金融危機はやってくるのか(小宮一慶先生 経営コラムVol.65)
株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO
小宮 一慶 先生
2023/4/24
本コラムでは『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
米国のシリコンバレーバンクの破綻にはじまり、それがスイス大手のクレディスイスに飛び火し、米国や欧州の銀行株が大きく値を下げました。いまは小康状態ですが、金融危機の恐怖からは完全に逃れられてはいません。各国中央銀行は破綻銀行の預金保護やドル資金の大量放出など、危機回避に懸命です。
銀行は、本来、資金をそれほど多く持っていないということをまず理解しておかなければなりません。というのは、銀行は預金されたお金を貸出しに回すか、債券や株式などで投資をすることで利益を得ています。つまり、預けられた資金の大部分は運用に回されており、銀行自身は資金を多く持っていないのです。そして貸出しに回したお金は、当然、借り手が期日まで借りることができる一方、預金はいつでも引き出せます。たとえ定期預金であっても、金利が低くなることを覚悟すれば、期日前でも引き出せます。そうすると何らかの理由で一気に預金の引き上げが起こった場合には、どの銀行も対応できないのです。取り付け騒ぎが起これば、ひとたまりもありません。
今回の危機の発端はインフレにより米国の中央銀行であるFRBが政策金利を急速に上昇させたことです。それにより、シリコンバレーバンクが保有する国債などの債券価格が急落し、危ないといううわさが流れ、それに加え、ハイテク企業への融資が多く、現状のテック企業への逆風もあり、取り付け騒ぎとなり、あえなく破綻したわけです。
「危ない」ということで取り付けが起こると、どんな銀行でももちこたえられません。もちろん、金融当局や政権は、銀行破綻の連鎖を食い止めようと必死になります。米国の場合だと、通常はFDICにより保護される預金は25万ドルですが、今回は無制限に保護すると発表しています。スイス政府はクレディスイスに対し、多額の資金支援をするとともに、スイスの大手銀行であるUBSによる買収を促しました。そうやって、金融危機の芽を早めに摘み取ろうとするのです。必死です。
しかし、現状は不安がすべて払しょくされたわけではなく、欧州ではドイツ銀行をはじめとし、多くの銀行の株価が大幅に下落しました。
そして、各銀行は、危機が進むと自行の資金確保のために、融資を削減するなどの対応策を取らざるをえなくなり、これが、一般企業の破綻につながることにもなりかねません。
現状、日本の金融機関に不安は小さく、そういうこともあり円が買われ少し円高に推移していますが、何度も言いますが、どの銀行でも取り付け騒ぎが起こると、ひとたまりもありません。とくにネット社会ではなおさらです。金融危機が起こらないことを心より願っています。