常識を打ち破る会計事務所DX
sankyodo税理士法人 CTO・宮川大介が語る変革の舞台裏と未来像 Vol.1

サン共同税理士法人 CTO・税理士 宮川 大介

sankyodo税理士法人 CTO・税理士 宮川 大介

会計業界において、ひときわ進んだDXの取り組みを進めるsankyodo税理士法人。その立役者であるCTO(最高技術責任者)・宮川大介氏は、システムエンジニアから税理士への転身という異色の経歴を持つ。sankyodo税理士法人へ入所後は、GoogleWorkspace、kintone、freeeといったツールの導入で業務や組織のあり方を抜本的に改革。現在はDX人材の育成に注力している。そんな宮川氏が導く事務所変革の舞台裏と、予見する会計業界の未来像に迫った。

理想像実現のためツールを厳選
GoogleWorkspaceに決めた背景は

sankyodo税理士法人が進めてきたDXにおいて、宮川先生が導入された主要なツールは
GoogleWorkspace、kintone、freeeの3つだと伺いました。
まずは、それぞれの導入の背景と、どのような変革をもたらしたか詳しく教えてください。

サン共同税理士法人 CTO・税理士 宮川 大介

ツールの選定にあたっては、各サービスの仕様書や、他社がどのように活用しているかを紹介する導入事例を徹底的に読み込み、実際の利用イメージを思い浮かべながら比較検討を重ねました。手元の資料がボロボロになるくらい、何度も何度も読み返していましたね。
その中で最も早く導入し、大きな変化をもたらしたのがGoogleWorkspaceでした。Microsoft365と約3ヶ月かけて比較検討した結果、「事務所が目指す業務のあり方により適している」と判断してGoogleを選択。重視したのは、どちらのツールが多機能かではなく、業務の進め方そのものをどう変えられるかという視点です。


GoogleWorkspaceの導入後、どのような変化が起きたのでしょうか。

当時、所内の情報はメール、共有サーバー、各PC内に分散しており、やり取りにも手間がかかっていました。一方GoogleWorkspaceは、クラウドでの同時編集や情報共有を前提とした設計で、個人の端末に依存せず、すべての情報がオンライン上で一元管理されます。この構造の違いが、私たちにとっては決定的でした。
導入は3~4年前。全所の情報をGoogleに集約するのは大がかりな作業でしたが、結果として業務プロセスに大きな変化が生まれました。たとえばリンクでのドキュメント共有により、「どのファイルが最新か」「誰が持っているか」を確認する必要がなくなり、スプレッドシートやカレンダーを通じて、全員が常に同じ情報をリアルタイムで把握できるようになりました。情報共有のためのやりとりや確認が不要になり、チーム内のストレスも大きく軽減されています。
もしMicrosoft365を選んでいたら、ここまでスムーズにクラウド化や共同編集の文化を根付かせるのは難しかったと思います。機能面では大きな差はありませんが、GoogleWorkspaceのほうが共同作業を前提としたシンプルで扱いやすい設計で、当事務所が目指す「誰もが自然に連携できる働き方」の実現によりフィットしていました。現在では、WordやExcelを使うことはほとんどなく、Googleドキュメントやスプレッドシートが所内の標準になっています。


会議での提案を即座に実装・運用開始
kintoneの強みはスピード感

kintoneについては、宮川先生が自所開発からの転換を決断されたそうですね。

もともとは自所開発のシステムで業務管理を行っていましたが、理想を追い求めるあまり、開発に時間がかかりすぎたり、コストが膨らんだりと、運用面で現実的ではなくなっていました。
ちょうどコロナ禍のタイミングで私がシステムの責任者となり、業務フローとシステム基盤の両面から見直しに取り組みました。いくつものサービスを見比べ、必要な要件をスピーディーかつ柔軟に実現できるkintoneを選びました。
kintoneは、ドラッグ&ドロップで項目の追加・変更ができるため、IT部門を介さず現場で即座に改修できるのが強みです。たとえば幹部会議で出たアイデアを即座にアプリ化し、全所運用に移せるスピード感。これは、ノーコード・ローコードで構築できるkintoneならではの強みです。実際、事務所内でも、必要に応じて自分たちでアプリを改良しながら、実務に合った形へと進化させています。

kintoneを軸にした業務設計の考え方を詳しく教えてください。

基本方針は、kintoneに顧客情報を集約し、それを中心に他のSaaSとAPI連携させることです。スタッフの業務はkintone上で完結するように設計し、情報を一元管理。業務が属人化せず、必要なデータが自動的に蓄積される構造になっています。将来的なAI活用にもつながる、整ったデータ基盤が形成できたのは大きな成果でした。
目指しているのは理想的な業務フロー×API・RPAでの自動化で「使う人が楽になるシステム」。そのため、業務の流れに沿って、無理なくデータが集まるよう構造を緻密に設計しています。たとえば顧客情報の入力ルールには、e-Taxや他システムとのスムーズな連携を想定した工夫が多数あり、「株式会社」の表記方法や代表者名の区切り方など、細部まで設計意図を持って要件定義しています。
これらは、初回入力の手間はあるものの、後続の処理は圧倒的にスムーズになります。たとえばe-Tax番号の取得や地方税の申請も、ボタンひとつで完了。クラウドRPAと組み合わせて、自動処理がバックグラウンドで動いています。

サン共同税理士法人 CTO・税理士 宮川 大介

他にも自動化している業務があれば教えてください。

契約書の作成を自動化しています。kintone上の顧客情報をもとに必要な帳票が自動生成され、手入力が必要なのは金額のみ。電子契約サービスとも連携しており、申請と同時に契約相手に通知が届く仕組みです。
また、内容証明を含む郵送業務もkintoneとRPAを組み合わせて自動化しています。kintoneにPDFファイルを添付し、送信ボタンを押すだけで、外部の郵送代行サービスと連携。印刷・封入・封かん・切手貼り・発送までが自動で行われます。発送履歴もkintone上で確認可能です。
これにより、以前はスタッフが郵便局に足を運び、宛名印刷や封入を手作業で行っていた工程がすべて不要になりました。データアップロードだけで郵送が完了する手軽さに、スタッフも「これこそDXだ」と驚いていました。


「効率化」ではなく「業務の再設計」
freee導入の本質的な意図

freeeについては、どのような点が業務の変革につながったと考えていますか。

freeeの導入では、データ完結型の運用が実現し、経理業務が大幅に効率化されました。導入にあたっては、まずお客様に徹底したペーパーレス化をお願いしています。税金のダイレクト納付の申し込み、ネットバンキング・クレジットカードの利用環境を整備していただく。この段階で多くの会計事務所が断念してしまうのですが、当法人ではこれを税務顧問の必須条件として明確にし、すべてのお客様にご対応いただいています。
こうした土台さえ整えば、freeeと外部サービスの連携により取引データが自動で取り込まれるため、資料回収の手間は激減します。お客様とのやりとりも最小限で済み、月に1回30分程度のミーティングや、チャットでの確認だけで対応を進めることが可能になります。
当法人が考える業務効率化は、「いまある作業を楽にこなすこと」ではありません。そもそもその作業自体をなくすにはどうすればよいか、という視点で仕組みから見直しています。
たとえば郵送の効率化なら、「近くのポストを探そう」ではなく、「郵送せずに済む方法はないか」を考える。freeeは、そうした考え方にマッチするツールです。
freeeには自動仕訳の機能もあり、そちらも大いに活用しています。初期は「精度が低い」と感じることもあったのですが、使い込むほどに仕訳の精度が上がる自動学習機能があるため、データが蓄積されるに伴い対応も楽になってきました。少し使ってみて「これは使えないな」と判断された事務所さんも少なくないと聞いていますが、「試行錯誤しながらしばらく使い続けてみる」ことも、DXを本当に進めていくには必要なのではないでしょうか。

freeeを使いこなせる人材の育成にも取り組まれているとのことですが、
どのような人材像を想定されていますか。

freeeを活用して業務全体を設計・構築できる人材です。記帳などの処理をこなすだけではDXは進みません。

サン共同税理士法人 CTO・税理士 宮川 大介

クラウド会計を活かすには、業務の「川下」ではなく「上流」を設計し、情報が自然に流れる仕組みをつくる視点を持つことが重要です。そうすれば、手作業で拾う工程そのものをなくすことができます。
この考え方を私は、既存スタッフのスキルアップだけでなく、新人教育でも一貫して伝えています。業務全体を見る力、システムを設定できる技術、顧客の判断を支援する力。これらを備えた人材の育成を目指しています。もちろん私自身も、日々取り組んでいるところです。

プロフィール
sankyodo税理士法人 CTO・税理士 宮川 大介

2007年よりシステム会社に勤務。プログラミングから上流工程・システムコンサルティングを経験。2009年より都内税理士法人にて中小零細企業から上場会社の税務を担当。連結納税システム導入コンサルティングでは述べ100社以上の導入に関わり、講師等を担当。システムエンジニアの経験から、生産性向上を目的とした会計・税務システムの導入・業務改善コンサルティングを行う。 2019年sankyodo税理士法人にマネージャーとして入社。 2021年sankyodo税理士法人のパートナー・CTOに就任。 業務の傍らkintoneによる業務管理システムの要件定義から開発を行い、社内のDX推進やAI活用プロジェクトを推進している。近年は、会計事務所業界におけるAI活用・業務DXに関する知見が評価され、セミナー・講演の実績も多数。現在では2026年まで依頼を頂くほどの人気講師としても活躍中。

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