債権放棄が相続時精算課税の対象に取り込まれた事例<気になる税務トピックVol.9>

白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生

2023/3/2
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。

債権放棄が相続時精算課税の対象に取り込まれた事例
父親が会社への債権を放棄したことによって子が持つ株式の価値が上昇したとして贈与税を課税した裁決がある(令和4年3月16日裁決)。

相続時精算課税制度を利用して父から子に同族会社株式を贈与し、その2年後に、父が同族会社への債権を放棄している。5年後に父親に相続が開始し、相続税の税務調査において債権放棄が問題になった。債権放棄によって子の株式評価額が上昇するが、相続税法9条による贈与税課税の対象になるとされたわけだ。「債権放棄による株式の評価額の増加は相続税法第9条の規定の適用がある財産の増加というべきであって、更正処分は、株式の単なる評価額の増加を対象としたものではない」と判断された。贈与時に贈与税の申告がなかったわけだが、贈与が何年前であろうとみなし贈与が認定されれば遺産への加算は行うことが出来るので、その適用事例とも言える。

これはミス事例というよりもむしろ相続時精算課税を利用したリスク対策として参考になる。既存株主(子)への暦年贈与課税が認定されたら取り返しがつかない。そこで子は相続時精算課税を選択しておく。そうすれば万が一みなし贈与が認定されても相続時精算課税による贈与税負担があり、最終的には相続税課税で精算されることになる。放棄しなかったのと同じだ。他にもたとえば、不動産や同族会社株式を親子間で売買するときに、低額譲渡と認定されそうな不安があるときは相続時精算課税を選択しておけばリスク対策になる。ただし暦年贈与であれば贈与税の除斥期間もしくは生前贈与加算の対象期間が過ぎてしまうことも考えられる。その点、相続時精算課税を選択すればそのような期待はできないことになる。

死亡退社でみなし配当課税
公表裁決事例で、持分会社の社員の死亡退社によるみなし配当を認定された事例が公表されている(令和4年6月2日裁決)。

持分が相続人に承継されることが定款に規定されていれば、株式に準じて評価した持分が相続税の対象になり、みなし配当課税はない。

これに対し、定款の規定がない場合は、死亡退社により払戻請求権が生じ、そのうち出資に対応する部分を超える金額は被相続人のみなし配当になるため準確定申告の対象となる。また、払戻請求権は相続税の対象になる。しかし、死亡退社による持分の承継の規定が定款にない場合でも、相続後に定款変更したら実務は持分の承継を認めると思う。

だがこの事例では払戻しをゼロとすることで総社員が同意したとある。つまり持ち分の承継も排除して相続税を節約しようとしたのだろう。節税行為が否認された失敗事例なのかもしれない。

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