繰越欠損金の引継制限<深読み 最新税制レビューVol.9>

佐藤信祐事務所 所長 公認会計士・税理士 博士(法学)
佐藤 信祐 先生

2023/9/25
業界屈指の専門家である佐藤信祐先生が、さまざまな税制や組織再編等に関する新しい論点・最新情報、少しマニアックな税務トピック、判例裁決事例など、独自の視点で解説します。

組織再編税制における繰越欠損金は金額的重要性が大きいことから、組織再編税制の基本的な骨格のひとつであるという誤解がある。もし、「税制適格要件に2つの判定があり、ひとつは法人税法2条、もうひとつは同法57条3項だ」という発言があれば、明らかに誤りである。「税制適格要件の実質的な要件として支配関係が5年間継続している必要がある」という発言があれば、それも明らかに誤りである。

なぜなら、組織再編税制における税制適格要件とは、移転資産に対する支配が継続しているかどうかという要件であり、法人税法2条以外には定められてはいないからである。それでは、同法57条3項に規定されている繰越欠損金の引継制限とは何かといえば、単なる租税回避防止規定に過ぎない。そして、同法57条2項に定められている繰越欠損金の引継ぎについても、移転資産に対する支配が継続していることが理由に過ぎないことから(朝長英樹『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』34頁(日本租税研究協会、平成13年))、取得価額、取得年月日及び耐用年数の全てをそのまま引き継ぐこととされている減価償却資産の取扱いと全く同じ趣旨によるものである。すなわち、組織再編税制における繰越欠損金については実務上の重要性が高いものの、理論的な枠組みという意味では、棚卸資産、減価償却資産、外国税額控除といった個別項目のひとつに過ぎないといえる。

この点を示す資料として、政府税制調査会「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」(平成12年)、朝長英樹ほか「平成13年版改正税法のすべて」がある。「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」では、別紙における「法人税における諸制度の基本的な取扱い」に繰越欠損金の取扱いが列挙されているに過ぎず、制度の基本的な枠組みには登場してこない。「平成13年版改正税法のすべて」でも、「個別制度における組織再編成に係る取扱い」に列挙されているに過ぎない。このような説明の仕方になっていることから、組織再編税制の体系上、法人税法57条2項に定められている繰越欠損金の引継ぎ、同条3項に定められている繰越欠損金の引継制限は、いわゆるモブキャラ(脇役)に過ぎないことがわかる。

このような誤解を避けるためには、立案時の資料に遡る必要がある。なかなか実務が忙しいとそこまで手が回らないが、時間に余裕があるときに、少し実務のことを忘れて、制度の全体像をアカデミックに把握しておくことは、租税法を理解するうえで重要であることから、そのような時間を作るように努めていただきたい。

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