女性起業家支援を軸に、経営改革も担う三代目女性税理士
働きやすい環境づくりは「子連れ出社」も視野 Vol.2

税理士法人小野会計 小野 貴子

税理士法人小野会計 小野 貴子

女性の起業が増える一方で、税務や資金調達に不安を抱える声は少なくない。そんな中、税理士法人小野会計の代表・小野貴子氏は、融資や補助金提案、事業計画の策定など、税務にとどまらない総合的な伴走支援を提供し、女性起業家の挑戦を支えている。 経済的な自立を目指す女性たちの心強い伴走者であると同時に、所内ではフルリモートやフルフレックスを導入し、将来的には「子連れ出社」も視野に入れるなど、働きやすい環境づくりにも力を注ぐ経営哲学に迫る。

東京進出と顧客獲得戦略
在宅ワーカーやAI活用で効率化

税理士法人小野会計の本店は群馬オフィスですが、2025年に東京オフィスを設立されました。
どういったねらいがあったのでしょう?

群馬の本店は、父が代表を務め、地元企業を中心に税務顧問を行っています。
一方で、私が東京に住んでいたこともあり、以前から都内にも顧問先はありました。しかし、群馬の住所だけでは「遠い」と敬遠されることもあったのです。東京オフィスを開設し住所を明記したところ、新規の依頼が増え、拠点の重要性を実感しました。
なお、東京オフィスの顧客の多くは女性起業家です。女性起業家支援に力を入れていくためにも、やはり東京に拠点を構える必要があったと思っています。

税理士法人小野会計 小野 貴子


現在の顧問先数や顧客獲得経路について教えてください。

顧問先数は現在、群馬オフィスが約200件、東京オフィスが約30件です。特に東京の顧問先は、今後さらに増やしていきたいと考えています。
現在、新規のお客様の8割は私を指名する女性の方です。紹介が主ですが、InstagramやYouTubeなどSNSの発信を見て連絡いただくケースが増えているため、情報発信も意識的に行っています。
またホームページは群馬オフィス用=地域密着型、女性起業家向け=SNS経由での流入を想定したつくりで別々に設計・運用しています。


東京オフィスは在宅ワーカーの方が多いと伺いました。
円滑に業務を進めるための工夫や課題があれば教えてください。

スタッフとはWeb会議やチャットツール、クラウド会計を通じてやり取りしています。中には一度も対面したことのないスタッフもいますよ。
現状、資料作成やチェックなどの業務については、在宅ワーカーでも問題なく対応できています。一方で、申告書の作成などの税務はすべて私の担当です。品質管理の面からも、スタッフに任せるにはまだ課題を感じています。今後はマニュアル整備やルール化などによる業務標準化を進め、これらを信頼して任せられる人材の育成を目指します。


ITツールに加え、生成AIの活用にも積極的だとお伺いしました。

現在は主に周辺業務に生成AIを活用しています。たとえば、顧問先へのお知らせやセミナー案内、SNS・スライドの作成、メール返信、議事録作成、自分の思考整理などですね。
最近はGoogle Workspaceに全面移行し、税務への活用も進めています。Geminiで通帳データから仕訳を起算し、自動的に会計ソフトへ取り込むことで工数を削減。人手不足の時代に備え、こういった効率化は必須と考えています。
ツール導入にあたっては、業界の先輩方の意見を参考に、「まずは試してみて、合わなければ変える」というスタンスで取り組んでいます。




成長戦略とDX
過去と未来をつなぐ挑戦

小野先生は群馬オフィスの顧客も担当されているのでしょうか?ご家族との役割分担があれば教えてください。

私は東京の業務が中心ですが、群馬にも古くからの顧問先がいらっしゃるので、対面でのご要望があれば伺うようにしています。
全体的な役割分担で言うと、父は地元経営者との関係づくりや税務調査対応を担い、私は新しい税制やIT分野を担当しています。得意分野を分け合うことで、幅広いニーズに応えられる体制になっていると思います。


事務所全体の経営方針についても教えてください。

小野会計は今年で創立70周年を迎えます。これまで税務顧問を中心にサービスを提供してきましたが、現在は財務支援、融資支援、補助金支援、DX支援といった付加価値業務にも力を入れています。
そのために、スタッフの教育を進め、顧問料以外でも収益を上げられる体制づくりを進行中です。固定給に加えインセンティブ報酬も導入し、スタッフが主体的に動ける仕組みを整えています。
また、長い歴史を持つ事務所だからこそ、危機感を持ち、時代に取り残されないよう、積極的に新しいテクノロジーを検証し、必要なものを取り入れています。効率化にとどまらず、これからの会計事務所のあるべき姿を見据えた運営をしていきたいですね。




組織の未来図
全員で価値を生み出すチームへ

今後、事業を拡大するにあたり、どのような取り組みを進めるのでしょうか?

今後の数年でマネージャーを育成・雇用し、組織化を進めていきます。DXや補助金などには専門部署を設け、権限移譲できる環境を整えたいですね。併せて、高付加価値業務に職員全員で対応できるよう教育も進めています。安心して現場を任せ、私は経営に専念できる状態になるのが理想です。
従業員規模は、10年以内に現在の7名(業務委託除く)から20名程度を目指します。先代の頃より長く務めてくれている職員もいますので、急激な拡大よりも、やりがいや働きやすさなど従業員の幸福度を優先したいですね。

税理士法人小野会計 小野 貴子


そのための現在の取り組みを教えてください。

従来の当所は業務の属人化が目立っていたため、現在は標準化に力を入れています。経営指針書や業務マニュアル、チェックリストを整備し、事務所の理念や行動指針だけでなく、掃除やデスク整理といった日常業務まで細かく明文化しているところです。
共通認識を持ち、あいまいさをなくすことが権限移譲の第一歩。そのため、これらは職員全員で作成に取り組み、各自が自分ごととして捉えられるようにしています。定着のために、私自身が率先して実践し、職員へ働きかけることも欠かしません。
目指すのは、代表や一部の職員に依存せず、全員が主体的に価値を生み出す組織です。関係の質を高め、一人ひとりの成長を事務所全体の力に変える――そんな未来を描いています。

プロフィール
税理士法人小野会計 小野 貴子

税理士法人小野会計 代表税理士。大学卒業後、音楽業界へ飛び込み、アーティストのマネジメント業務などを行う。その後、会計・税務の業界へ転身し、税理士資格を取得。2021年税理士法人小野会計(群馬オフィス)を設立。2025年東京オフィス設立。70年続く家業の税理士事務所を承継後、DX化や金融機関目線での財務支援を推進。事業計画や資金繰りなどお金の不安をトータルでサポート。税務に留まらない多角的な支援と「脱属人化」「チーム経営」を掲げ、事務所の改革に挑む。近年では、経済的な自立を目指す女性や女性起業家の支援に力を入れている。また企業や大学などで、税金や会計に関する数多くのセミナーを行い、セミナー講師としての実績も多数。SNSの発信にも力を入れており、税金や会計にまつわる最新情報をいち早く発信している。

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