税制改正で注目される資産税の改正<気になる税務トピックVol.6>
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
2022/11/25
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
税制改正で注目される資産税の改正
税制改正で注目される資産税の改正といえば、「資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税のあり方」に関する改正。政府税制調査会の議論では、暦年贈与は維持すべき、相続時精算課税を選択しても少額の贈与について課税しないことにすべき、と言った意見が出たとのことだ。
少額の贈与に課税しないとはどのような意味なのだろう。相続時精算課税を選択しても少額贈与は申告する必要がなく、贈与者の相続時においても遺産に加算しなくて良い、と言う意味だろうか。それで相続時精算課税を選択する人が増えるのだろうか。よく分からないが、相続時精算課税を選択したいのに少額贈与まで申告しないといけないのは面倒だ、と考える人が新たに選択するということか。
また、相続開始3年以内の生前贈与加算については加算期間を延長すべきとの議論がされているわけだが、寿命が大きく伸びたことで生前贈与できる期間が長くなっていることに配慮すべきとの意見が出たと報道されている。
諸外国では、たとえばフランスは過去15年分、ドイツは過去10年分の贈与に課税しているとのこと(相続税・贈与税に関する専門家会合(第1回)令和4年10月5日)。
日本でも10年あるいは15年にすべきだという意見が自民党議員から出ているようだが、では過去10年・15年の生前贈与をフランス等の国ではどうやって把握しているのだろうか。日本では更正処分の期間が以前は3年だったことから3年以内の生前贈与加算としていると考えられる。現行の贈与税の時効は6年。それ以上の過去の贈与をどう補足するか分からなければ、改正と実務の議論は始まらない。
どうも、早期の資産移転を促す改正ではなく課税強化の改正としか思えない。
政府税調:教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与の廃止を検討政
府税制調査会ではその他、教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与の廃止が検討されている。また、高額な無申告や連年の無申告は、特段の仮装隠ぺい行為などがない限り、現行では通常の無申告加算税の対象になることが問題視されており、早期の対応が必要と指摘されている。
脳障害で自宅を売却、遺族が契約無効を訴え提訴
脳障害になった人が亡くなる前日に自宅を売却したが、代金は「借金で相殺した」として振り込まれなかった。これに対し遺族は「脳の障害で認知機能が低下した男性の弱みにつけこんだ契約は無効だ」として、会社側に2,150万円の賠償を求めて提訴した。11月17日の口頭弁論で会社側は、「認知能力はあり、契約は有効」だと反論し訴えを退けるよう求めている(11月17日 NHK関西NEWS WEB)。
明らかに騙し取られた(と思える)わけだが、当然に無効になるのかと思ったら、本人の遺族が無効を主張するのは難しいそうだ。弁護士の先生に聞くと、確信的に騙し取ろうとする者と法廷で戦うのは相当に難しいとも。このような事例こそ成年後見制度を使うか、あるいは民事信託を使って家族が受託者になっておくべきだったと思う。