非上場株式の評価<深読み 最新税制レビューVol.11>

佐藤信祐事務所 所長 公認会計士・税理士 博士(法学)
佐藤 信祐 先生

2023/11/24
業界屈指の専門家である佐藤信祐先生が、さまざまな税制や組織再編等に関する新しい論点・最新情報、少しマニアックな税務トピック、判例裁決事例など、独自の視点で解説します。

会社法上、株式会社が発行している非上場株式の評価が問題となる場面として、譲渡制限株式の売買、第三者割当て、スクイーズアウト及び組織再編成の4つが挙げられる。それぞれ適用される法規が異なることから、裁判例でも異なる株式価値が算定されている。

これに対し、租税法の観点からは、株主が法人であるのか個人であるのかによって、非上場株式の評価についての取扱いが異なる。さらに、会社法の観点からすれば、ひとつの時価を決定する必要があるが、租税法の観点からは、譲渡人と譲受人の時価が異なることも考えられる。

このように、実務上、非上場株式の評価は、会社法と租税法の両方の観点からの検討が必要となる。このうち、租税法上の評価については、財産評価基本通達に定めがあることから、その内容を解説している文献が多いものの、会社法上の評価については、解説している文献がほとんどなかったため、非上場株式における会社法上の評価をまとめるために、慶應義塾大学大学院法学研究科に進学し、平成29年に博士号を取得することができた。

しかしながら、博士論文では、具体的な評価方法についての詳細な分析をほとんど行わなかった。たとえば、DCF法において、取引目的の株式評価と裁判目的の株式評価で同一のWACC(加重平均資本コスト)を用いることができるのかという点は検討していない。そして、時価純資産法において、資産除去債務や繰延税金資産及び負債をどのように考慮すべきかという点についてもほとんど検討していない。そのほか、種類株式、属人的株式の評価方法、新株予約権の評価方法など、今後の裁判例が積み重なっていけば、当然に研究をすべき分野も残されている。

このように、博士論文といっても、その分野を極めたものというわけではなく、その分野の発展にわずかながらも貢献したものに過ぎない。大学教授の人達にとっても、博士論文は研究者になるためのパスポートという程度の意味合いしかなく、博士論文を土台として研究を重ねていく人も少なくない。実務家の立場からすれば、研究を続けた結果として得られる学位に過ぎないことから、それほど博士号の取得のハードルが高いわけではない。

もし、博士号の取得に興味があるのであれば、会計や租税法ではなく、会社法で博士号を取得することも検討されたらどうだろうか。会計やファイナンスの知識が必要な分野であれば、会社法の学者に比べて税理士のほうが有利であることも多いため、博士論文が書きやすいように感じている。

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