生前贈与加算と相続時精算課税の改正について検証<気になる税務トピックVol.7>
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
2022/12/22
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
改正後は、相続時精算課税が明らかに有利!?
令和5年度税制改正大綱が公表された。注目は生前贈与加算と相続時精算課税の改正だ。結局、暦年課税制度は存続、生前贈与加算が7年に延び、相続時精算課税については現行の基礎控除とは別途110万円の基礎控除が認められることになった。事前の報道等で110万円の控除はある程度知らされていたのだが、気になっていたのは、控除した110万円相当を贈与者の相続時の遺産に加算するのか否かだった。大綱によると110万円は持ち戻す必要はないとのことだ。
生前贈与加算については3年から7年へと、4年延長されることになるが、4年分についてはその間の贈与額のトータルから100万円を控除してから遺産に加算する。100万円を控除する意味は何か。大綱にあるような記録や管理への配慮からとは思えない。100万円を超える金額は加算しなければならず、必ず4年分の贈与は集計する必要があるからだ。また、加算の期間が長くなると早期の生前贈与が進むと説明されているが、そんなことはないだろう。むしろ、相続税の税務調査では過去の生前贈与についてより神経質にならざるを得ない。課税強化だと捉えるのが自然だ。
相続時精算課税は110万円の加算が必要なく、暦年贈与だと7年内の贈与では加算が必要。110万円を贈与したいと考える納税者にとっては、明らかに相続時精算課税が有利になってしまう。そうだとすれば専門家は相続時精算課税をアドバイスするのが義務になってしまう。税法の理屈の上ではそのような改正には疑問が残る。条文の公表を待ちたい。
生前贈与加算と“時効”との整合性は?
相続開始の7年前の贈与は、相続税の申告をして税務調査がある頃には10年近く前の贈与ということになる。時効の問題は生じないのだろうか。贈与税の時効は6年だ。現行では相続開始前3年以内の贈与が加算対象だが、加算もれが相続税の調査で発覚しても6年の時効でカバーできる。ただし生前贈与加算は贈与税の申告がなくても必要だ。つまり相続時の課税価格の計算の問題であって贈与税の時効の問題ではないという見解もあるかもしれない。しかしその理屈だと30年前の贈与であっても加算するという改正も可能となってしまう。それはあり得ない。時効との整合性はどうなるのだろうか。
生前贈与加算の対象者拡大は見送り
110万円の暦年贈与を活用しているのは実は富裕層だ。10人の孫、ひ孫に毎年110万円の贈与を10年続けると1億円が相続財産から圧縮される。こういった行為への課税強化として、遺産を取得しない孫等にまで生前贈与加算の対象者を拡大することが改正前には議論された。しかし大綱ではこの点の改正はなかった。このような贈与は今後も有効だということだ。