インフレとデフレ、結局どっちがいいの?知っておくべき日本経済の現状と今後の展望について

インフレ(インフレーション)とデフレ(デフレーション)は、経済における物価の動向を表す重要なキーワードです。特に2020年代以降の日本経済では、これまで長く続いたデフレからの脱却を目指し、インフレへと転換する動きが本格化しています。しかし、足元ではエネルギー価格や円安などによる急激な物価上昇が家計や企業に大きな影響を及ぼしており、「インフレは本当に良いことなのか?」といった疑問を抱く方も少なくありません。そこで、本記事では「インフレとデフレ」をテーマに、それぞれの特徴やメリット・デメリット、そして日本の状況と課題などについてわかりやすく解説していきます。
目次
- インフレとは
- デフレとは
- インフレ、デフレは操作できる?ハンドリングの難しさについて
- 日本のインフレ・デフレの歩みと政策の変遷
- 現在の日本の経済状況と課題
- 結局、インフレとデフレはどっちがいい?
- まとめ
インフレとは

そもそも、インフレやデフレはなぜ起こるのでしょうか?ここでは、そのメカニズムについて解説していきます。
インフレとは、物価が継続的に上昇する現象を指します。インフレが起こる要因としては、一般的に需要が供給を上回る、原材料価格の高騰、人件費の上昇などが挙げられます。適度なインフレは経済の成長を示すサインですが、過度なインフレは生活コストや企業の調達コストを押し上げ、経済活動を不安定にします。
インフレのメリット
- 企業の売上や利益の増加が期待できる:物価の上昇により製品やサービスの単価が上がるため、売上高が増加しやすくなります。
- 貨幣価値が下がるため負債の実質的負担が軽減される:企業や政府が抱える債務の実質的な返済負担が軽くなり、財務の健全化に寄与します。
- 将来の物価上昇を見越した投資や消費が促進される:お金の価値が下がる前に使おうとする心理から、設備投資や個人消費が活性化し、経済の循環が良くなります。
- 在庫資産の価値が相対的に上昇する:インフレ環境下では在庫の価格が上がる可能性があり、企業にとって利得を生む場合もあります。
インフレのデメリット
- 家計の実質購買力が低下する:物価上昇が賃金上昇を上回った場合において、実質的な生活水準が下がり、消費の抑制につながります。
- 経済格差が広がる:物価の急上昇は生活コストを押し上げ、特に低所得層に打撃を与えます。食料品や光熱費の上昇は家計を直撃し、低所得者の生活が困窮するリスクが増します。
- 企業の仕入れコスト増加により利益率が悪化する:原材料や外注費の値上がりが企業の収益構造を圧迫します。
- 中央銀行の利上げによる資金調達コストの上昇:インフレを抑制するために金利が引き上げられると、企業の資金繰りに影響を与えます。
デフレとは
一方でデフレとは、物価が継続的に下落する現象を指します。デフレ環境下では、消費者の需要が減少し、企業が価格を下げることで需要を喚起しようとする状況が起きます。デフレが長期化すると企業の収益が圧迫され、賃金低下や失業率の上昇などの悪循環が起きやすくなるといわれています。
デフレのメリット
- 物価が下がることで家計の支出が抑えられる:同じ所得でも多くの商品を購入できるため、生活費が軽減されるという利点があります。
- 高齢者など固定所得層の生活水準が相対的に上がる:年金受給者など収入が固定されている人にとっては、物価が下がることで実質的な生活水準が向上します。
- 輸入品の価格が下がり、消費者の選択肢が広がる:円高が進行する傾向にあり、輸入コストの削減や価格競争が消費者に利益をもたらします。
- 長期的に安定した資産形成ができる:安定して低金利であるため金利変動が少なく、投資や資産運用のリスクが軽減されることがあります。
デフレのデメリット
- 企業収益や賃金が減少し、失業率が増加する:価格競争の激化によって利益が減少し、リストラや賃下げといった負の連鎖が起こります。
- 設備投資や消費の減退により経済が停滞する:将来の価格下落を見越して、企業や個人の支出が減少する「デフレスパイラル」に陥る可能性があります。
- 税収が減少し財政悪化を招く:法人税や消費税の税収が減ることで、政府の財政運営に支障をきたします。
- 金融政策を打ち出せない:金利が既に低い環境では追加の金融緩和が難しく、政策効果が限定的になる傾向があります。
インフレ、デフレは操作できる?ハンドリングの難しさについて
インフレやデフレは、経済政策によってある程度コントロールできるとされている現象ですが、容易に操作できるものではありません。政府や中央銀行は、金融政策や財政政策を通じて経済の安定を図ろうとしますが、その効果には限界があり、予期せぬ外部要因によって計画が狂うことも少なくありません。
例えば、中央銀行は金利の引き下げや資金供給によってインフレを促進することができます。
一方で、金利を引き上げたり、資金の供給を絞ったりすることでインフレを抑える努力もします。しかし、経済主体の行動や市場心理、国際情勢の影響を受けるため、政策の効果が現れるまでにはタイムラグがあり、予想通りに経済を動かすことは困難なのです。
特に現代のグローバル経済においては、エネルギー価格や原材料価格、為替レートなど外的要因によって物価が大きく動くケースが増えています。2022年以降の日本におけるインフレも、日銀の金融政策というよりは、世界的なサプライチェーン混乱やウクライナ戦争による原油・小麦価格の高騰、円安進行といった外的ショックが主要因と言われています。
また、デフレの克服も簡単ではありません。過去の日本のように、一度デフレが定着してしまうと、消費者や企業の期待が「物価は今後も下がる」と固定化され、投資や消費の抑制が常態化してしまいます。こうした期待の変化を覆すためには、単なる金利操作だけでは不十分で、賃金上昇の促進や構造改革など多面的なアプローチが必要になります。
つまり、インフレもデフレも経済政策である程度はコントロール可能とはいえ、その実現には高い政策判断能力と社会全体の協力、そして国際情勢への対応力が求められるため、容易にコントロールできるものではないのです。
日本のインフレ・デフレの歩みと政策の変遷
現在に至るまで、日本のインフレとデフレはどのような変遷を辿ってきたのでしょうか。
バブル崩壊後の1990年代以降、日本は長らくデフレ傾向が続きました。特に1998年〜2012年は「デフレスパイラル」とも呼ばれ、物価・賃金・投資の低迷が慢性化しました。
その後、アベノミクスによる大胆な金融緩和政策(異次元緩和)によって、2013年以降は物価上昇を目指す経済運営が続きましたが、2%のインフレ目標達成は困難でした。新型コロナウイルスやウクライナ情勢、エネルギー価格の高騰など外部要因により、2022年以降はやや強めのインフレが進行している状況です。
現在の日本の経済状況と課題

2025年現在、日本はエネルギー・原材料価格の高騰や円安による「コストプッシュインフレ」に直面しています。これにより、実質賃金の下落、生活費の上昇、企業利益の圧迫といった課題が浮き彫りになっています。
これから先、企業利益が圧迫され続け、家計の可処分所得が物価上昇に追いつかない状況が続けば、消費の停滞を招き、さらなる不況状態である「スタグフレーション」を招いてしまいます。
政府は、消費の停滞を防ぐべく、最低賃金の引き上げや企業によるベースアップを促進しており、物価と賃金の好循環を目指した政策が展開されています。加えて、製造業では自動化・デジタル化による生産性向上が進められ、中長期的な成長戦略が模索されています。
しかし、日本は少子高齢化や労働力不足といった構造的課題も同時に抱えており、特に人件費の上昇は企業にとって大きな負担となっています。労働生産性向上が伴わなければ持続的な成長には繋がらず、賃上げすることも不可能です。
日本経済が目指すべき経済状況は、企業が労働生産性と労働者の賃金を上昇させ、消費の停滞を防いで「コストプッシュインフレ」から脱却し、需要の上昇に伴って起きる「ディマンドプルインフレ」へ移行することなのです。
結局、インフレとデフレはどっちがいい?
結論として、現在、経済の持続的な成長を目指す上では「適度なインフレ」が望ましいと多くの経済学者が考えています。インフレになることで、企業は収益を上げやすくなり、新たな投資や雇用創出が促進されるためです。また、消費者は将来の価格上昇を見越して現在の支出を増やす傾向があるため、景気の活性化にもつながります。
一方、デフレは物価が下がり続けることで、企業の売上や利益が減少し、設備投資や雇用が抑制される結果、経済が縮小傾向に陥ります。また、借金の実質負担が増えるため、企業や政府の財政運営にも悪影響を及ぼします。
ただし、行き過ぎたインフレや経済成長を伴わないインフレもまた深刻な問題を引き起こします。極端な例として第一次世界大戦後のドイツのハイパーインフレが有名ですが、物価上昇が急激すぎると実質所得が目減りし、消費が減退するばかりか、金融不安を招くことにもなりかねません。そのため、重要なのは物価と賃金のバランスを保ちながら、安定した経済成長を実現することです。
事業者は、インフレ環境下でも利益を確保できるよう、価格転嫁のタイミングや財務体質の強化、在庫・資金繰りの適正化をし続けることが重要です。また、デフレ環境下では過度なコストカットが将来的な成長力を奪わないよう注意を促す必要があります。
つまり、事業者にとって状況に応じて経済政策や企業行動を調整することが大切なのです。適度なインフレとそれを支える実体経済の強化が、日本経済にとっての理想的な道筋といえるでしょう。
まとめ
いかがでしたか?
本記事ではインフレとデフレについてわかりやすく解説してきました。
まとめると、
- インフレは物価上昇、デフレは物価下落を指し、それぞれにメリット・デメリットがある
- 日本は長期的なデフレから脱却し、現在はインフレ傾向にある
- インフレ・デフレは経済政策のみで調整することは困難
- ゆるやかなインフレが良いとされているが、持続可能なインフレを実現するためには、賃金上昇や生産性の向上が必須
- 事業者にとって大切なのは、インフレ下、デフレ下の状況に応じて企業行動を調節すること
以上が本記事の要点となります。
本記事が、デフレとインフレについての知識を深める一助となれば幸いです。

税理士.ch 編集部
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