らし、互いに支え合う社会を目指す壮大なビジョンだ。この実現には、多様な主体の連携が不可欠であり、医療と介護の一層の連携や、社会福祉連携推進法人制度の活用などが具体的な方策として示されている。税理士事務所も、顧問先がこうした連携を進める際の経営面でのサポートを通じて、持続可能な地域社会の実現に貢献していくことができるだろう。

小濱 道博

こはま・みちひろ/介護経営コンサルタントとして、全国各地で介護事業全般の経営支援、コンプライアンス支援に 特化した活動を行う。2009年にC-MAS 介護事業経営研究会の立ち上げに関与。 税理士、社労士など200を超す専門士業事務所との全国ネットワーク網を構築し、 国内全域の介護事業経営者へのリアルタイムな情報提供と介護事業経営の支援活動を行う。 介護経営セミナーの講演実績は、全国で年間300件以上。 書籍の大部分はAmazonの介護書籍で第一位を獲得。

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