制度趣旨をどのように読みこむのか<深読み 最新税制レビューVol.5>

佐藤信祐事務所 所長 公認会計士・税理士 博士(法学)
佐藤 信祐 先生

2023/5/26
業界屈指の専門家である佐藤信祐先生が、さまざまな税制や組織再編等に関する新しい論点・最新情報、少しマニアックな税務トピック、判例裁決事例など、独自の視点で解説します。

法学部の授業ではそこまで強調されないものの、大学院に入ると常に一次文献を確認するという姿勢が強調されることが多い。組織再編税制の制度趣旨を理解する場合も同様であり、立案時の資料を常に確認する必要がある。

ここで留意が必要なのは、課税当局や実務の情報に精通していた者であったとしても、記憶違いが生じることがあり得ることから、退官後に語られた意見が、財務省主税局や国税庁の意見と一致しているとは限らないという点である。さらに、財務省主税局が立案時には想定していなかったことが、その後の運用で、国税庁が明確な解釈を打ち出すということも珍しいことではない。そのため、どのような著名な先生が発言した内容であったとしても、財務省主税局及び国税庁が公表した一次文献により、それが正しかったかどうかの検証を行う必要がある。

例えば、適格分社型分割を行った場合には、分割法人の保有する資産が帳簿価額で分割承継法人に移転することから、移転した資産に含み損がある場合には、分割法人が取得した分割承継法人株式と分割承継法人が取得した資産にそれぞれ含み損が生じることになる。このような二重の損失計上が好ましいことではないことはいうまでもないが、グループ内の適格組織再編成における支配関係継続要件の制度趣旨が二重の損失計上の防止であるという誤解にまで繋がっているという話を聞いたことがある。

これが明らかに誤りであることを示すものとして、藤田泰弘ほか「連結納税制度の見直しに関する法人税法等の改正」『令和2年度税制改正の解説』939頁(財務省HP、令和2年)では、「組織再編税制の適格要件は、移転資産に対する支配の継続を要件化したものであり、損失の2回控除の防止が目的ではありませんが、事業の継続見込みを適格要件とすることによって、結果的に損失の2回控除が起きる蓋然性が低くなっていると考えられます。」と解説されている。すなわち、二重の損失計上を軽減できる効果は期待できるものの、二重の損失計上を防ぐために支配関係継続要件を課したわけではないのである。

このような誤解を防ぐためには、常に一次文献に遡るという姿勢が必要になる。例えば、「結果的に損失の2回控除が起きる蓋然性が低くなっている」という文言が独り歩きすれば、支配関係継続要件の制度趣旨が二重の損失計上の防止であると誤解しても不思議ではない。しかし、一次文献に遡れば、それはあくまでも効果であって目的ではないということが理解できるはずである。

登録後送られる認証用メールをクリックすると、登録完了となります。

「税理士.ch」
メルマガ会員募集!!

会計人のための情報メディア「税理士.ch」。
事務所拡大・売上増の秘訣や、
事務所経営に役立つ選りすぐりの最新情報をお届けします。