税理士業界が注目した 今月の気になる税務トピック<気になる税務トピックVol.38>

『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.142(2025.8)に掲載されたものです。


白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生

総則6項事件は高裁で納税者が逆転敗訴

亡くなる直前に被相続人が第三者割当増資を実行し36億円を払い込み、取得した非上場株式の相続税評価をめぐって争われた。相続人は、株式の評価を「併用方式」(類似業種比準価額+純資産価額)によって1株1,858円(総額約21億2,500万円)と申告したが、課税庁は評価通達6項に基づき「純資産価額方式」によって1株3,443円(総額約37億3,800万円)と評価し、増額更正処分を行った。このスキームにより、相続税額は本来の20億円から約10億円へと約半減(48%軽減)された。

一審の東京地裁は、通達評価額を上回る評価を認定することは平等原則に違反すると判断し、一審では納税者が勝訴していた。

しかし東京高裁は6月19日、本件新株発行等に至る経過によれば、相続人が、本件新株発行等が近い将来発生することが予想される被相続人の相続において相続人らの相続税の負担を減じさせるものであることを知り、これを期待して、あえて本件新株発行等を行ったことは明らかというべきと判断した。課税庁による更正処分は平等原則に違反するとは言えないとして、納税者側の訴えを退けた。

当然の判決だろう。地裁は、納税者が併用方式を選択するのは評価通達に基づく認められた選択であり、評価額の違いが生じても、租税負担の公平を損なうとはいえず、また、新株発行等が相続税を著しく軽減したとは評価しがたいと判断したが、要は通達が選択を認めている以上は問題ないと言ってるだけだったので大きな違和感があった。

なお、敗訴した納税者側は上告したとのことだ。本件は最高裁で争われることになった。

継続的取引停止に係る貸倒れの判断基準

法人税基本通達9-6-3は、取引を停止した時以後1年以上経過した場合の形式基準による取扱いであるが、複数回の取引が行われていても「継続的な取引」に該当しないとして、この形式基準による貸倒れを認めなかった裁決(関裁(法・諸)令6第1号)がある(週刊T&Amaster No.1082 2025年7月14日)。

請求人は、債務者である取引先に対し、継続的な受注を期待しながら5年以上にわたって複数回の工事を行っていたことから、工事は「継続的な取引」に該当し、この取引先に対する売掛債権につき貸倒損失の損金算入が認められるべきと主張した。

これに対し審判所は、継続的な取引の判断基準として、①基本契約書の有無、②債務者の事業内容、③個々の取引の内容等を考慮し、「継続的な取引」には該当しないと判断し、貸倒損失の損金算入を認めなかった。

これとは別の事例として、国税庁の質疑応答事例では、通信販売のように1度だけの販売であっても、その顧客について、継続・反復して販売することを期待してその顧客情報を管理している場合には、結果として実際の取引が1回限りであったとしても、継続的な取引を行っていた債務者として、その取引が行われた日から1年以上経過したときには貸倒処理が認められる。

両方の事例を確認することで法基通9-6-3がよく理解できる。

白井 一馬

しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。

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