優秀な人材がいても、成果が出ない。会計事務所に足りない「チームの視点」とは?

チームビルディング 会計事務所

会計事務所のような少人数組織では、個々に力があっても「なぜかうまくいかない」という壁に直面することがあります。その背景には、目指す方向のズレや関係性のゆがみがある場合も。こうした課題に向き合う鍵が「チームビルディング」です。共通の目的を確認し、対話を重ねることで組織の力を高める。その考え方と実践について、組織開発の専門家・中野誠司先生に伺いました。

中野 誠司

なかのビジネスサポ―ト 代表/中小企業診断士
金融機関及びIT企業において35年間、人事・ 経営企画・リスク管理・海外・調達・システム部門等にて、実務やマネジメントを経験。2023年4月に、個人事業主として独立し、主に西日本にて研修講師や中小企業コンサルティングを実施中。 「人の成長が企業・組織の成長への第一歩」をモットーに、組織・人事関係の支援を手掛けている。

まず、チームビルディングとは何か、そしてなぜ今、それが会計事務所に必要とされているのか教えてください。

チームビルディングとは、ただ個人が集まるのではなく、「共通の目的」「貢献したいという気持ち」「円滑なコミュニケーション」という3つの土台を意図的に育み、メンバーが一体となって機能する「一つのチーム」を築き上げるための仕組みです。
優秀な人材がいても、進む方向が揃っていなければ、成果にはつながりません。だからこそ、「個人の育成」だけでなく「組織の関係性」にも目を向ける必要があるのです。

会計事務所において、どのような場面においてチームビルディングの問題に気づくことができますか。

わかりやすい兆候は、「人は足りているのに成果が上がらない」「新人は育っているのに業務改善が進まない」といった場面です。
具体的には、記帳ミスが減らない、クライアント対応の手戻りが多い、特定の人に業務が集中して残業が常態化する——そんな状況が続いているなら、組織全体の仕組みに原因があるかもしれません。本人たちは努力しているのに成果が出なければ、やがて疲弊し、モチベーションの低下にもつながります。そうしたときにこそ、個人ではなくチームの仕組みや関係性に課題があると捉える必要があると思います。
また、せっかく優秀な人材が入ってきても、既存のチーム構造や関係性が硬直していると、その力をうまく活かせないこともあります。そうした場合も、個々のスキルや意欲の問題ではなく、組織のあり方やチームの仕組みに課題があると考えるべきでしょう。

では、チームビルディング研修では、実際にどのようなことを行うのでしょうか。

導入では「なぜチームビルディングが必要か」「研修をどう進めていくか」といった基本を共有します。そのうえで、ワークとして「今、現場で一番ストレスになっていることは?」「業務がスムーズにいかない理由は?」といった問いを投げかけ、参加者に言語化してもらいます。
大切なのは、これらの問いに本気で向き合う場をつくることです。普段、業務に追われて見過ごされがちなことを、あらためて立ち止まって考え、対話する。最終的には「明日から何を変えるか」といった具体的な行動に落とし込んでいきます。
さらに、グループワークでは、「組織は何を目的としているか」「日々の業務がその目的にどう貢献しているか」といった視点で話し合う場をつくります。意見の違いや見解のズレをすり合わせるプロセスそのものが、“目的意識”を共有し、チームの関係性を育てていく基盤になります。

そのプロセスのなかで、どのような力が身につくのでしょうか。

大きく二つの力が育ちます。一つは、リーダーにとって重要な「チームづくりの視点」。自分のふるまいや役割を見直す機会になります。もう一つは、メンバー全員に必要な「対話力」。1on1や日常的な会話を通じて、信頼関係を築く力です。
こうした視点と対話の力が根づくことで、日常のコミュニケーションの質が高まり、「この職場で何を大切にしているか」がメンバー間で共有されていきます。結果的に、属人的なやり方から脱却し、組織としての動き方へと少しずつシフトしていくのです。

研修で得た気づきや学びを、現場でどう継続していくかも課題になりそうです。

まさにそこが難しいところです。チームビルディングは即効薬ではありません。じわじわ効いてくる漢方薬のように、時間をかけて効果が現れるものです。
だからこそ、「小さな成功体験」を積むことが重要になります。「残業が少し減った」「雰囲気が少しよくなった」といった実感が、前向きな継続につながります。
もう一つ大切なのは、リーダーが継続の姿勢を示すこと。短期的な成果が見えにくいからこそ、トップがぶれずに旗を振り続けることが、組織に浸透させる最大の推進力になります。

実際に研修を通じて、組織が変わったという事例はありますか。

印象的だったのは、ある組織でメンタル不調の発症率が下がったケースです。継続的にチームビルディングに取り組んだ結果、毎年明確に不調者が減っていきました。こうした数値として表れるケースはめずらしく、多くの場合は変化がじわじわと現れてくるものです。「雰囲気がよくなった」「笑顔が増えた」といった声がよく聞かれますが、これは心理的安全性の高まりを示すものと捉えています。
チームビルディングは、業務効率そのものに直接働きかけるというより、まず心の状態にアプローチするもの。メンバーが「ここで働きたい」「貢献したい」と思えるようになることが、結果的にパフォーマンスや成果にもつながっていくのです。

会計事務所のような少人数の組織や分業体制でも、チームビルディングは有効でしょうか。

むしろ、そうした組織にこそ有効です。少人数だと顔が見える関係性があるため、自然とチームになると思われがちですが、実は逆で、一人ひとりの仕事が分かれていて、全体像が見えにくい分、方向性がずれやすい。だからこそ、意識的に「共通の目的」を確認し合う機会が必要なのです。

最後に、研修の導入を検討している会計事務所へのメッセージをお願いします。

「人は育っているのに、組織がうまく機能していない」と感じたら、それはチームビルディングに取り組む絶好のタイミングです。組織の状態を客観的に見つめ直し、小さな改善から始めてみてください。
忙しさのなかでは後回しにされがちですが、まずは「立ち止まって話す」ことそのものに価値があります。チームビルディングは、問題を誰かの責任にせず、組織全体で向き合う“場”をつくる取り組みでもあります。最初の一歩は小さくても構いません。意識と関係性が変われば、組織も自然と変わっていきます。

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