AI時代の差別化は「人」にあり
会計業界が取り組むべきCS(顧客満足度)向上とは

顧客満足度向上 税理士.ch

ITやAIの進化により、業務の一部が自動化される現代。専門性という強みを持つ会計事務所も、知識だけでの差別化は難しくなってきています。
これからの時代に求められるのは、機械では代替できない「人だけが提供できる価値」。CS(顧客満足度)の向上は、事務所の存続を左右する重要な課題です。
本記事では、CS向上研修の専門家である佐藤久美先生に、会計業界がCS向上に取り組むべき理由と、具体的な研修内容についてお話を伺いました。

佐藤久美

接遇人財コンサルタント/国家資格キャリアコンサルタント
国内航空会社にて客室乗務員として5年間勤務後、大手広告代理店での営業アシスタントを経て、国内メーカーにて新卒採用事務局運営を21年経験。パラレルキャリアとして俳優業を14年、研修講師業21年など様々なキャリアを積み重ねている。
これまで述べ400社以上、5万人以上のプロフェッショナル人材の育成を経験。主にサービス業界における新人接遇指導から指導トレーナー育成、管理者育成を得意とし、その組織の問題解決に求められる様々なヒューマンスキル研修やコンサルティングを通じて、組織全体のCSホスピタリティ向上、およびES(社員満足度)に貢献している。

― はじめに、CS向上研修とはどのようなものか教えてください。

CS向上研修は、顧客満足度(Customer Satisfaction)を高めるための研修です。顧客が何に満足し、どうすれば「また利用したい」と感じるのか、顧客ロイヤルティ向上の視点から考え方と実践を学びます。
研修では、ホスピタリティマインドの醸成をはじめ、接客対応、電話応対、クレーム対応など顧客対応に関する幅広いテーマを扱います。また、顧客満足度で高評価を得るホテルやテーマパーク、航空会社などの実際の取り組みを読み解き、自社業務への応用のヒントを探るワークも取り入れています。

会計業界がCS向上に取り組む必要があるのはなぜでしょうか。

会計事務所の業務は、ITやAIの進化で自動化が進みつつあります。これにより、税務会計業務だけで他事務所と差別化することは難しくなりました。
だからこそ今後は、「この事務所にお願いしたい」と思ってもらえるような、人ならではの対応が差別化の鍵になります。CS向上研修は、人にしか生み出せない価値に改めて焦点を当てる良い機会です。
例えば、お客様の数字から経営課題を見抜いたり、他の顧客同士を結びつけて新たなビジネスチャンスを生み出したりすることは、人の関与が欠かせません。こうした独自の強みを具体化し、差別化を図ることが、これからの会計事務所の経営には不可欠になると考えています。

会計事務所が抱えるCS上の課題には、どのようなものがあるとお考えですか。

会計事務所の仕事は専門性が高く、数字の処理や作業に意識が向きがちです。その結果、顧客の状況や気持ちへの配慮が後回しになることがあります。
たとえば、顧客の表情や言葉に不安がにじんでいても、自分の担当業務ではないと判断して、その気持ちに踏み込まないケースがあります。こうした対応が積み重なると、顧客との間に「気持ちのズレ」が生じ、顧客満足度の低下につながってしまうのです。

顧客からのクレームがあったとき、どのように受け止めればよいでしょうか。

クレームや批判の声は、顧客の期待と実際のサービスにズレがあるときに生まれます。言い換えれば、それは改善のヒントであり、成長のチャンス。期待があるからこそ、不満が出るのです。
だからこそ、こうした声を否定せず、なぜ起きたのかを冷静に分析し、業務や対応を見直すことが重要です。さらに、個人任せにせず、組織として改善に取り組む仕組みにできるとよいでしょう。
研修や定期的な振り返りを通じてCSへの意識が高まれば、従業員の満足度も向上し、その結果として顧客からの評価や紹介につながる好循環が生まれます。

CS向上研修では、どのような内容を学ぶのですか。

CS向上研修では、まずお客様の立場に立って考えることから始めます。最初のワークでは、受講者自身が体験した良いサービス・悪いサービスを振り返り、その理由を話し合います。これにより、「人は期待を上回るサービスに感動し、期待を下回るサービスに不満を抱く」というCSの本質を学ぶのです。
次に、この気づきをもとに、自社の業務で「お客様の予想を超えるひと工夫」をどう実践できるかを考えていきます。これは、基本対応をこなすだけでなく、お客様に「おっ」と思ってもらえるような付加価値を生み出すための思考法を身につけることが目的です。

具体的な事例を教えていただけますか。

ある医療機器メーカーの事例です。この会社は、遠方から勉強会に参加するお客様のために、会場周辺のホテル地図やレストランの予約代行サービスを用意しました。
この「ひと工夫」の配慮にお客様は感動し、顧客満足度が大きく向上。さらに、紹介されたレストラン側も新たな集客機会を得られ、関係者全体にメリットのある形になりました。
CS向上は必ずしも大きなコストをかける必要はありません。研修では、こうした事例を参考にしながら、現場ですぐに活かせるアイデアを出し合い、実践力を高めています。

階層によって、研修の内容や求められるスキルは変わるのでしょうか。

研修の基本構成は共通していますが、目的はそれぞれ異なります。若手社員に身につけてもらうのは、第一印象の作り方や多様な価値観の受け止め方といったCSの土台となるスキル。一方、中堅・ベテラン層には、経験から生じる思考の偏りを見直し、多様化する顧客ニーズに対応できる柔軟な視点を取り戻すことに焦点を当てています。
共通して求められるのは、「傾聴」「質問」「共感」「アサーティブ・コミュニケーション」などの対人スキルです。実際に研修を導入した企業では、心理的安全性が高まり、社員の発言や行動に前向きな変化が生まれています。

CS向上研修を導入することで、どのような変化が期待できますか。

CS向上研修を導入することで、顧客満足度だけでなく、従業員満足度(ES)の向上も期待できます。研修を通じて、心理的安全性が高まり、従業員が自信を持って意見を言えるようになるからです。
こうした変化は、職場の雰囲気や人間関係を改善し、やがては企業文化そのものを前向きなものに変えていく力となります。結果として、組織全体の生産性向上にもつながるでしょう。

CS向上研修導入を考える会計事務所に、一言お願いします。

これまでCSは「売上に直結しない」と後回しにされることも多かったかもしれません。しかし、今や状況が変わりました。お客様との関係性の質が、そのまま事務所の信頼や評判、将来の経営に影響する時代が来ているのです。
CSは「やれたらいいこと」ではなく、「やらないと損をすること」に変わりつつあります。職員一人ひとりが、日々の対応のなかで事務所の価値をどう伝えるか。その積み重ねこそが、これからの経営には欠かせません。
今から取り組めば、5年後、10年後には大きな差になります。この機会にぜひ、CS向上研修を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

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